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8.イヌのきもち
イヌの気持ち④
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上手くいかないものだな……と思うとため息が出る。
そんなことを考えながら、ミーティングから帰ってきたら、ふと、浅緋の声が耳に入り、槙野は足を止めてしまった。
「片倉さん?」
と囁きかけるような声がとても甘かったので。
普段から確かに浅緋は誰に対しても優しいけれど、そんな甘い声は聞いたことがない。
浅緋が物陰で電話をしていたのだ。
なんだ、上手くいってるんだなと思ったし、あの2人がどんな会話をしているのかも興味があった。
普段、浅緋は槙野には怯えてしまって、会話も少ないのだからなおさらだ。
だから、立ち聞きはいけないと思いながらも思わず足を止めてしまったのだ。
「今日は、お友達がお夕飯に誘ってくださったんです。あの、帰りに食事をしていってもいいですか?」
外出のための許可を取っているようだった。
槙野は今まで片倉が、お付き合いしている女性に対して束縛しているところを見たことがない。
お互いにお互いのペースで、というのが片倉のスタンスなのだ。
これは、浅緋がきちんとしているのか、片倉が大事にしているのか?
──両方か……
電話の向こうで片倉が何か言ったらしく、
「……っ。大丈夫です、たぶん」
と言う浅緋の慌てた声が聞こえた。
ふと見えてしまった浅緋の横顔は、今まで槙野には見せたことのない顔だ。
ふわりと頬を染めて電話を握りしめて、電話の向こうの片倉の言葉の一言も聞き漏らさないようにしている。
ま、仲良いのは良いことだよな。
槙野は少しだけ複雑な気持ちでその場を離れた。
それは、親友を取られた寂しさなのだろうな、と槙野は自分の気持ちを分析していた。
槙野の帰りがけに、会社で見たことのある数人が歩いているのを見たのは偶然だ。
その中に浅緋がいた。
入っていった店を見て、ああ、昼間に言っていたのはこの店なのかと思ったくらいだ。
ただ、見過ごせなかったのは、そこに男性社員が合流したように見えたからである。
そのまま放っておくこともできたが……。
「くそっ……」
しばらく見ていると、やはり浅緋達の席に男性が合流した。
浅緋はひどく戸惑っている様子だった。
槙野は片倉と連絡を取る。
「お嬢は今日は外食か?」
『会社の友人と食事と聞いているけれど?』
「男も同席してるぞ。よく分からないが、大丈夫なのか? お前達は」
電話の向こうがしん、とする。
そして、低い声が聞こえてきたのだ。
『動けるか?』
「構わないが、俺はお前の犬じゃない」
『頼む。嫉妬で頭がおかしくなりそうなんだ』
喉の奥から絞り出したような声は聞いたことがない。
そこまでかよ、と槙野は思う。
そんなに大事なら人任せにせずに閉じ込めてでもしておけばいいのに。
片倉の財力ならば、それが可能なのに。
槙野からしてみれば、浅緋に片倉がそこまでさせる何があるのか、全く分からない。
槙野にとって、浅緋は箱入りで、もの知らずなお嬢様としか思えない。優しいのは厳しさを知らないからだ。
優しいものだけに包まれてきたからこそ、身についたもの。
それは周りにどれほど守られて、恵まれていることなのか、本当に本人は分かっているのだろうか。
そう思うと、腹立たしい気持ちになってきた。
こんな会、ぶち壊しになっても知るか。
そんなことを考えながら、ミーティングから帰ってきたら、ふと、浅緋の声が耳に入り、槙野は足を止めてしまった。
「片倉さん?」
と囁きかけるような声がとても甘かったので。
普段から確かに浅緋は誰に対しても優しいけれど、そんな甘い声は聞いたことがない。
浅緋が物陰で電話をしていたのだ。
なんだ、上手くいってるんだなと思ったし、あの2人がどんな会話をしているのかも興味があった。
普段、浅緋は槙野には怯えてしまって、会話も少ないのだからなおさらだ。
だから、立ち聞きはいけないと思いながらも思わず足を止めてしまったのだ。
「今日は、お友達がお夕飯に誘ってくださったんです。あの、帰りに食事をしていってもいいですか?」
外出のための許可を取っているようだった。
槙野は今まで片倉が、お付き合いしている女性に対して束縛しているところを見たことがない。
お互いにお互いのペースで、というのが片倉のスタンスなのだ。
これは、浅緋がきちんとしているのか、片倉が大事にしているのか?
──両方か……
電話の向こうで片倉が何か言ったらしく、
「……っ。大丈夫です、たぶん」
と言う浅緋の慌てた声が聞こえた。
ふと見えてしまった浅緋の横顔は、今まで槙野には見せたことのない顔だ。
ふわりと頬を染めて電話を握りしめて、電話の向こうの片倉の言葉の一言も聞き漏らさないようにしている。
ま、仲良いのは良いことだよな。
槙野は少しだけ複雑な気持ちでその場を離れた。
それは、親友を取られた寂しさなのだろうな、と槙野は自分の気持ちを分析していた。
槙野の帰りがけに、会社で見たことのある数人が歩いているのを見たのは偶然だ。
その中に浅緋がいた。
入っていった店を見て、ああ、昼間に言っていたのはこの店なのかと思ったくらいだ。
ただ、見過ごせなかったのは、そこに男性社員が合流したように見えたからである。
そのまま放っておくこともできたが……。
「くそっ……」
しばらく見ていると、やはり浅緋達の席に男性が合流した。
浅緋はひどく戸惑っている様子だった。
槙野は片倉と連絡を取る。
「お嬢は今日は外食か?」
『会社の友人と食事と聞いているけれど?』
「男も同席してるぞ。よく分からないが、大丈夫なのか? お前達は」
電話の向こうがしん、とする。
そして、低い声が聞こえてきたのだ。
『動けるか?』
「構わないが、俺はお前の犬じゃない」
『頼む。嫉妬で頭がおかしくなりそうなんだ』
喉の奥から絞り出したような声は聞いたことがない。
そこまでかよ、と槙野は思う。
そんなに大事なら人任せにせずに閉じ込めてでもしておけばいいのに。
片倉の財力ならば、それが可能なのに。
槙野からしてみれば、浅緋に片倉がそこまでさせる何があるのか、全く分からない。
槙野にとって、浅緋は箱入りで、もの知らずなお嬢様としか思えない。優しいのは厳しさを知らないからだ。
優しいものだけに包まれてきたからこそ、身についたもの。
それは周りにどれほど守られて、恵まれていることなのか、本当に本人は分かっているのだろうか。
そう思うと、腹立たしい気持ちになってきた。
こんな会、ぶち壊しになっても知るか。
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