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6.一瞬の邂逅
一瞬の邂逅④
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筆跡の一つ一つを慈しむように、確認するように目で追っていることが分かった。
だからこそ、読み終わった後に奥さんが涙ぐんでいたことも分かる。
「片倉さんはこの内容についてご存知なのね」
顔を上げ、そう片倉に確認した時には何かすでに決心しているように見えた。
「はい。園村社長は僕の目の前でそれをお書きになったので。入院されたと聞いて、お見舞いに伺った時でした。君、書くものはあるか、と言われてメモ代わりに持っていたレポート用紙をお渡ししました」
あの時のことを思い出し、状況が伝わるように、極力ゆっくりと片倉は話した。
その後は奥さんは、意外なほどに淡々と今後の事を片倉に伝えたところはさすがにあの園村の奥さんなのだと感じた。
そうして、しばらく考えている様子だったが、ゆっくり口を開いた。
「ええ。浅緋ちゃん、あなたはこちらの方にお嫁に行きなさい」
浅緋は思ってもみないことを突然言われて、目を見開いて、片倉を真っ直ぐ見ていた。
初めて見た素の顔だ。
そうして片倉は初めて彼女の瞳に捉えられた。
園村の病室で初めて写真を見たときから、この人が自分に微笑んでくれたら、と思っていた。
けれど笑顔じゃなくても、こんな素の顔でも全く構わないと、その時片倉は思ったのだ。
その後は会社経営に関する譲渡の件や、相続の件で片倉は対応を進めた。
そんな中で、片倉は奥さんに浅緋のことをくれぐれも頼むと言われたのだ。
諸々の手続きが落ち着きかけた頃、その日浅緋はお使いに出ていて不在だった。
客間で園村に手を合わせさせてもらった後、奥さんからお茶をいかが、と誘われたのだ。
きっと話したいこともあるだろうと思ったし、自分はついテキパキ物事を進めすぎるところがある。
それで不信感を持たれても意味がないので、喜んでと片倉はにっこり笑った。
「あの人はとても面倒見のいい人だったんですけど……」
「そうですね」
縁側のような場所で、薫り高い紅茶を淹れてもらう。
そこからは、あの桜の木が見えた。
浅緋が職人さんに切っちゃダメ!と泣いて頼んだというあの木。
両手を広げて笑顔を浮かべていた、あの木だ。
「誰かにお願いしたり、信頼することはとても苦手な人だったんですのよ」
奥さんの声に片倉は意識をこちらに戻す。
そうかもしれない。
園村は自分の没後のことにまで配慮するような人だ。
「でも、あなたのことはとても信頼していたのね。こんな風にいろいろと丁寧に対応してくださって、感謝しています」
奥さんはそっと片倉に頭を下げた。
片倉はこんな風に改めてお礼を言われるとは思わなかったので、少し戸惑う。
「いえ。事業のことはお任せいただいても問題ないと思います。うちのスタッフの中でも特に優秀な人材を送る予定にしていますし、どんな形を取るにせよ、奥様と浅緋さんは必ずお守りします」
「そうですの。ところで……今度、浅緋をお食事に誘っていただいたのですって?」
来週にでも浅緋に時間を貰うようにお願いはしていた。
先日、それにも快く了承してもらったばかりだ。
「はい。そろそろ落ち着いた頃合かとも思いましたし、僕と全く話もしていないのでは、浅緋さんもご不安でしょう」
「片倉さんはお優しいのね」
奥さんは微笑ましげに片倉を見て、そうっと笑う。
「どうでしょうか」
にこりと笑顔を返した片倉に、奥さんは軽く目を開いた。
だからこそ、読み終わった後に奥さんが涙ぐんでいたことも分かる。
「片倉さんはこの内容についてご存知なのね」
顔を上げ、そう片倉に確認した時には何かすでに決心しているように見えた。
「はい。園村社長は僕の目の前でそれをお書きになったので。入院されたと聞いて、お見舞いに伺った時でした。君、書くものはあるか、と言われてメモ代わりに持っていたレポート用紙をお渡ししました」
あの時のことを思い出し、状況が伝わるように、極力ゆっくりと片倉は話した。
その後は奥さんは、意外なほどに淡々と今後の事を片倉に伝えたところはさすがにあの園村の奥さんなのだと感じた。
そうして、しばらく考えている様子だったが、ゆっくり口を開いた。
「ええ。浅緋ちゃん、あなたはこちらの方にお嫁に行きなさい」
浅緋は思ってもみないことを突然言われて、目を見開いて、片倉を真っ直ぐ見ていた。
初めて見た素の顔だ。
そうして片倉は初めて彼女の瞳に捉えられた。
園村の病室で初めて写真を見たときから、この人が自分に微笑んでくれたら、と思っていた。
けれど笑顔じゃなくても、こんな素の顔でも全く構わないと、その時片倉は思ったのだ。
その後は会社経営に関する譲渡の件や、相続の件で片倉は対応を進めた。
そんな中で、片倉は奥さんに浅緋のことをくれぐれも頼むと言われたのだ。
諸々の手続きが落ち着きかけた頃、その日浅緋はお使いに出ていて不在だった。
客間で園村に手を合わせさせてもらった後、奥さんからお茶をいかが、と誘われたのだ。
きっと話したいこともあるだろうと思ったし、自分はついテキパキ物事を進めすぎるところがある。
それで不信感を持たれても意味がないので、喜んでと片倉はにっこり笑った。
「あの人はとても面倒見のいい人だったんですけど……」
「そうですね」
縁側のような場所で、薫り高い紅茶を淹れてもらう。
そこからは、あの桜の木が見えた。
浅緋が職人さんに切っちゃダメ!と泣いて頼んだというあの木。
両手を広げて笑顔を浮かべていた、あの木だ。
「誰かにお願いしたり、信頼することはとても苦手な人だったんですのよ」
奥さんの声に片倉は意識をこちらに戻す。
そうかもしれない。
園村は自分の没後のことにまで配慮するような人だ。
「でも、あなたのことはとても信頼していたのね。こんな風にいろいろと丁寧に対応してくださって、感謝しています」
奥さんはそっと片倉に頭を下げた。
片倉はこんな風に改めてお礼を言われるとは思わなかったので、少し戸惑う。
「いえ。事業のことはお任せいただいても問題ないと思います。うちのスタッフの中でも特に優秀な人材を送る予定にしていますし、どんな形を取るにせよ、奥様と浅緋さんは必ずお守りします」
「そうですの。ところで……今度、浅緋をお食事に誘っていただいたのですって?」
来週にでも浅緋に時間を貰うようにお願いはしていた。
先日、それにも快く了承してもらったばかりだ。
「はい。そろそろ落ち着いた頃合かとも思いましたし、僕と全く話もしていないのでは、浅緋さんもご不安でしょう」
「片倉さんはお優しいのね」
奥さんは微笑ましげに片倉を見て、そうっと笑う。
「どうでしょうか」
にこりと笑顔を返した片倉に、奥さんは軽く目を開いた。
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