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12.特別な存在
特別な存在④
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『おそらくは浅緋は片倉の雰囲気は嫌いではないはずだ』という園村の予想はここでも当たっていたわけだ。
一方で嫌われていない、むしろ『お慕いしている』なんて、らしくて可愛らしい浅緋の告白を受け、ファーストキスは失敗だったかもしれないけれど、セカンドキスは成功だっだろうと思った片倉は幸せをかみしめていた。
どれだけでもその気持ちに応えたい気分だ。
だから、片倉は浅緋の言葉を待っていたのだが。
先ほどから真っ赤になって、なかなか言葉を発することが出来ない浅緋をずっと抱きしめていて、いつまでもこのままでいても、いいくらいだと片倉は思う。
おとなしくて、父親の言いなりになっていただろう女性が、きっととんでもない勇気を出して婚約を破棄し、さらに自分の意志で片倉を好きなのだと言ってくれたのだ。
そして、改めてプロポーズに応えてくれた。
その間、片倉はその父親の遺書を盾に彼女を束縛するようなことをしていたのに、だ。
その想いを考えたら、どこまででも幸せにしたいし、大事にしたい。
片倉は今はただ、ひたすらにその気持ちに満たされていた。
──朝までこうやって抱きしめていても構わないんだがな。
満たされるというのは、こういうことなんだな、と腕の中の浅緋を感じて思う。
「し……っ」
「うん?」
浅緋は自分がこれから言おうとしていることが、あまりにもはしたないのではないか、とか、せっかく好きと言ってもらえたのに呆れられたらどうしようと思うと、なかなか言葉を発することが出来なかったのだ。
浅緋のお願いは、片倉と寝室を一緒にしてもらうことだった。
池田に相談してから、ずっとずっと気になっていた。
なにが起こるのかは正直ピンときていないのかもしれない。
それでも、こうして想いを通じ合わせることが出来て、その時には真っ先に言おうと思っていたのだ。
「寝室を……ご一緒してほしいんです」
片倉はくらりとした。
──意味が分かって言っているのだろうか?
いや、おそらくその意味のほとんどを浅緋は理解していないと思われる。
そんなことを言っておきながら、無垢な瞳で片倉を見つめてくるのだから、それは分かる。
しかし、改めて婚約も継続すると浅緋が言っている以上確かに、回避はできないことだ。
「いいんですか? 意味分かって言ってる?」
「あの、正直なにが起こるのかは分かっていないんです。でも、そうしたいんです」
「浅緋さん」
名前を呼ばれた浅緋は改めて片倉をしっかり見つめた。
こんな風にこんなに近くで、誰かと見つめ合うことはしたことがなかったけれど、それがとても大好きな人で、婚約者ならそういうこともあるのだと浅緋にも、もう分かったから。
「大事にします」
片倉の真摯な顔が好きだ。
それだけではなくて、よく響く声も。
今までだって大事にされていた。
それも、浅緋には分かったから。
「はい。あの、慎也さん」
「ん?」
「私も大事にしますから」
浅緋は片倉にぎゅっと抱きしめられる。
「本当に、あなたって人は……」
今までは父が守ってくれていた。
その庇護をなくして、これからは自分で立たなくてはいけない。
浅緋はそう思ったのだ。
困った時は困っている、と言うと助けてくれる人が回りにいると知った。
槙野や、池田や、そしてもちろん片倉も。
けど、浅緋が大事に大切にしたいのは片倉なのだ。
片倉だけが、浅緋にとって特別なのだ。
浅緋は片倉の背に手を回して、ぎゅっと抱きついた。
桜の木が2人を見守ってくれているように、浅緋には感じた。
一方で嫌われていない、むしろ『お慕いしている』なんて、らしくて可愛らしい浅緋の告白を受け、ファーストキスは失敗だったかもしれないけれど、セカンドキスは成功だっだろうと思った片倉は幸せをかみしめていた。
どれだけでもその気持ちに応えたい気分だ。
だから、片倉は浅緋の言葉を待っていたのだが。
先ほどから真っ赤になって、なかなか言葉を発することが出来ない浅緋をずっと抱きしめていて、いつまでもこのままでいても、いいくらいだと片倉は思う。
おとなしくて、父親の言いなりになっていただろう女性が、きっととんでもない勇気を出して婚約を破棄し、さらに自分の意志で片倉を好きなのだと言ってくれたのだ。
そして、改めてプロポーズに応えてくれた。
その間、片倉はその父親の遺書を盾に彼女を束縛するようなことをしていたのに、だ。
その想いを考えたら、どこまででも幸せにしたいし、大事にしたい。
片倉は今はただ、ひたすらにその気持ちに満たされていた。
──朝までこうやって抱きしめていても構わないんだがな。
満たされるというのは、こういうことなんだな、と腕の中の浅緋を感じて思う。
「し……っ」
「うん?」
浅緋は自分がこれから言おうとしていることが、あまりにもはしたないのではないか、とか、せっかく好きと言ってもらえたのに呆れられたらどうしようと思うと、なかなか言葉を発することが出来なかったのだ。
浅緋のお願いは、片倉と寝室を一緒にしてもらうことだった。
池田に相談してから、ずっとずっと気になっていた。
なにが起こるのかは正直ピンときていないのかもしれない。
それでも、こうして想いを通じ合わせることが出来て、その時には真っ先に言おうと思っていたのだ。
「寝室を……ご一緒してほしいんです」
片倉はくらりとした。
──意味が分かって言っているのだろうか?
いや、おそらくその意味のほとんどを浅緋は理解していないと思われる。
そんなことを言っておきながら、無垢な瞳で片倉を見つめてくるのだから、それは分かる。
しかし、改めて婚約も継続すると浅緋が言っている以上確かに、回避はできないことだ。
「いいんですか? 意味分かって言ってる?」
「あの、正直なにが起こるのかは分かっていないんです。でも、そうしたいんです」
「浅緋さん」
名前を呼ばれた浅緋は改めて片倉をしっかり見つめた。
こんな風にこんなに近くで、誰かと見つめ合うことはしたことがなかったけれど、それがとても大好きな人で、婚約者ならそういうこともあるのだと浅緋にも、もう分かったから。
「大事にします」
片倉の真摯な顔が好きだ。
それだけではなくて、よく響く声も。
今までだって大事にされていた。
それも、浅緋には分かったから。
「はい。あの、慎也さん」
「ん?」
「私も大事にしますから」
浅緋は片倉にぎゅっと抱きしめられる。
「本当に、あなたって人は……」
今までは父が守ってくれていた。
その庇護をなくして、これからは自分で立たなくてはいけない。
浅緋はそう思ったのだ。
困った時は困っている、と言うと助けてくれる人が回りにいると知った。
槙野や、池田や、そしてもちろん片倉も。
けど、浅緋が大事に大切にしたいのは片倉なのだ。
片倉だけが、浅緋にとって特別なのだ。
浅緋は片倉の背に手を回して、ぎゅっと抱きついた。
桜の木が2人を見守ってくれているように、浅緋には感じた。
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