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 フワリと温かな光を瞼に感じて目覚めれば、俺の視界には生命線の長い掌がうつった。
 早朝に魔物が沸いて討伐して、ひと段落ついたところで仮眠をとって今だから、時刻は恐らく10時とかその辺りだろう。
 それならもっと目に優しくない太陽光が容赦なく目を刺激しているだろうに、優しいというのだから曇っているのかな?なんて目を開けてみれば掌。
 あぁ、感情線も長いな。
 手相占いとかできないから、意味は分からないけど。
 「代わりましょうか?」
 あ、トリシュの声……なんでトリシュの声が聞こえるんだっけ?
 「いや、良い」
 これは姫様の声?
 「……これから、どうなさるおつもりですか?」
 ガサリと音がして、トリシュの声が少しだけ近くなった。
 多分座ったのだろう。
 「昨日、また王からの手紙が届いた……結婚の知らせが早く聞きたいらしい」
 島の王はかなり焦っている感じなのか?
 なにをそんなに急いでいるんだろう……婚約して、相手の領土に姫様が来ているこの状態は島の王からしてみればもう結婚したって感覚だと思うんだけど。
 婚約者、ではなく正当な妻としての地位が必要だとかその辺?
 まぁね、王女がいつまでも相手の領土で婚約者って立場のままだと、何かと権力的に良くないのかも知れないな。
 だったらさ、もっとトリシュみたいに一目見ただけで完全に女性だって分かる王女を選んでくださいよ!
 股の間にアレのある王女ってなに!?
 声とか凄く良い感じにハスキーボイスだしさ!
 「その男に結婚の意思はあるのですか?」
 あ、俺ってトリシュにその男呼ばわりされてるのね……。
 「ないだろうな。侯爵もこちらを疑っている様子だ」
 父さんが姫様達を疑ってる?
 いや、まぁ、そりゃ疑うでしょ……見た目は多少線が細いものの完全に男だし、声もまぁ男性的だし、自己紹介の時に自分で“王子”って名乗っちゃったし、それで疑わない方がちょっとどうかと思います。
 「王は結婚式に参列するのでしょうか?」
 「捨てるように嫁がせた王女のために島を出ることはないだろう」
 捨てるように?
 あっと、確か15王子……王女なんだっけ。
 兄弟物凄く多いな。そりゃ15人目ともなれば嫁ぎ先を見つけるのも一苦労……姫様が15王子なだけで、王女が何人いるかも分からないし、姫様が末っ子って説明がなかったから、厳密にはもっと多いのか。
 島の国は一夫多妻制っぽいな。
 「……どう、なさるおつもりですか?」
 「当初の予定通り。俺は侯爵家にいられれば、それで良い」
 侯爵家にいるだけで満足ってこと?
 数日かかるって言われてた到着を大幅に早めるほど急いで侯爵領に来ていたこととか、俺に結婚の意思がないと分かっていても良いってこととか、なんか全部ひっくるめたらさ、兄さんが戻ってくるかもしれない侯爵家にいられるだけで満足って感じでしょ?
 この姫様、どんだけ兄さんのことが好きなんだよっ!
 その侯爵家に滞在するためには、俺と結婚するしかない。
 好きでもない俺に恋人みたいなことをしようとか提案してきた時、どんな気分だったんだろう?
 決めた。
 俺は決めたよ。
 「姫様!俺、姫様の恋を応援するよ!」
 ガバリと起き上がれば、一気に太陽光が目を刺激してくらみ、しばし目を押さえて目が慣れるまで待つことになった。
 その間、姫様もトリシュも一言も声を出さないから、無言で帰ったんじゃないか?ってちょっと不安になったんだけど、薄く目を開けて足元を見れば、姫様の靴のつま先部分が俺の方を向いてて、何故かそれで安心できた。
 「落ち着きましたか?」
 パチパチと瞬きをして顔をあげれば、無表情なトリシュとこれまた無表情の姫様の顔が見えた。
 「落ち着いた……って、なんで2人はここに?森の近くは危ないから屋敷でのんびりしてて」
 今は朝だから安全ではあるけど、それでも昼間に活動する魔物がいない訳じゃないからな……たいていの魔物は見張りの騎士達でなんとか出来るけど。
 「のんびり出来ると思いますか?」
 ん?
 のんびりできない?
 「ソファーのサイズが合わないとか?ベッドが固い?」
 「……え?」
 ん?なにか変なこと言った?
 本とか刺繍とか、趣味の時間を……そうか、道具がないんだな?
 そうだそうだ、姫様の乗ってきた馬車の中に荷物らしい荷物ってなかったんじゃないか!つまり、服も小物も花嫁道具的なものも持ってないってことじゃん!
 気付くのが遅過ぎたけど、気付けて良かった。
 買い物に出かけ序に親睦を深めて、まずは良い友達関係を築こう。
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