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30:隠れ家的なところは隠れた名店です

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 路地裏はやっぱり治安が悪いみたいだ。表通りはあんなに賑やかで明るいのに、少し道を外れるだけで柄の悪い人たちばっかりだし……。
 柄の悪いお兄さんたちはわたし達を見てニヤニヤしてるけど、上兄様がさっさと歩いていってしまうので直ぐに視界から消えてしまう。

「…あ、ここみたいだね」

 少しだけ奥に進むと古くてぼろぼろの小屋みたいなところの前に出る。どうやらここからバターの匂いがしてるみたいだけども…こんな場所でパンなんて作っているんだろうか。
 そもそも、人住んでるのここ?

「僕が先に開けるから」
「お兄ちゃん気を付けて」

 上兄様が扉に手を掛ける。
 お腹を空かせる匂いで子供を寄ってこさせる罠だったりもするのかな?

 ゆっくりと扉が開く上兄様。隙間から見えた中は薄暗くて、蝋燭の火だけが明かりのようだ。

「お兄ちゃん、なにか見えますか?」
「……パンが見える」

 こんな路地裏にパン屋が…。いや、よくよく思い出してみろ、前世を。人通りの多い表通りのおしゃれなお店の裏側、少しだけ小道に行ったとき隠れ家的なお店があったことを。

「お兄ちゃん!ここは隠れ家的パン屋ですわ!」
「よくわからないけど、中に入ってみようか」
「はい!」

 中にはいると、三種類のパンが一個ずつ置いてあるだけ。

 思った通り!ここは実は超人気店なのね!パンが一個ずつしかないなんて、売れ残っているのがこれだけなんだわ。
 でもどれも焼き立てみたい。中は少しだけ藻わっとしていてあったかい。

「らっしゃい」
「どうも、こんにちは」
「…こ、こんにちは」

 奥の暗闇からにゅっと顔を出したのはサンタクロースみたいに真っ白なおひげをしたお爺さん。いきなり出てきたからびっくりしてしまった。
 ぶっきらぼうで低い声はまさしくこじんまりとした個人経営の店を彷彿させる。これぞ隠れ家って感じがするわ!

「美味しそうなパンですね」
「そいつはな」

 そいつは?ここに並んでるやつは美味しいってことなのかな。並んでない以外のものも気になるけど…。

 三つのパンを見る。
 形はそれぞれで、丸いの、四角いの、細長いの。どれもフランスパンみたいな固そうな皮に包まれている。

「お兄ちゃん、これ買っていきませんか?お昼に食べたいです!」
「そうだね、じゃあこれを……」

 三つあるので、上兄様と下兄様、そしてわたしの三人でお母様の庭園で食べよう。
 そう思っていれば、扉が思い切り音を立てて開かれる。

「ちょっと待て!そのパンを買うな!」

 わたしと同じくらいの年の男の子が大きな袋を片腕にわたしたちを睨み付けていた…。
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