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 着替えて馬車の用意をして、エントランス横の花瓶前に立つことしばし、姫様とトリシュがやってきた。
 時間は計ってないから1時間以内なのかピッタリなのかは分からないけど、まだ午前中だ。
 これなら街に行って、ゆっくりと買い物が出来るだろう。
 「お待たせしました」
 パタパタとやって来た姫様の装いは平民っぽい男性の服装で、動き易そうだ。
 ドレスを着ていた時は違和感が凄まじかった男性っぽい姿も、こうして本当に男性の服を着ていると、妙に女性らしさを感じるってんだから不思議……。
 ん……。
 胸板だなぁ。
 しかもそこそこ逞しい。
 え?女性らしい胸の特徴はどちらに?
 「……ん、少ししか待ってないよ。街に行こう!」
 姫様とトリシュを馬車にエスコートして乗せた後、俺は御者台に座った。
 「え!?アイン様!?」
 そんな驚かれるようなことでもないと思うけど?
 「任せといて。安全な旅を約束するよ」
 馬車に対するトラウマはなかったとしても、流石に知らない人が引く馬車は怖いかなって思ったんだよ。
 御者に裏切られたんだろうから、余計にさ。
 それに、馬車に防御魔法をかけてくれるような術者が屋敷内にいなくて、仕方なく俺が極々弱い防御魔法の陣を描いただけだから、崖から1回落ちてギリ耐えられるかどうかって防御力しかない。
 だから、俺が御者台にいて周囲を警戒している方が安全でしょ?
 これでも俺、グランド……えっと、なんだっけ?グ……グリフォン?違うな……グラム……グラー……グラッペ……うん、なんか物凄く大層な二つ名がついてるから、一応近隣領地の皆々様方には恐れられてるんだよ、これでも。
 まぁ確かに?侯爵領の中で1番強い……のは兄さんだけど、2番目に強いのは俺だからね!
 座学は別!
 兄さんは、座学でも1番だったな……。
 俺の命が狙われないのって、別に大層な二つ名とか関係なくて、ただただ単純に脅威になる人物ではないって感じなんだろう。
 父さんだって俺には侯爵家の内情には一切関わるなって態度だし、これまでに1度だって後継者としての教育を受けたことがない。
 おかげで好き放題出来てるんだから文句はないんだけど……結婚となれば、相手のいることだし別だよな。
 姫様は絶対になにがあっても俺と結婚するべきじゃない。
 兄さんはまず間違いなく生きているんだから、帰ってくるまで待ってれば姫様は当初の予定通り兄さんと結婚ができる。
 どんな圧力をかけられても、ここだけは守らないとな。
 まぁ……幸いなことに姫様は実に王子っぽいから、なんらかの間違いが起きる可能性は限りなくマイナスに近い。
 確かに線は細いけど、それでも女性らしい華奢な感じでは絶対になくて……あ、でもトリシュは一目見て女性って分かるけど、姫様よりがっちりしてるっけ。
 なら骨格だな。
 姫様は骨格から男性っぽいんだ。
 うん。
 骨格が男性なら、それはもう男では?
 非常に男に近い女性の可能性もまだ残ってるんだから、決めつけは良くないな!
 政略結婚は元々愛情は二の次なわけだし、生殖機能があって跡取りが産めるのなら、アレが股間にあろうとも骨格が男性的であろうとも関係がないのかも知れない。
 「あの……僕の賃金は、やっぱり半分ですかね……」
 俺の隣には馬車の持ち主がいて、本来なら馬車を引く立場の人間だ。
 「ちゃんと払うから安心して。後、妖しい人影とか見えたら教えて」
 と警戒しまくっていたというのに、街まではかなり平和で、姫様達に優雅な馬車散歩の時間を提供できたと思う。
 街につき、とりあえずは昼食にしようと思って馬車を下り、御者に馬車代を支払ったら来店……ん?
 「トリシュどうかした?」
 馬車を下りるなりキョロキョロと周囲を見渡しているトリシュは、まるで誰かを探しているように見える。
 知り合いでもいるのかな?
 でも島の国から来たばかりで知り合いがいるってのは、ちょっと人付き合いが上手過ぎない?
 「いえ……あの、アイン様よろしいでしょうか?」
 「ん、良いよ。なに?」
 もしかして朝に言いかけたことかな?
 それにしても、即答過ぎたかな……。
 「ホーンドオウル侯爵領には、魔法使いが多いのですか?」
 急になにを言うかと思えば。
 魔法使いねぇ……んー、どう説明したら良いんだろう。
 「えっと、魔法使いってのは魔力の研究とかしてて、こんな感じで魔力を構築してこうやって~みたいに頭で考える感じなんだよ」
 分かるだろうか?
 「……え?」
 「……ん?」
 分からないかー。
 そりゃそうだ、言ってる本人ですら上手く説明できなかったと感じてる位だ。
 あーあ、姫様まで首傾げちゃったよ!
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