黒王子の溺愛は続く

如月 そら

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LAST STORY

美桜ちゃんのお怒りふたたび!

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──これは何かしら……?
美桜は柾樹のクリーニング用の袋に入っていたシャツの中に、口紅とファンデーションの掠れたような跡を見てしまったのだ。

つい、取り出して見てしまう。

シャツを広げてみても近くで見ても、やはりファンデーションと口紅に見える。

もちろん柾樹が浮気などは有り得ないことだと分かっているし、疑うことはない……けれど、どんな状況でこうなったのかは気にならなくはないし、気にならないと言えば嘘になる。

「んー……」
聞けばすんなり答えてくれそうな気もする。

以前にパーティの最中女性と仲良く話していた時は、そんな女性は記憶にもないくらいなんとも思っていないと言っていた。

──絶対に浮気はないんだから、聞いてみよう!

「あの……柾樹さん?」
「なんだ?」
シャワーを浴びてちょうど寝室に入ってきた柾樹に、美桜は声を掛けた。

「あの、これってなんでしょう?」
「顔拓か?」
淡々と言われた。

顔拓って……。
まあ、ファンデーションの跡と口紅はそう見えなくもないけれど……。

「車を降りて道路を横切って会社に入ろうとした寸前に女性にぶつかったんだ。お陰で顔拓が取れた。ハッキリ言って、あまりにも不快だったので、すぐ替えのシャツに着替えたが……」

ああ、美桜替えのシャツを用意しておいてくれ、と何の感情もなく言われた。

やはりそんな事だった。
しかもぶつかった女性に、相変わらずあまりな言い様だ。

「お相手の方は大丈夫だったんですか?」
美桜の方が心配になってしまう。
「大丈夫、と本人が言うんだから、大丈夫だったと認識している」

「なら良かった……」
柾樹がじいっと美桜を見ていた。

「どうかされました?」
「いや、また、ヤキモチを妬いてくれたのかと思ったんだが」
「あ……」

頬が熱くなる美桜だ。それを見て、柾樹が嬉しそうな顔になる。
そしてゆっくりと美桜に近付いた。

「多少は気になった?」
「シャツにファンデーションと口紅なので、少しは……。でもちゃんと信じてますから!」
「美桜、可愛い。もっと妬いて欲しかったな」

きゅっと抱き締められて、そう耳元で囁かれてやっと美桜は気付いた。

「わ……わざとっ、分かるように置いたんですね!」
「もちろん」
にっ、と笑う柾樹だ。

「美桜がそうしてくれたら俺のものだって思えるだろう? いつも俺ばかりがやきもきしていてはつまらない。たまには美桜に求められたい。俺が美桜のものだと、実感したいんだ」

「わざとなんてひどい」
「怒ったか?」
「私が柾樹さんに本気で怒れる訳なんてないってご存知のくせに……」
はー……と深いため息が耳元で聞こえた。
「もっと言ってくれ。幸せ過ぎる」

「もう、柾樹さん……」
怒っても、最近は結局こうなのだ。
「ん?」
他の人には淡々としているくせに、美桜にはやたらと甘くて今も幸せそうに、ふわりと笑うから。

つい、美桜もきゅっと柾樹の背中に手を回してしまう。
その胸に顔を埋めた。
「ぶつかって、こんな状況になったのだとしたら、少しは妬けちゃうかもしれません」
「美桜……」

柾樹にあごを掬われて、正面から見つめ合うと未だに美桜はドキドキする。

整った顔立ちも、眼鏡を掛けた理知的な雰囲気も、好きで好きでたまらないから。

しかも柾樹の指が美桜の顔に触れているこの状況は、美桜にとってやはり幸せな事だから。

顔に指が触れて視線が絡まると、自然と顔が近づいて唇が触れ合う。

緩やかにそっと、重なるだけだったそれが少しづつ深くなっていって、気付いたら柾樹に口の中まで探られているのだ。

「……っあ、んっ」
「可愛い美桜。もっと聞かせろよ」
「あ……やんっ……」

気付いたらとろとろにされていて、待ってと言っても聞いてもらえなくて、散々声を上げさせられて……気付いたら柾樹の腕の中で朝になっていたのである。

美桜は目を閉じてすやすやと眠っている柾樹の頬にそっと触れると、一瞬眠りが浅くなったのか「ん…」と声を上げた柾樹が美桜をきゅっと胸に抱きしめた。

整った顔、滑らかな肩、綺麗に適度な筋肉のついた胸。足も柾樹は美桜に自分の足を絡めていて、全身で包み込まれるように抱きしめられている。

──すごく幸せかも……。

美桜もきゅっと柾樹の胸の中に入り、柾樹が無意識に深く抱きしめるのを感じて、その温かさと幸福しあわせを感じて、そっと目を閉じた。

今日も素敵な一日になりそう……。



       。.:*END.:*・゜



(*´ω`*)これで本当に完結です。最後まで、ありがとうございました。

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