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9.限定いちごミルク酎ハイ

限定いちごミルク酎ハイ②

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そう言って倉橋はひょい、と翠咲の手から缶酎ハイを取り上げてカゴに入れてしまう。

「翠咲は朝はパン派? ご飯派?」
「いえ。こだわりはないかな」
「パンで良ければ家に美味いのがあるから、明日の朝はそれにするか」

えーと、泊まるとか言ってないんですけど……。
翠咲は声には出していないけれど、顔に出ていたのかもしれない。

「帰すわけないだろ?」
首を傾げて、ふっと笑われて翠咲はまたどきん、と鼓動が跳ねる。

もう!本当に心臓に悪い、この人!
さっきから、ずっといろんなことで翠咲はドキドキしっぱなしなのだ。

「翠咲、会計するから、外で待ってて」
「うん」
翠咲が外に出ると、目の前は小さな公園だった。

夏の夜は、夜になっても昼間の熱気を残している。
公園には申し訳程度の遊具があって、月のあかりがその遊具を照らしていた。

都心から4駅しか離れていないけれども、閑静な場所だ。
そんな風景を見ていたら、翠咲の心も少しだけ静まる。

それでも抑えきれない高揚のようなドキドキした気持ちはまだ残っていた。

好きな人ができた。

その気持ちは嬉しくてドキドキして、ふわふわと心もとないような、浮き上がるような気持ちになる。
一緒に何かをしたい、という倉橋の気持ちは翠咲にもよく分かった。

こうしてみたら、一緒に書類を整理したことだって。
今日のように一緒に花火を見たことだって、思い出になっていく。

──ちゃんと本気なんだ……。

倉橋は頭の良い人だ。
だからこそ、翠咲が自分の気持ちに気づいても、自分から動けないことなど、とっくに察しているだろう。

実際、あれくらいに強引にされなければ、翠咲はきっと誰かとお付き合いすることなどなかった。

『まかせなさい』
思えば、あの言葉がきっかけだったのだ。

それまでは冷酷で、淡々としていて、表情がなくて証拠証拠って……と思っていたけれど。

この人に任せれば、大丈夫。
そう思った。

倉橋は有言実行できる人だ。
分かってはいたけれど、実際に倉橋の手腕を見れば、頼りになる人なのだと改めて感じた。

そういえば、元町ヴィラにお食事に行ったなー……。

その時、ふと思い出す。
『それなりに鍛えているから』と腕をまくった倉橋の姿。
先程も、自然に荷物を持ってくれようとした。

「翠咲? 待たせた」
今日の倉橋は私服なのだ。
ポロシャツにチノパンという至ってスタンダードな格好なのだが、シンプルなだけにそのスタイルの良さは際立つ。

半袖から伸びるその腕は確かに……。
男の人だ。

「翠咲?」
「あのっ、荷物持ちます!」

男の人……なんだ……。

「悪い、じゃあかさばっているこれだけお願いしてもいいか? 外、暑かったか? 中で待っててもらえばよかったな。顔が赤いな。早めに帰るか」
「はい」

どうしよう!?男の人だった!
改めて男性なのだと意識すると、また急に鼓動が激しくなる。

これって、いざ鎌倉ってこと!?
い……今更なんだけど、今日下着って大丈夫だったよね??

そんな翠咲にはお構いなしに、倉橋は歩いていく。
倉橋の自宅駅からほど近い、1LDKのマンションだった。
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