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4.お仕事しましょう

お仕事しましょう④

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目元を冷やしたら少しはマシになった気がしたので、ポーチから化粧品を出して崩れてしまった化粧を直す。

「ふう……」
大きく息を吐いた。

もう、大丈夫。
『一人じゃないんだから、大丈夫よ!』といつも部下には言っているくせに、自分はまるで一人かのような錯覚を起こしていたのかも知れない。

いつでも、周りには頼れる人がいる。
そんなこと、何度も経験してきたはずなのに。
でも、もう大丈夫だ。

この経験はきっと、沢村や渡真利、倉橋からたくさんのことを得るのに間違いはないだろうから。

案件に関わらせてくれると言った課長をがっかりさせたくはないし、まだ、この件がどうなるのかしっかり見届けなくてはいけない。


「よし!」
鏡に向かってにこっと笑って、お手洗いの外に出ると、廊下の壁に倉橋がもたれて立っていて、翠咲はギョッとする。

「……っく、倉橋先生」

「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ! よくあることって、課長も言っていたし。あ、案件は私は外れて、これから課長が担当になるから安心ですね!」

「僕は君が担当から外れて良かったと思っている」
この人、どこまで人を落ち込ませたら……。

「ですよね! 私じゃ心配ですよね」
(だから、もう担当は課長になったって言ったじゃない)

「もう、私に関わらなくて済みますしね」
「そうじゃない」

倉橋の声が少し苛立たしげな気がして、翠咲はびくんとした。

「向こうがエスカレートしてきているのは、分かってた。何しでかすか分からないし、君にそんな危ないことに関わって欲しくなかった。まあ、こっちの土俵に乗ってくれたから良かったけれど……」

……なに言ってるの?この人?
関わって欲しくなかったって、何?

「これで今回の君の立場はあくまでサブなんだから、表には出ないように。案件は法廷に持ち込まれた、ここからは僕らの出番だ。君はもう、頑張らなくていい」

もしかして、慰めている?
突き放しているようにも思えるけれど、違うの……?

「頑張らなくて……いい?」

「ああ。あー、変な風に思うなよ。もう充分頑張ったって話だし、僕はそれを見てきた。それでも、手を出すことは出来なかった。けど、今からは違う。僕が頑張る番だ、と言っているんだ」

腕を組んでとても偉そうで、淡々としているけれど、内容は違う気がした。

だって、少しだけ横を向いている首元が赤い。
翠咲は、ふ……と笑う。

「倉橋先生、頼りにしています。よろしくお願いいたします」
廊下で翠咲は倉橋に頭を下げた。

倉橋が翠咲を見る。
一瞬、笑った気がした。

「まかせなさい」

翠咲は胸がきゅん、と音を立てたのを感じる。
「ね、今、笑いました?」
「笑ってない」

そう返事をする倉橋は、いつもどおりの淡々とした表情だ。

「えー? 笑ったように見えたのに」
「笑ってなんかない」
「笑ってたのにー」
「馬鹿なことを言っていないで、資料をください」

課長には事前に全ての資料をコピーして、弁護士に渡すようにと言われていた。

「はい」
「全く君は……」

倉橋の声が呆れたような声でも、もう翠咲が落ち込むことはなかった。


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