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13.ふたりの休日

ふたりの休日⑤

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 片倉がふと顔をあげると、確かに本屋の店舗につながって雑貨を取り扱っている店が見えた。

 重い本を片倉は持ってくれて、浅緋は申し訳ないような、嬉しい気持ちになった。
 雑貨屋の店頭では可愛らしい加湿器がたくさん並んでいる。

 片倉の家にはスタイリッシュで何万もするような最新の空気清浄機付きの加湿器があるので不要ではあるのだが、つい、その可愛らしさに、浅緋は足を止めてしまった。

「アヒルです……」
「アヒルだな。しかも頭から湯気が出てる……」
 片倉が真面目な顔でそんなことを言うので、浅緋は笑ってしまった。

「本当。なんで頭なんでしょうね? 可愛いけれども」
「欲しいの?」
「いいえ。あのお部屋には合いませんもの。でも、可愛いわ」

「あ、あのコーヒーメーカー面白いな」
「本当だわ。すごくおしゃれですね。あ……そうだわ。見たいものがありました」

「何?」
「エプロンとランチョンマットの予備が欲しいなって思っていて」
「それは買おう」

 浅緋のエプロン姿など見たいに決まっているからだ。

 2人でいくつか見ていて、最終的に花柄のものとパステルカラーの大きなシャボン柄のもので、浅緋は迷っていた。

「浅緋、両方買ったら。洗い替え用にしても困らないものだから」
「はい」
 それも片倉がさっと手にしてしまう。

「え? あの慎也さん!」
「家のものなんだから、僕が買うに決まっているよね?」

「あの、ありがとうございます」
「着て見せてくれたら、それでいいよ」
「もちろんです!」

 笑顔が可愛い。
 もう、今すぐ帰って着て見せてほしい。

 夜は本屋が入っている駅前の複合ビルの上にあるレストランで食事をして、帰ることにした。

「慎也さん……」
「ん?」

「ありがとうございます。いろいろ買っていただいてしまったし、それにとても楽しかったです」
「僕もだよ」

 浅緋は今まで、片倉とのことは政略結婚だと言われ続け、一時は諦めかけていた関係だった。
 けれども一旦それを白紙にして、自分たちで婚約を決め、そして今日は片倉からデートに誘ってもらったのだ。

 浅緋にとっては初めての経験だったけれども、とてもとても楽しかった。

 本屋や雑貨屋なんて、片倉はくだらないって思うかもしれないと言い出しづらかったけれど、片倉は一緒に楽しんでくれた。

 一緒に本を買って、エプロンを選んでくれて、この人とずっと一緒にいたい、と強く思ったのだ。
 浅緋のために一緒に楽しんでくれる人。

 レストランの大きな窓からは、夜景が綺麗に見えていた。

「慎也さん……」
「なに?」
「ずっと一緒にいたいです」

 一瞬目を見開いた片倉が、ふわりと笑って、ぽんと浅緋の頭を撫でる。
「ずっと、一緒にいましょうね」

「ずっとです」
「うん」

 ずっとはずっと、だ。
 子供が出来ても……、歳を重ねても。

 片倉は嬉しい気持ちではあったけれど、浅緋の真意を測りかねていた。

 ずっと、と言ってもらえるのはとても嬉しいし、自分はもとよりそのつもりだ。

 何なら、本当に浅緋以外はいらないし、世の中が全員浅緋だったらいいのにくらい思っている。

 しかし、今の問題はそこにはない。
 ずっとってまるでプロポーズのようだけれど、それは……。

 それは……⁉︎
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