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彼女と対面して
しおりを挟むジリアナ。彼女ははっきりとその名前を言った。
「あ、あの、雪辱とは…?」
「…子供に話す内容ではないわ。心配してくれてありがとう。もう大丈夫よ。みんなも、また連絡するわ」
わたしを見て、優しく微笑んだあとに頭を撫でてくれるリリス。
…処刑された人の、復権裁判を求める声が貴族から上がっていると聞いた。そのなかに、わたしも……ジリアナも入っているんだろうか。
リリスの言葉を聞いて令嬢たちが出ていく。それぞれ気まずい顔をしていたり、決意した顔をしていたり……きっと、手を出していたのは、ニコルだけじゃないんだろう。
(アリア、エドワードがいながらどうして…)
アリアとギル王子が二人で話しているんだろうか。…わたしも、口を挟んでもいい立場のはずだ。行かなきゃ。何故か、なんてアリアに直接聞くしかない。
出ていく直前、リリスを見れば生まれたばかりの子を見下ろして涙をぽたりと流していた。その姿に胸が痛くなって、ぐっと奥歯を噛み締めてさっきの部屋にわたしは向かった。
(お父様、ごめんなさい。きっとものすごく迷惑を掛けてしまうわ)
「ギル?黙っていたらわからないわ」
そっと部屋を覗き込んでみれば、アリアがきょとんとした顔のままギル王子を見ていた。ギル王子は俯いたまま強く拳を握りしめている。
自分の母親が不貞をしていたのを目の当たりにしてしまったのだから当然の反応だと思う。
…もう怖がって、怯えて逃げていたらダメだ。こんなにもたくさんの人が傷付いている。
もしあの時、わたしが少しでも勇気を出して強く否定して、諦めることをしなければ……。
すぅ、と息を吸って部屋のなかに一歩踏み出す。ギル王子が目を丸くしていてなにか言いたそうにしていたけれど彼が制止するまえにわたしは口を開く。
「お言葉ですが、王妃様。よろしいでしょうか」
背筋はぴんと正して。口元には少し口角を上げて笑みを浮かべて、ゆっくりと歩み寄る。
ギル王子の隣に立って、真っ直ぐにアリアを見る。
「何故、エドワード陛下がいらっしゃるのに、複数の男性とお付き合いなさっているんですの?」
きっと、ギル王子も聞きたかった言葉だろう。わたしが問い掛けるとアリアに視線を向けた。
「何故、って……だって、みんなわたしのこと求めるんだもの。好きだって、あんな女たちよりも愛してるって言ってくれたのよ?」
「それだけのことで?」
「それだけって…とても大事なことじゃない。気持ちがあるから体を委ねたのよ」
むっと唇を尖らせて言うアリアに頭が痛くなるが、笑みは崩さない。
「…でも、子供が出来ちゃったのはエドワードに怒られちゃうわ」
「何故、怒られると?」
「それは…」
いけないことだというのは流石にわかっているようだ。
側室と言うものがないこの国ではひとつの愛を良しとする。その考えを、アリアも知らないわけではないだろう。
「たくさんの方が傷付いて、悪いことだと知っていて何故…」
「あなた、嫌いだわ。あの女にそっくりの目をしてる」
わたしの言葉の途中で割り込んで話すアリア。その瞳はいかりを孕んでいる。
……あの時と、表情は真逆になっているだろう。
わたしはにっこりと笑みを浮かべて、はっきりと言葉を放った。
「ええ、わたしも嫌いですわ」
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