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6.一瞬の邂逅

一瞬の邂逅③

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 片倉はこんな時に申し訳なく思っていること、園村からの手紙を預かっていることを伝えた。

『ご主人様からのお手紙……でございますか』

「自分に何かあったら、ご家族にお渡しして欲しいと言われていたのです」

 帰れと言われることも覚悟していたのだが、お手伝いさんは一旦、門の所まで出てきてくれた。
 故人の意思を無下にはできないと思ったのかもしれない。

 片倉は深く頭を下げた。
「こんな時に大変申し訳ございません。お預かりしたお手紙はこちらですが、これには私に関わることも記載されています。詳細については改めますが、内容を確認して頂いて、ご挨拶だけでもさせて頂きたいのです」

『遺書』
と大きく封筒に書かれたそれを見て、お手伝いさんは頷いてくれた。

 園村の独特な筆跡に一瞬目を引かれて涙ぐんだようにも見えた。
 その封筒に片倉は懐から名刺を取り出して、添える。

「お渡しください」
「少々お待ちくださいませ」

 中に入っていったお手伝いさんを待つ間、片倉は祈るような気持ちだった。

「奥様とお嬢様がお会いになります。どうぞ」
 玄関先に案内されて、落ち着いた和風のしつらえを目にすると片倉はホッとする。
 園村らしい自宅の造りだ。

 やがて、ゆっくりと二人が姿を現した。
 まだ、着替えてもいなくて葬儀場で見たそのままだ。

 待っているうちに濡れそぼってしまった片倉を気づかって、バタバタとタオルやら何やらを用意してもらううちに、申し訳ないような気持ちになった。

 お上がりくださいと言われたけれど、それは固辞する。
 ただし、タオルはありがたく借りて、濡れた衣類を拭かせてもらった。

 その後も上がってくださいと言われたが、それだけは断らせてもらう。

 今日は手紙を渡すことと、挨拶さえできればそれで良かったのだし、浅緋が心配げな顔で見ているのが、正直落ち着かない。

 そうしたら浅緋が密やかな声で
「待ち合いを使っていただくのは……」
と言ったのだ。

 そうして、玄関の横に待合があることを知った。
 そこならば、部屋に上がらずに話ができる。

 その時、浅緋が玄関に降りてきた。
「どうぞ。あの……狭いですけど」
「恐れ入ります」
 案内するのに、わざわざ降りてきてくれたのだ。

 初めて、片倉に向かって語りかけたのを聞く浅緋の声だった。
 さらさらとしていて柔らかく、耳に聞き心地のいい声。近くに立つと思ったよりも小柄なのだと気づく。

 きゅっと抱きしめたら、すっぽりと腕の中に入ってしまいそうだ。
 するりと片倉の横をすり抜けた、浅緋の細くて白いうなじが目に入って、片倉はそんな場合ではないのに、見とれそうになった自分に苦笑する。

 淹れてもらった温かいお茶に、やっと人心地付いた気がした片倉だ。

 園村の奥さんは名刺を確認し、
「片倉さんとおっしゃるのね」
と言われたので
「片倉慎也と申します」
と改めてフルネームで自己紹介した。

 浅緋に少しでも認知してほしいと思った。
 その後、園村とビジネスの件で話をしていた、と言うと母娘は仕事の件は分からない、と言う。

 だろうな……とは思った。
 それこそが園村が自分がいなくなった後に気にしていたことだから。

 だからこそ、それを手紙で残そうと考えた園村の考えはやはり正しかったのだ。
 園村の奥さんが手紙に目を通している間、片倉はそれを見守った。

 
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