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9.優しくて悲しいこと
優しくて悲しいこと②
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「あははー。ご相談の内容はね、難しいけれど頼りにしてもらえたのは、本当に嬉しいから私も考えてみるね」
「池田さん、ありがとう」
思い切って言って良かったと浅緋は思った。
笑顔で頼ってくれて嬉しいと言ってくれることこそが、嬉しい。
「華、でいいよ。私も浅緋ちゃんって呼んでいいかな?」
「華さん。はい! ぜひ私もそう呼んでいただけたら、嬉しいです」
「あと敬語もなし! 年も同じなんだしタメで行こう!」
「はい……あ、うん」
「ま、ちょっとずつ、ね。で、お悩みは寝室が一緒じゃないってこと? それって、一緒に住んでいて、結婚も決まっていて、寝室が別ってことなの?」
「うん……」
池田が考えた選択肢は2つあった。
1つは浅緋を大事に思っているから、浅緋のペースに合わせようとしてくれていること。
けれどもし、浅緋に対して気持ちがあるのだとすると、それは男性として相当な忍耐を強いられている、ということになる。
一緒に暮らしているのに、手を出せる状況なのに、寝室は別なのだ。
そして、考えられるもう1つの可能性は、浅緋に対しての気持ちはない、ということだ。
社内では、浅緋の結婚は片倉が会社を自分のものにするがための人質的な、いわば政略結婚なのではないかと言う向きもある。
もしも後者ならばそれは浅緋には残酷すぎる。
しかし、である。
昨日の槙野社長の様子からするに、社長は片倉の気持ちを汲んであの場所に現れ、浅緋をさらったのだと思われた。
であるならば、気持ちがない、ということはないのではないか、という結論に池田は達する。
──多分その結論は間違ってはいないと思う。
今だって、こんな風に悩んでいる浅緋の風情はとても綺麗なのだから。
片倉だってきっと惹かれているはずだ、とは思うけれど。
池田は迷ってしまった。
それって、私が言うことではないような……。
そもそも、片倉がどんな人物か分からない。
もしかしたら、浅緋を手玉に取ってしまうような人物かもしれないし、槙野社長は片倉の意を汲んでいたとしても、人質的に束縛しているかもしれないことを未だ否定はできないのだし。
「いつものお2人がどんな感じか分からないけれど……」
池田がそう言うと、浅緋は説明しようと口を開こうとして、迷っている。
浅緋が照れたような様子で、少し俯くのを見て、池田は胸がきゅん、とする。
浅緋さん、可愛いっ。
あー、片倉さんのこと、大好きなんだろうなぁ。
そんなことが伝わってくるような仕草だ。
一方の浅緋は胸がとてもドキドキしていた。
自分の打ち明け話などあまりしたことはない。
すごいわ、みんなこんなに緊張しながらお話してくれていたのね。
……そうでもないはずだが、人見知りがコミュ障一歩手前までいきかけている浅緋のことなので、そんな風に考えてしまうのも仕方のないことなのだろう。
それでも、決意をして浅緋は口を開く。
「あのっ……、片倉さんはとても優しいんです」
「うん」
それはさっき聞いたけどねっ!
一生懸命、浅緋が話そうとしてくれているのは分かるので、池田は急かすことはせずに笑顔を向けた。
頑張れっ!浅緋ちゃん!!
「と、とっても忙しくて、夜は帰りが遅いんです」
「あー、そうだよねぇ」
通常は金融機関が行うような業務をしている片倉の会社なのだ。
大きなお金が動くこともあるだろうし、その緊張感や繁忙度は計り知れない。
「池田さん、ありがとう」
思い切って言って良かったと浅緋は思った。
笑顔で頼ってくれて嬉しいと言ってくれることこそが、嬉しい。
「華、でいいよ。私も浅緋ちゃんって呼んでいいかな?」
「華さん。はい! ぜひ私もそう呼んでいただけたら、嬉しいです」
「あと敬語もなし! 年も同じなんだしタメで行こう!」
「はい……あ、うん」
「ま、ちょっとずつ、ね。で、お悩みは寝室が一緒じゃないってこと? それって、一緒に住んでいて、結婚も決まっていて、寝室が別ってことなの?」
「うん……」
池田が考えた選択肢は2つあった。
1つは浅緋を大事に思っているから、浅緋のペースに合わせようとしてくれていること。
けれどもし、浅緋に対して気持ちがあるのだとすると、それは男性として相当な忍耐を強いられている、ということになる。
一緒に暮らしているのに、手を出せる状況なのに、寝室は別なのだ。
そして、考えられるもう1つの可能性は、浅緋に対しての気持ちはない、ということだ。
社内では、浅緋の結婚は片倉が会社を自分のものにするがための人質的な、いわば政略結婚なのではないかと言う向きもある。
もしも後者ならばそれは浅緋には残酷すぎる。
しかし、である。
昨日の槙野社長の様子からするに、社長は片倉の気持ちを汲んであの場所に現れ、浅緋をさらったのだと思われた。
であるならば、気持ちがない、ということはないのではないか、という結論に池田は達する。
──多分その結論は間違ってはいないと思う。
今だって、こんな風に悩んでいる浅緋の風情はとても綺麗なのだから。
片倉だってきっと惹かれているはずだ、とは思うけれど。
池田は迷ってしまった。
それって、私が言うことではないような……。
そもそも、片倉がどんな人物か分からない。
もしかしたら、浅緋を手玉に取ってしまうような人物かもしれないし、槙野社長は片倉の意を汲んでいたとしても、人質的に束縛しているかもしれないことを未だ否定はできないのだし。
「いつものお2人がどんな感じか分からないけれど……」
池田がそう言うと、浅緋は説明しようと口を開こうとして、迷っている。
浅緋が照れたような様子で、少し俯くのを見て、池田は胸がきゅん、とする。
浅緋さん、可愛いっ。
あー、片倉さんのこと、大好きなんだろうなぁ。
そんなことが伝わってくるような仕草だ。
一方の浅緋は胸がとてもドキドキしていた。
自分の打ち明け話などあまりしたことはない。
すごいわ、みんなこんなに緊張しながらお話してくれていたのね。
……そうでもないはずだが、人見知りがコミュ障一歩手前までいきかけている浅緋のことなので、そんな風に考えてしまうのも仕方のないことなのだろう。
それでも、決意をして浅緋は口を開く。
「あのっ……、片倉さんはとても優しいんです」
「うん」
それはさっき聞いたけどねっ!
一生懸命、浅緋が話そうとしてくれているのは分かるので、池田は急かすことはせずに笑顔を向けた。
頑張れっ!浅緋ちゃん!!
「と、とっても忙しくて、夜は帰りが遅いんです」
「あー、そうだよねぇ」
通常は金融機関が行うような業務をしている片倉の会社なのだ。
大きなお金が動くこともあるだろうし、その緊張感や繁忙度は計り知れない。
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