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 王子様とトリシュが戻ってきたら、一緒に屋敷に戻って砂糖漬けを手伝って、それが終わったら改めて自己紹介して……。
 と、王子様から受け取った花束に浄化と解呪の魔法を使いながら考えていた。
 もし砂糖漬けの手伝いを拒否されたとしても、自己紹介と友達申請は絶対にしようって。
 それなのに……
 「アイン様、私達のことは待たなくて結構です。あの馬車の御者に花を預けて森にお帰り下さい」
 きりりとした表情でトリシュに言われて、言われた通り森に帰ってきてしまった。
 まぁ、俺も純粋な子供じゃないんだからわかるよ。
 あれでしょ?屋敷の皆と同じように、俺を避けてるんだよね?
 侯爵家の一員の癖に魔力が極めて低いから、小さい頃から時々“あー馬鹿にされてるなー”とは感じてたんだよね。
 それでも屋敷から追い出されることはなかったし、あからさまな嫌がらせも受けなかったから、親近感を持たれてるんだろって思うこともできた。
 毎晩森の見張りをするようになったのは、元々は自主的ではなくて父さんにそうするようにって言われたから。
 戦いの才能はあるから、これはお前の仕事だーとかなんかそんなことを言われた。
 成人前にだよ?
 その間兄さんは王都の学園で着々と文武両道になってさ、俺なんか、王都に行ったこともなくて。
 だけど、それでも……そうすることで森の魔物から侯爵領を守れていたのは事実で、俺はそれを誇らしいと思ってる。
 褒めてもらったことは、ないんだけど、そもそも褒められるためにやってないし、そんな雑念があると守り切れないし、1匹でも森から出したら大変だし。
 「ぼ、坊ちゃん……お帰りになられたのでは……」
 家族よりも長い時間を一緒に過ごしている騎士達ですらこの態度だ。
 昼間はどこか見えない場所に行って欲しいらしい。
 「アイン様、今夜の見張───」
 「(アイン!どうしたんだ?ご主人に会えなかったのか?)」
 「うぐぅぅ」
 俺とは目も合わせない騎士の言葉を遮り、レッドドラゴンが飛び掛かってきた。
 「飛ぶ勢いがついてきたから、全速のまま飛び込んでくるなって前に言ったよな!?」
 「(減速した!アインがしょぼいだけだ!)」
 なんだとぅ?
 「んなこと言って、王……姫様にも同じ勢いで突っ込むのか?」
 「(そんな危ないことする訳ないよね)」
 なにその区別!
 まぁ、それだけ俺を強いと思ってるってことなんだろうし、別に良いよ。
 唯一の友達だしな。
 「今日からしばらく森の中探索するから、毎朝の騎士の点呼だけお願い。問題なければそのまま休んで良いからな」
 魔物の繁殖期ではないし、連れ去られたって情報もないし、魔物が増えたってことでもないんだけど、あからさまに嫌われてる雰囲気の中で堂々としていられるほど図太くはないんだ。
 なんなら王子様達まで皆と同じなんだなーって考えただけで1週間は落ち込める。
 だからさ、直接嫌いとか迷惑とか会いたくないとかそんな言葉を聞かずに済む場所に避難したいってだけ。
 森の奥なら、騎士すら入ってこない。
 「(え?ご主人には言った?)」
 今決めたことだからな、前々から決めていたことだったとしても、俺の情報なんか誰も欲しがらないっての。
 「聞かれたら答えといて。じゃあ行ってくる」
 絶対聞かれないと思うから、安心したら良いさ。
 日か沈み、いつものように討伐を開始し、日が昇る頃に引いていく魔物の後をつけて住処を特定し、昼間に住処の中に火を入れて入り口を塞いで蒸し焼きにする。
 これが繁殖期なら、住処の中に人間が捉えられていないかと確認する一手間がかかるから、この時期の捜索は楽で良い。
 火が消えたら住処の中に入り、絶滅しているかを確認しながらのトレジャーハント。
 俺の小遣いってかなり少ないから、こうして金目の物を探すことは大事で……倒した魔物のツノとか爪とか革とかも武器やら防具の材料になるから高値で取引されてるんだけど、そういう戦利品は侯爵家の物であって、俺の物ではないから……まぁ、平たく言えばタダ働き。
 衣食住が保障されているのだから贅沢は言えないけど……結局嫌われる相手に対して随分と散財してしまったからな。
 せめて、嫌われた原因だけでもはっきり聞きたいんだけど、会えば会う程嫌われるのなら、もう会わない方が良い。
 現時点が1番好かれている状態なんだから、これ以上嫌われないためには会わない他ないじゃないか。
 よくよく考えてみれば、街に行くなんて一言も伝えていない相手が街で待ち伏せしているってのは、中々の気持ち悪さだったな……。
 もしかしたら、これまでにも無自覚で結構な気持ち悪さを披露していたのかも?
 はぁ……どのみち、会わない方が良い。
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