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 姫様が実は王子様だった。
 それが確実となった日から、どれだけの日数が経っただろう?
 兄さんが帰ってくる様子もないし、俺と王子は結婚をしていないし、俺に至ってはほとんどを森の入り口付近で過ごしているしで、周りからは一切の変化のない日々に見えるだろう。
 そう、見えるのだろう。
 王子が侯爵家に来たばかりの時は、特になにも考えもせず何日も顔を合わせないで過ごすことが普通だったし、話しをしても挨拶程度とか、そんな感じだった。
 街に行ったり、トリシュを鍛えようとしたり、砂糖漬けを一緒に作ったり……もしかして俺の夢だったんじゃないかな?
 「(起きた?もっと寝てないと体壊す!)」
 俺の上を飛んでいるレッドドラゴンは、少しだけ悠長に話すようになった……ような気がする。
 しかし……分からないんだ。
 日に1回は顔を見たいって、そう思うのに屋敷に帰ろうとしたら足が止まる。
 今もそうだ。
 特に眠たくもないし疲れてもいないのに、屋敷に戻ろうとした途端に足が止まり、木陰に腰を下ろしてしまう。
 もしかして、自分では気付いていないだけで、かなり疲労がたまった状態なのだろうか?
 「……ん、もう少し寝る」
 肉プレート食べに行ったのが、遥か昔のように感じる。
 「(そうだ、ご主人が砂糖漬けにする花を買いに行くって言ってたぞ)」
 花を買うなら街に行くのか……街に?
 「え?今日?」
 「(今日の朝そう言ってたから、今日だと思う)」
 ガバリと起き上がり、空を見れば太陽は頂上から少し角度をつけた所にあるから、昼を少し過ぎたあたり……まだ街にいるだろうか?
 分からないけど、体が勝手に動く。
 「行ってみるよ。チビ、情報助かる!」
 屋敷までの移動は足が重いくせに、屋敷よりも遠い街までの道中は足が軽い。
 疲れている訳ではなかったのか……だとしたら、屋敷に帰りたくないのだろうな。
 でもそれは王子様に会いたくないからではない。
 だって俺、今物凄く会いたいから。
 会ったらなにを話そう?
 いや、まずはなによりも先に名前を聞いて、それからー……筋肉痛!筋肉痛が治ったのかも聞いて。また砂糖漬け手伝ったり、今度こそクッキー焼いてもらったりするんだ。
 花屋にいなかったら食堂とカフェも見て、それでもいなかったら倒れてでも屋敷に戻ろう。
 今日はもう絶対に会うまで諦めない!それで申し込むんだ……友達になってくれって。
 街の近くの木に馬を繋ぎ、一目散に花屋に向かってはみたが王子様の姿はなく、他の花屋に行ってもいない。
 先に腹ごしらえをしている可能性を考えて何件かの食堂に入ってみたけど、それらしい人物は見えず。
 もしかしたらまだ到着していないだけかもしれないと、もう1回花屋巡り、一応青い髪の人物が来なかったかと尋ねてみたけど手掛かりはなし。
 ふぅ……。
 こんなに会えないものか?
 街の出入り口付近にいた方が見つけやすいかも知れない?
 「あ、小侯爵様。ここでなにを?」
 待つことしばし、急に話しかけられて顔をあげるとトリシュが立っていたから、無意識に目がその周囲にいるかも知れない王子様の姿を探して動くけど……いないのか……。
 「トリシュ、王子様は?花を買いに来るって聞いたから待ってたんだ」
 トリシュは街の外から来た感じではなくて、帰りの馬車を手配しに出入り口横にある受付に来た感じだから、街にはいるんだよな?
 「アイン様、森に出る魔物の討伐だけをお考え下さい」
 質問の返事にしては物騒過ぎない?
 なんで急に父さんみたいなこと言うんだ?
 毎日毎日森に出る魔物のことばっかり考えてるし、それが生活の中心だってのに、これ以上どうやって魔物のことを考えれば良いんだ?
 もしかして、本当に魔物のことだけしか考えるなって意味?
 睡眠時にもなにかしら魔物の夢を見ろって?
 夜の見回りじゃあ俺よりも夜目が利く騎士はいないから、特に夜の時間帯ではかなり活躍していると思う。
 それで森から魔物が出ないんだから、大きく見て俺は皆を守れてるってことだよな?
 雨の日も雪の日も関係なくて、毎日、毎晩戦ってるんだ。
 夜の討伐に向けて。昼間は体を休めておけってことかな?
 それはそれでレッドドラゴンみたいなことを……。
 「トリシュ、やはりなにか食べてから……アイン?」
 この声は……。
 声のする方を見れば、両手に花を抱えた王子様が立っていて、嬉しくて声をかけようとするよりも先に後方から聞こえ来る溜息が気になってしまった。
 なに?
 「花を買う前ならいざ知らず、その量を持ったまま食事をするのは難しいと思いますよ?」
 あー……確かに、それは俺も同意だわ。
 「花は俺が持っとくから、2人でなにか食べてきたらいいよ」
 俺は王子様の顔が見れて、元気そうだって知れたから目的の半分は達成できた。
 後は友達申請をするだけなんだけど、空腹時に立ち話に付き合わせながらの友達申請なんて、断られる未来しか見えない。
 「え……でも……」
 「良いから良いから。持ってる間に浄化と解呪の魔法かけとくから」
 両手を出してしばらく後、王子様は嬉しそうにではなくて申し訳なさそうに花を俺に預け、スグに戻って来るとか言うから、これはこれでなにか間違ったような気がしなくもない。
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