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1章の閑話 

宿屋『ミャオの寝袋』での夕食(異世界二日目)

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 宿の部屋で大量に買い集めてしまった商品を目の前にして、頭をかかえました。
 そうね 、旅行前にすることではなかったわ。
 どうしましょう……あ、神さまがポケットは沢山入るって言ってたような。じゃあ、種類別に風呂敷に分けていれておけばいいんじゃない?
 キャリーから大判の風呂敷二枚とスカーフをだし、風呂敷には食べ物と布地を、裁縫道具や小物類はスカーフに包みポケットに入れてみました。入る入る…… 便利ね~  これなら荷物持ちって要らなかったわね。あ、人に見せちゃ駄目だった。


 とりあえず、お腹も空いてきたとこだし夕食を食べに行きましょう。
 下の食堂に行くと、女将さんが声をかけて下さいました。
「お客さん、直ぐに食べます~? 飲み物はエールでいい?」

 エールって何かしら? でもお水は飽きちゃったし。

「はい。お願いします」


 さて、初めての異世界夕食だわ。こんなにワクワクするなんて、久しぶり。







 目の前にあるのは、とても大きなお肉のかたまり。これは、どうすればいいのかしら。手のひらより少し大きめで、厚みは5㎝ぐらいあって! これは絶対残る……
 あとは、茹でてある茶色のお芋(朝食のスープにはいってたから知ってる)。ゴロゴロとお皿に乗ってて……  白い人参もどきも一緒に……
 この世界の方はこんなに大量に食べられるのでしょうか。残したくは無いのですが。涙がでそうです。

 大きな木のジョッキに注がれたエール…… 見たらわかりましたわ。ビールの事でしたのね。  お酒は多少嗜みますが、この量を飲み干すのは無理です。

 テーブルに並べられた料理を前に……  
 誰か助けて下さい…… 涙が溢れてしまいました。


「お、お客さん?! どうされました?」

 泣き出した私を見て、女将さんが声をかけて下さいました。

「食べきれません。お食事を残してしまいそうなのです。どうしたら良いのでしょう」

 泣きながら、女将さんに訴えてみました。

「あ、あんた食事が足らなかったんじゃないのかい?」

 びっくりしたように、言われました。

 えっ? そんな事いったことなんて無いです。量的には、朝食はちょうどいい量でした。


「旦那が市場で大量の食べ物を買ってるところをみたって。きっと、朝食が少な過ぎて足りなかったんだろうと言ってて…… アンナには丁重にもてなすように言われてるし……」

 あ、あの買い物を見られてたなんて...... 恥ずかしくて下を向いてしまいました。涙もいつの間にかとまっていました。


 二人とも、無言になってしまいました。


 時が止まったような……  この空気だれか助けて下さい。






 「婆さん、半分食べてやろうか?」

 笑いながら声をかけてくださる方が……あ、シェヌさんではないですか。助かりました~

「半分と言わず三分の二は食べてくださる? あと、エールも。私、こんなに飲めませんわ」

 女将さんにお願いして、料理を分けてもらい、ジョッキのエールはシェヌさんに。私には小さなコップに半分だけエールをいただきました。

「お手数をおかけして、申し訳ないですわ」

「いえいえ、こちらが勝手に誤解して……」

「いいえ。私が悪いんです。あれは明日からの旅行に使うものだと伝えていませんでした。食料を勝手に宿に持ち込んだりして、申し訳ないです」

 そう、昔もちゃんとした旅館に黙って料理を持ち込んで、叱られたっけ。夫はけろっとしてたわね。

 シェヌさんとおしゃべりしながらの食事は大変美味しかったです。お酒が入った事もあってちょっと陽気になってしまいました。
 明日から、楽しく旅ができそうです。

 ただ、お風呂がないのがつらいです。今日もたらいにお湯をいただいたので、身体をタオルでふきました。
 下着の替えがあと一セットしかないので、たらいのお湯で洗濯しました。石鹸も欲しいなぁ。今あるのは洗顔用の石鹸だけ。

 落ち着いたら色々探してみましょう。

 眠くなってきました。おやすみなさい。





☆☆☆  《宿屋ミャオの寝袋 》の夫婦の会話  ☆☆☆


 アンナさんから大事な客だと紹介されたお婆さん、コーユ様。昨夜は疲れた顔をしてたから、食事も取らずに寝たみたいだ。今朝は朝食をしっかり召し上がっていたが、時々首を傾げながら食べていた。ただ、スープは残していたな。
 割合早く宿を出て行ったが、どこに行ったのだろう。

 夜は食べるって言ってたから、帰ってはくるだろう。

「あんた、あの人荷物を全て持って出ていってる。部屋に何もないよ」

 部屋の掃除をするため入ってみたら、何もなかったって?
 何か気に入らない事でもあったのか。そういえば、朝食のとき、きょろきょろしたり首を傾げたりしてたな。あれが駄目だったのか……

「ちょっと市場に行って食材を買い足してくる」


  市場で、コーユ様を見かけた。肉や果実水を旨そうに食べてた。やはり、味付けが駄目だったのか。

 買い足してから、またコーユ様を見かけた。野菜や果物や鶏肉を買ってた。しかも大量に。量か!! 量が足りなかったのか!
 夕食はしっかりお出ししよう。そうだ、飲み物も何か出そう。


 宿に帰ってきたコーユ様は見かけた時以上の大量の買い物をしていた。冒険者で有名なシェヌさんが見えないくらいだった。
 部屋に入ったまま、コーユ様はなかなか下りて来なかった。酒を飲む連中が増えて騒がしくなったころ、食べに下りて来られた。

 よし、今度こそ満足してもらうんだ。

 コーユ様が泣き出したと……?
 な、何があったのだろうか……
 


「どうしようかと思ったわ」
「ああ、まさか泣くとは」
「じゃなくて、なんで直ぐに出てきてくれなかったのよ」
「すまん。体が動かんかった」
「そうね、量が多いからって泣くとは思わなかったけど、あんたも何であんな勘違いしたのよ」
「いや、お前もあの量を目の前でみたらそう思う筈だ。俺たちが用意する以上の量を買ってたんだ」
「は?」
「それに俺が見た時の焼き肉の量は三人分はあった」
「え?」
「今思えば、あの付いてた冒険者の分もあったんだろうな」
「ご自分で買ってたの?」
「自分で持ってた」

 顔を見合せて、ため息をつくしかなかった。



 お付きの意味はどこ行ったー!!



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