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3.『政略結婚』
『政略結婚』④
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社外のお客様からも、浅緋の対応はとても評判が良かった。
最初は秘書採用の予定だったのだけれど、あまりにたくさんの人に接してしまうと、誰かに見初められてしまう可能性がある、と浅緋は大事に大事に会社の中にしまわれていたのだ。
当の浅緋は、そんなことは知らなかったのだけれど。
「え……っと、優しいです、とても」
片倉のことを一生懸命思い出して、浅緋は話す。
「うんうん、それで?」
それだけでは勘弁してくれそうにない雰囲気だ。
「背が高いです」
「へえー、今の社長も結構背が高いよね。身長高くて迫力あってカッコイイよね!」
「多分身長は同じくらいかしら。」
「おいくつなの?」
そう言えば知らない。
「おいくつなのかしら……多分少し年上だと思うのですけど。槙野さんより上なのかしら、一緒くらいかも」
「槙野さんって新社長よね?」
「はい」
就任した時、社長とは呼ばないで苗字で呼んでください、と槙野は宣言していた。
だから本人に向かって社長とは呼ばないけれど、社外で話をする時はみんな社長と呼んでいる。
「槙野さんは片倉さんに依頼されて社長になったとおっしゃっていたので」
ん?と周りが顔を見合わせている。
「それって、今の園村ホールディングスのスポンサーじゃないの?」
「そういうことになるんでしょうか?」
「グローバル・キャピタル・パートナーズの片倉さんよね?」
そうだ……確か以前にもらった名刺にそんな社名が入っていたような気がする。
「はい。そうです」
「え!? あの!?」
片倉のことを『あの』と言って同僚は浅緋の方に大きく身を乗り出した。
「はい……」
『あの』とはどういうことなのだろうか?
「あの……?」
「やり手でも有名なんだけど、若くして頭も良くて、お金も持っているし結婚したい男性ナンバーワンとも言われていて……」
浅緋が緩く首を傾げたので、同僚は口元を押さえられている。
「ま、でも今は園村さんの婚約者なんだもんね!」
「はい……」
そんなに有名なのだとは思っていなかった浅緋だ。確かにあのマンションはすごいとは思ったけれども。
片倉自身も有名だなんて、浅緋は思っていなかった。
「今回社長が就任する時にベンチャーキャピタルの資本が入ると聞いて、もう私たちみたいのはクビかなーなんて話していたんだけど、社長はとてもイケメンでやり手だし、そうならなくて良かったねって言っていたところだったの。でも園村さんが片倉さんの婚約者なら、なおさら安心よね」
浅緋にはよく分からない。
片倉は浅緋から見てビジネスの件と、浅緋のことは切り離しているように見えるからだ。
自宅にいても、仕事の話が出ることはほとんどない。
そんなことより、今日はいい天気ですね、とか、このパンは美味しかったから今度同じものを買ってきましょうとか、今日は帰りがとても遅くなるので浅緋さんは先に寝ていてくださいね、とかそんな話しかしていないような気がする。
「ね……優しいって、ベッドでも優しいってこと?」
同僚の一人がそんなことを言うから、浅緋は驚いてしまう。
「もう! 何言ってるの! 園村さん、そんな質問答えなくていいのよ!」
答えようがない……。
だって、いつも優しいけれど、そういうことはまだないから。
「そういうのって……」
「ん?」
皆さんするんでしょうか?と聞きたいけれど、そんな話をしたことがない浅緋にはそれを尋ねることはできず、なんでもないです!と慌てて首を横に振ったのだった。
最初は秘書採用の予定だったのだけれど、あまりにたくさんの人に接してしまうと、誰かに見初められてしまう可能性がある、と浅緋は大事に大事に会社の中にしまわれていたのだ。
当の浅緋は、そんなことは知らなかったのだけれど。
「え……っと、優しいです、とても」
片倉のことを一生懸命思い出して、浅緋は話す。
「うんうん、それで?」
それだけでは勘弁してくれそうにない雰囲気だ。
「背が高いです」
「へえー、今の社長も結構背が高いよね。身長高くて迫力あってカッコイイよね!」
「多分身長は同じくらいかしら。」
「おいくつなの?」
そう言えば知らない。
「おいくつなのかしら……多分少し年上だと思うのですけど。槙野さんより上なのかしら、一緒くらいかも」
「槙野さんって新社長よね?」
「はい」
就任した時、社長とは呼ばないで苗字で呼んでください、と槙野は宣言していた。
だから本人に向かって社長とは呼ばないけれど、社外で話をする時はみんな社長と呼んでいる。
「槙野さんは片倉さんに依頼されて社長になったとおっしゃっていたので」
ん?と周りが顔を見合わせている。
「それって、今の園村ホールディングスのスポンサーじゃないの?」
「そういうことになるんでしょうか?」
「グローバル・キャピタル・パートナーズの片倉さんよね?」
そうだ……確か以前にもらった名刺にそんな社名が入っていたような気がする。
「はい。そうです」
「え!? あの!?」
片倉のことを『あの』と言って同僚は浅緋の方に大きく身を乗り出した。
「はい……」
『あの』とはどういうことなのだろうか?
「あの……?」
「やり手でも有名なんだけど、若くして頭も良くて、お金も持っているし結婚したい男性ナンバーワンとも言われていて……」
浅緋が緩く首を傾げたので、同僚は口元を押さえられている。
「ま、でも今は園村さんの婚約者なんだもんね!」
「はい……」
そんなに有名なのだとは思っていなかった浅緋だ。確かにあのマンションはすごいとは思ったけれども。
片倉自身も有名だなんて、浅緋は思っていなかった。
「今回社長が就任する時にベンチャーキャピタルの資本が入ると聞いて、もう私たちみたいのはクビかなーなんて話していたんだけど、社長はとてもイケメンでやり手だし、そうならなくて良かったねって言っていたところだったの。でも園村さんが片倉さんの婚約者なら、なおさら安心よね」
浅緋にはよく分からない。
片倉は浅緋から見てビジネスの件と、浅緋のことは切り離しているように見えるからだ。
自宅にいても、仕事の話が出ることはほとんどない。
そんなことより、今日はいい天気ですね、とか、このパンは美味しかったから今度同じものを買ってきましょうとか、今日は帰りがとても遅くなるので浅緋さんは先に寝ていてくださいね、とかそんな話しかしていないような気がする。
「ね……優しいって、ベッドでも優しいってこと?」
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「もう! 何言ってるの! 園村さん、そんな質問答えなくていいのよ!」
答えようがない……。
だって、いつも優しいけれど、そういうことはまだないから。
「そういうのって……」
「ん?」
皆さんするんでしょうか?と聞きたいけれど、そんな話をしたことがない浅緋にはそれを尋ねることはできず、なんでもないです!と慌てて首を横に振ったのだった。
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