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5.宝物
宝物①
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エレベーターを降りた時、抱きしめるのは解いてくれたけれど、部屋の中に入ったら、またぎゅうっと抱きしめられてしまった浅緋だ。
「慎也さん」
嫌ではない……けれど、今までの片倉では考えられない行動なのだ。
「僕では、ダメですか?」
「え?」
片倉ではダメか……なんてどういうことなのだろうか。
そんな風に思ったことはないし、むしろ触れられることは片倉しかダメなのに。
片倉は浅緋をぎゅうっと抱いたままだ。
「祐輔から……電話があったんです」
浅緋を強く抱いたままなので、片倉の声はくぐもって聞こえる。
「祐輔さん?」
「槙野です」
「はい」
「浅緋さんの食事の席に、男性が同席している、お前達は大丈夫なのか、と」
浅緋は驚いて顔を上げる。
けれど、その頭をきゅうっと抱き込まれてしまったのだ。
その閉じ込められた胸の中で必死に浅緋は伝える。
「それは、知らなかったんです。お話はそれはしましたけど、すぐに槙野さんがいらっしゃったし」
槙野は自分で来ておいて、浅緋をあんな風にあの場から引っ張り出して、片倉にはそんなことを言うなんて、どうなっているのだろうか?
「確かに、こんなやり方は……けど……」
「片倉さん、あの私……っ!」
「違う。そうじゃないと言いましたよね」
今、この状況で、焦った浅緋はつい苗字で呼んでしまったのだが、強く片倉から否定された。
──怖い……。
そんな風に思ったことはなかったけれど、今まで片倉がこんな風に強く言ったり、冷たく突き放すような話し方をしたことはないから、浅緋には怖く感じたのだ。
けれど、浅緋が意図したことではないけれど、片倉を悲しませて、怒らせてしまったことは間違いのないことらしい。
「ごめんなさい……」
「謝るようなことがあったんですか?」
「ありません。けど……かた、慎也さんがそんな風にお怒りになることなんてないもの」
「すみません。怒っているわけじゃない……」
どうしたらいいんだろう……上手く言えない。
片倉が浅緋の頬に触れた。
言葉の強さとは別に、頬に触れる手はやはり大事なものに触れるように優しくて、浅緋は胸がきゅうっとした。
浅緋が顔を上げると、片倉はとてもつらそうな顔で浅緋を見ている。
「慎也さん……」
片倉の端正なその顔が近づく。
浅緋の唇に何かが重なった。
何か……ではなくて、それは唇で、キスだったんだと気づいて、驚いた浅緋は俯いてしまう。
「すみません……もう、しません」
片倉は浅緋の両肩に手を触れ、そっと離すと自室に入っていった。
嫌ではなかったのに。
でも、浅緋はどうしたらいいのか分からなくて、その背中を見ていることしかできなかったのである。
そして、浅緋はパタン、と扉の閉まった音を聞いた。
翌日、浅緋が起きた時には、片倉はもういなかったのだ。
浅緋がこのマンションに引っ越してきてからは、いつも一緒に朝食を作っていた。
こんなことは初めてだった。
「慎也さん」
嫌ではない……けれど、今までの片倉では考えられない行動なのだ。
「僕では、ダメですか?」
「え?」
片倉ではダメか……なんてどういうことなのだろうか。
そんな風に思ったことはないし、むしろ触れられることは片倉しかダメなのに。
片倉は浅緋をぎゅうっと抱いたままだ。
「祐輔から……電話があったんです」
浅緋を強く抱いたままなので、片倉の声はくぐもって聞こえる。
「祐輔さん?」
「槙野です」
「はい」
「浅緋さんの食事の席に、男性が同席している、お前達は大丈夫なのか、と」
浅緋は驚いて顔を上げる。
けれど、その頭をきゅうっと抱き込まれてしまったのだ。
その閉じ込められた胸の中で必死に浅緋は伝える。
「それは、知らなかったんです。お話はそれはしましたけど、すぐに槙野さんがいらっしゃったし」
槙野は自分で来ておいて、浅緋をあんな風にあの場から引っ張り出して、片倉にはそんなことを言うなんて、どうなっているのだろうか?
「確かに、こんなやり方は……けど……」
「片倉さん、あの私……っ!」
「違う。そうじゃないと言いましたよね」
今、この状況で、焦った浅緋はつい苗字で呼んでしまったのだが、強く片倉から否定された。
──怖い……。
そんな風に思ったことはなかったけれど、今まで片倉がこんな風に強く言ったり、冷たく突き放すような話し方をしたことはないから、浅緋には怖く感じたのだ。
けれど、浅緋が意図したことではないけれど、片倉を悲しませて、怒らせてしまったことは間違いのないことらしい。
「ごめんなさい……」
「謝るようなことがあったんですか?」
「ありません。けど……かた、慎也さんがそんな風にお怒りになることなんてないもの」
「すみません。怒っているわけじゃない……」
どうしたらいいんだろう……上手く言えない。
片倉が浅緋の頬に触れた。
言葉の強さとは別に、頬に触れる手はやはり大事なものに触れるように優しくて、浅緋は胸がきゅうっとした。
浅緋が顔を上げると、片倉はとてもつらそうな顔で浅緋を見ている。
「慎也さん……」
片倉の端正なその顔が近づく。
浅緋の唇に何かが重なった。
何か……ではなくて、それは唇で、キスだったんだと気づいて、驚いた浅緋は俯いてしまう。
「すみません……もう、しません」
片倉は浅緋の両肩に手を触れ、そっと離すと自室に入っていった。
嫌ではなかったのに。
でも、浅緋はどうしたらいいのか分からなくて、その背中を見ていることしかできなかったのである。
そして、浅緋はパタン、と扉の閉まった音を聞いた。
翌日、浅緋が起きた時には、片倉はもういなかったのだ。
浅緋がこのマンションに引っ越してきてからは、いつも一緒に朝食を作っていた。
こんなことは初めてだった。
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