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3.『政略結婚』
『政略結婚』③
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「ヴァンクリか。意外と地味だな。もっといいやつをねだれば良かったのに。奴ならもっと高いものでも買えるぞ」
浅緋は指輪をねだった覚えはない。
片倉が婚約するから、とプレゼントしてくれたのだ。
だから、地味とも思ったことはない。
浅緋は取られた手を引いた。
そうして、その左手薬指をきゅうっと握る。
「あ……なたがどう思おうと勝手ですけど、私には大事な指輪なんです!」
「片倉がどう言ったかは分からないけれど、俺はあなたのことは認めていない」
認められなくても、仕方ないとは思う。
実際に浅緋は何も出来なくて、会社のことも顧問弁護士や片倉に任せてしまっている。
そうして、グループの中でも一番重要な園村ホールディングスでも、できることは何もなくて、ここでこうしているのだ。
それでもこんな風に認めていない、とはっきり言われるとは思わなかった。
しかも、片倉が信頼している、と言っていた人物に。
「あなたのことは認めてはいないが、片倉のことは信頼している。片倉に言われたから、この会社のCEOなんてものを引き受けたんだ。任された以上は俺は俺にできることをする」
浅緋にできること……。
浅緋は考えて、そして頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
今、浅緋にできることはそれだけだ。
頭を下げ、片倉の信頼する槙野に会社を頼む。それだけしかできない。
その真っ直ぐな言葉に、一瞬槙野は言葉を失っていたが、浅緋に挑戦的な瞳で笑いかけた。
「分かった。あなたがそうやって言うのなら頼まれてやろう」
けれど、槙野は浅緋には仕事をほとんど依頼しなかった。
きっと嫌われているのだと思う。
それでも、浅緋は構わなかった。
槙野は仕事は本当に優秀だったから。
父の元で働いていた人たちの中には、もちろん優秀な人もいたけれど、古参だからと言ってそれにあぐらをかいているような人物もいた。
槙野はそれを一掃してしまった。
そうして、優秀でも登用されていなかった人をどんどん登用しているらしい。
らしい、というのは浅緋はその話を、総務部の同僚から聞いたからだ。
「手腕はね、強引なところもあるけど納得できるってみんなすごく期待してる。それに、すごーくイケメンだわ」
気晴らしにランチに行こうと同僚に誘われて、会社近くのイタリアンで美味しいパスタを頂きながら、そんな話になったのだ。
「あんな素敵な人といて、お付き合いしませんかってお話にならないの?」
「あ……」
浅緋が婚約していることは、会社でも一部の人しか知らないことだった。
「あの……私、実は結婚する人が決まっていて」
「あら、やっぱり?」
浅緋は首を傾げた。
「やっぱりって?」
「だって、指輪……」
そう言って、同僚は浅緋の左手をそっと指さす。
気づかれていた。
「はい」
「お父様のご不幸から時間も経ってないし、きっと言いづらいんだろうねって話してたの」
「すみません」
やはり早く報告すればよかった、と浅緋は申し訳なく思った。
「仕方ないよ。で、どんな人⁉︎」
ん……?
みんな興味深々で、好奇心に輝く瞳で浅緋を見ている。
「今日、話してくれたらその話聞きたいなって思っていたの!」
「園村さんのお相手だもの、素敵な人なんだろうなーって」
真っ赤になってしまった浅緋を、微笑ましげにみんなが見る。
浅緋は園村ホールディングスのお嬢様であることは間違いない。
でも分け隔てなく、誰にでも優しく笑顔で接する。
浅緋の父である前社長は怖い時もあったけれど、そんな時はさりげなくフォローする浅緋の姿に、みんなは好意を持っていた。
浅緋は指輪をねだった覚えはない。
片倉が婚約するから、とプレゼントしてくれたのだ。
だから、地味とも思ったことはない。
浅緋は取られた手を引いた。
そうして、その左手薬指をきゅうっと握る。
「あ……なたがどう思おうと勝手ですけど、私には大事な指輪なんです!」
「片倉がどう言ったかは分からないけれど、俺はあなたのことは認めていない」
認められなくても、仕方ないとは思う。
実際に浅緋は何も出来なくて、会社のことも顧問弁護士や片倉に任せてしまっている。
そうして、グループの中でも一番重要な園村ホールディングスでも、できることは何もなくて、ここでこうしているのだ。
それでもこんな風に認めていない、とはっきり言われるとは思わなかった。
しかも、片倉が信頼している、と言っていた人物に。
「あなたのことは認めてはいないが、片倉のことは信頼している。片倉に言われたから、この会社のCEOなんてものを引き受けたんだ。任された以上は俺は俺にできることをする」
浅緋にできること……。
浅緋は考えて、そして頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
今、浅緋にできることはそれだけだ。
頭を下げ、片倉の信頼する槙野に会社を頼む。それだけしかできない。
その真っ直ぐな言葉に、一瞬槙野は言葉を失っていたが、浅緋に挑戦的な瞳で笑いかけた。
「分かった。あなたがそうやって言うのなら頼まれてやろう」
けれど、槙野は浅緋には仕事をほとんど依頼しなかった。
きっと嫌われているのだと思う。
それでも、浅緋は構わなかった。
槙野は仕事は本当に優秀だったから。
父の元で働いていた人たちの中には、もちろん優秀な人もいたけれど、古参だからと言ってそれにあぐらをかいているような人物もいた。
槙野はそれを一掃してしまった。
そうして、優秀でも登用されていなかった人をどんどん登用しているらしい。
らしい、というのは浅緋はその話を、総務部の同僚から聞いたからだ。
「手腕はね、強引なところもあるけど納得できるってみんなすごく期待してる。それに、すごーくイケメンだわ」
気晴らしにランチに行こうと同僚に誘われて、会社近くのイタリアンで美味しいパスタを頂きながら、そんな話になったのだ。
「あんな素敵な人といて、お付き合いしませんかってお話にならないの?」
「あ……」
浅緋が婚約していることは、会社でも一部の人しか知らないことだった。
「あの……私、実は結婚する人が決まっていて」
「あら、やっぱり?」
浅緋は首を傾げた。
「やっぱりって?」
「だって、指輪……」
そう言って、同僚は浅緋の左手をそっと指さす。
気づかれていた。
「はい」
「お父様のご不幸から時間も経ってないし、きっと言いづらいんだろうねって話してたの」
「すみません」
やはり早く報告すればよかった、と浅緋は申し訳なく思った。
「仕方ないよ。で、どんな人⁉︎」
ん……?
みんな興味深々で、好奇心に輝く瞳で浅緋を見ている。
「今日、話してくれたらその話聞きたいなって思っていたの!」
「園村さんのお相手だもの、素敵な人なんだろうなーって」
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浅緋は園村ホールディングスのお嬢様であることは間違いない。
でも分け隔てなく、誰にでも優しく笑顔で接する。
浅緋の父である前社長は怖い時もあったけれど、そんな時はさりげなくフォローする浅緋の姿に、みんなは好意を持っていた。
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