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7.勝ちを掴みに行く男

勝ちを掴みに行く男②

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本来ならば、過剰な契約は禁じられており、契約前には同じような契約がないかの確認をしなくてはいけない。

当然、その確認は実施されていた。

けれど、それが申告ベースであるだけに、契約を受ける保険会社では、あらかじめ他社に同じような契約があるかなど確認する術はないのだ。

但し、実際に事故が起こった際には、多重の支払いを防ぐため、会社を横断してマッチングシステムが働くようになっている。
自動車事故などで、過剰に支払いされないのにはこのマッチングにより、担当者間で連絡を取り合うからなのだ。

しかし、自動車事故ならばともかく、軽微な怪我の事故でマッチングが上がってくることは珍しく、さらに、軽い症状での長期の通院に宝条は引っ掛かったのだと思われた。

その後、宝条から最終的に他社での契約は5件にも上り、もしも何も確認しないまま支払いするならば、本人は通院1回あたり3万円もの保険金を受け取るのだと聞いたくだりでは、クロだな……と、倉橋ですら思ったくらいだ。

3ヶ月の治療期間の支払いは他社と合わせると、200万近くにものぼる。
通院するだけで、だ。
どう考えても、貰う気で最初から搾取する予定で契約をしたとしか思えないのだ。

しかし、それと訴訟とはまた別なのである。

それを詐欺まがいの偽造事故なのだと言い切るまでには、病院での検査の結果など必要な情報を集めなくては話にならない。

それも通りいっぺんのものではなく、詳細な検査結果だ。

本人はのらりくらりと漫然と通院を繰り返しているものの、こちらの検査の依頼には応じていない状態だ。

詐欺まがいのことをする相手の恫喝や、しつこい電話に必死で対応している宝条を思うと何とかできないだろうかとは感じていた。

それにあの時の、割烹料理屋でも『疑義があるのに、折れるのは絶対イヤ!』と言っていた宝条の真っ直ぐさだ。

いくら顧問弁護士でも、なんとかしてやりたいと思ったとしても、倉橋は宝条とは別の会社の人間で、直接守ってやることはできない。

もどかしさを抱えていた。
その中で、今回の訴訟は起こったのだ。
ふ……と倉橋の口元に笑みが浮かぶ。

──こっちの土俵に乗ってくるか?なら手加減はしないけどな。

そうして、倉橋はふと宝条の心情に思いを馳せる。
あの、真面目な彼女が訴訟なんて起こされて、傷ついてはいないだろうか……と。


14時の約束で先方に行くと、ミーティングスペースからは宝条の沈んだ声が聞こえて、渡真利はそれを笑い飛ばす。

「クッソくだらねーよな!! 大きな声じゃ言えねーけど」

十分大きい声だと思う。
あなたは地声が大きいんだ。

ため息をついて倉橋が宝条を見ると、彼女はじいっと渡真利を見ていた。
落ち込んでいるのか、普段よりも頼りなげな儚げなその雰囲気には、つい目が引き寄せられてしまった。

渡真利も彼女の不安げな視線に気づいて、笑顔になる。
「心配しなくていいからな。実際、倉橋で十分カタをつけられると思うからさ。こいつも、こう見えて優秀な弁護士なんで」

こう見えて……って、他人を頼りないみたいに。
実際、法廷では弱かったためしはないのだが。

それが気に入ってスカウトしたのだろうが!

「渡真利先生、こう見えて……は言い過ぎじゃないですか」
「だから、認めてるってー!」
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