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 宿をとるよりも先に城に向かった。
 ジョーが持っていた家紋入りの手紙により、島の国の王族であることが証明できて、あっさりと手紙を王に届けてもらえることになった。
 やっぱり、王族ってのは権力が凄いんだな……。
 「ここでお待ちください」
 と、案内された部屋の中、ソファーに座る。
 「返事の手紙が来るか、謁見の間に呼ばれるか……謁見になった時は王族である俺が説明を求められると思うから、アールは挨拶だけでいいからリラックスして」
 城内の部屋に案内されておきながら、リラックスしろと?
 そりゃ説明しなくても良いって言われたら、ちょっと肩の力は抜けたけどさ。
 「……分かった」
 どれくらい経っただろうか、予測していたこと以外のことが起きた。
 「ジョセフ・シーホース様、王が会われるとのことです」
 そう言ってジョーだけが連れていかれてしまったのだ。
 部屋に残された俺には1杯のお茶が追加で持ってこられた他に、部屋の隅には見張りとなる兵士が2人いるだけで会話はない。
 しかし困ったことになったぞ……これはどうしたものだろう?
 追加で持ってこられたお茶に痺れ薬か睡眠薬かが入っていて、1口飲んでしまったのだ。
 そこに加えて俺はパッシブ防御特化型なので、こういう毒物も例外なく防御するようで一切眠くならないし、痺れない。
 兵士の2人にはお茶を飲むところを見られたし、寝たふりした方が良いのだろうか?
 それとも眠たそうにウトウトする感じにするだけで良いのか?
 あ、でも痺れ薬の可能性もあるし……痺れ解除の魔法陣を描いて自己治癒しましたよって感じにした方が良いのか?
 待て、魔法陣の痺れ解除では治らないレベルの毒だったらどうしよう。
 なら寝た振りじゃなくて気絶した振りをすれば良いのか。
 パタリ
 とりあえずジョーが戻ってくるまでは気絶しておこう。
 「……寝たか?」
 兵士の1人がもう1人に声をかけ、人の気配が近付いてくる気配がするから、声をかけられた方の兵士が確認するために近付いてきているのだろう。
 緊張するな……。
 「……寝てるようだ……」
 人の気配が遠のいていき、そして離れた場所で2人分の溜息が聞こえた。
 「ホーンドオウルのグラオザーム・プッペ、だよな?」
 「ホーンドオウルの次男って言ったら、そうだよ」
 領地から出たこともない俺の通り名が城にまで知られているとは!これ、恥ずかしくて本当にジョーが戻ってくるまで起きれないわ。
 「ホーンドオウル家って、長男も凄いよな」
 「あー……あそこまで整われてると怖くね?」
 「分かる」
 兄さんも、なんか怖がられているのか。
 確かに、剣術にも魔術にも長けているわけだから、整い過ぎているとは思うんだけど、まさか味方である筈の兵士達からも怖いと思われているとは相当だ。
 「……あれ、なんか俺、久しぶりに喋ってる気がするわ」
 「はぁ?なんだよそれ。訓練中とか任務中ならまだしも……ん?」
 「な?」
 「確かに、そんな気がしてきた」
 喋ることすら久しぶりだなんて、城で働くってのは相当忙しいらしい。
 いや、だったら任務の報告とか説明とかはどうやって意思の疎通を図ってなんだ?
 もしかして城には俺の知らない伝達系の魔法陣が広まってるとか?
 でも、そんなものがあるなら今のこの会話もそれでやってないと可笑しい……そうか、俺が寝たふりしてるから気が緩んでいるのか。
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