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14.時期と判断

時期と判断③

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 その安らかな顔を見るのが片倉の最近の楽しみでもあるが。
「もう少し、頑張ってみない? 大事にする。愛しているから。浅緋」

 目を閉じている浅緋の額と頬にそっと指を滑らせた後に唇でたどった。



 その数日後の事だ。
 浅緋がマンションに帰ってきたら、寝室のベッドの上に、小さな可愛いクマのぬいぐるみが置いてあったのだ。

 ──クマ…?

 近寄って見てみるとクマはきらきらと光るネックレスを手に持っている。
 綺麗な一粒ダイヤで常時つけていることもできそうな、シンプルなデザインのものだ。

 きっとこれはプレゼントなのだろうということは、浅緋にも分かる。
 早速つけてみると、デコルテに綺麗に映えるデザインだった。

 片倉は一緒にいても、浅緋に支払いさせることはないし、この前のデートでも、浅緋の選んだものを買いたいという意識が片倉にはあるようなのだ。

 そんな中、このネックレスは浅緋が欲しいといったわけではなく、片倉が贈りたい、と思ったのだろうと、浅緋は察する。
 であれば、お礼を言ってつけるのが礼儀だ。

 この日いつものようにお風呂に入ったあと、浅緋は片倉が帰ってくるのを待った。

 かちゃかちゃ、と玄関で音がしてそっとドアが開く。
 浅緋も寝室のドアをそっと開けた。

「お帰りなさい」
「浅緋、今日は起きていてくれたの? ただいま」
 そう言って片倉は浅緋をそっと抱き寄せて額にキスをする。

「あれ? ネックレスは?」
「お風呂に入るのに外したんです」

「僕もお風呂に入ってくるから待っててくれる? 付けているところを見たいから」
「はい」

 お礼を言わなくては、と思ったのに言いそびれてしまった。
 浅緋はお風呂から上がってくる片倉をベッドの上で座って待つ。

「今日はプレゼントがあったから、待っててくれた?」
 仕事仕様ではない髪を降ろした片倉が、ふわりとボディソープの香りをさせて寝室に入ってくる。

 それはまさに大人の男性の色気が溢れんばかりで、浅緋は戸惑ってしまった。

「あ、お礼を言いたくて。とても綺麗なネックレスをありがとうございます」
「うん」

 片倉がベッドで隣に座るので、浅緋はどきん、としてしまう。
 この距離にすら、ドキドキしてしまうのだ。

「付けてみたんだ。どうだった?」
「すごく素敵でした」
「僕が付けてもいい?」

 先程のクマに掛けておいたネックレスを片倉は手に取って、浅緋に向き直る。

「はいっ」
 くるりと浅緋は後ろを向いた。

 片倉の手がそっと首の後ろの髪を避けるのが分かる。時折首に触れる指に、浅緋は鼓動が大きくなるのを感じた。

 さらりと首にネックレスがかけられて、首の後ろで金具を止めている気配がした。
 時間にしても大した時間ではないはずなのに、妙に長く浅緋には感じたのだ。

「よし、できた」
 片倉はいつもと変わらない声なのに。
 自分1人がこんな風にドキドキしてしまうのだろうか。

「こっち向いて見せて?」
 浅緋は大きく響く自分の鼓動の音を感じながら、片倉の方を向いた。

 片倉が浅緋の首元に手を伸ばす。
 そうして、ネックレスに触れた。
 とても優しい顔で浅緋を見つめている。

「うん。シンプルだけど、綺麗だな。浅緋にとても似合う。ずっと付けてくれたら嬉しいな」
「はい。もちろんです」

 触れているのはネックレスのはずなのに、首元をくすぐるように触れる片倉の指に、浅緋は戸惑う気持ちを必死で抑えていたのだ。

 ──ネックレス付けて頂くのって、こんなにドキドキするものですか!?

「浅緋」
「はい」
「お礼をしてくれる?」

 慎也さんからのおねだりだわ!

 いつも浅緋に何かを与えよう、与えようとする片倉から、何かを欲しいと言われることは初めてで、浅緋はとても嬉しくなった。
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