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新たな命と、
しおりを挟むあれからまた五年。ついにわたしも十歳になった。
初めて王都に行った日から、ルナが付いてくるようになって、わたしも身分を隠して常時護衛をつけるなら、ということなら王国へ行ってもいいことになった。
そして今日は三か月に一度の王都に行く日だ。
ちょっと前にいった時、リリスを見掛けたけど、お腹が大きくなっていたな。そろそろ生まれる頃だろうか。
…生まれたら見せてくれないかな。リリスの子供ならきっと可愛いだろうな。
「こんにちは、リア。お待ちしておりました」
「え、ええ、こんにちは、ギル」
王国に居る間は呼び捨てにした方がいいんじゃないかとルナに言われて、わたし達は互いに愛称で呼んでいる。
…それにしても、月に一度は少なくともあっているとはいえ、ギル王子は会うたびに大人っぽく成長していく。……エドワードのに似ている、と思っていたけれど性格の違いだからか、面影は少なくなっているように思える。
「なんだか今日はお城が騒がしいんですね」
「……はい。その、母が出産間近で」
ギル王子が十二歳。弟か妹ができるなら喜ばしいことではあるが、ギル王子は複雑そうだ。……まあ、アリアとエドワードの様子を思えば仕方ないことかもしれないけど。
「女王様が産気づいたぞ!」
「助産師を呼べ!」
城内が更に慌ただしくなる。
男性も女性も行ったり来たりして、来たタイミングが悪かったなと申し訳なくなってしまった。
「すみません。折角来ていただいたのに慌ただしくて」
「いいえ、大丈夫ですわ」
ギル王子の方が申し訳なさそうな顔をしていて、わたしがふるふる首を横に振れば突然後ろから腕を掴まれて引っ張られる。
「あなた何をしているの!女は出産の手伝いよ!」
「え?え、わたしは違…」
「いいから!」
メイド…ではない、女性がわたしを引っ張ってどんどん歩いていく。高貴そうなドレスを見て、貴族の人だとは思ったけれど、貴族の人がドレスの裾を引き摺って歩くなんて考えられないし……。
「リア!」
ぽかんと見ていたギル王子がはっとしたあと慌てて後を追ってきたけれど、傍に来るころには既に目的の部屋の前に着いていた。
……中からうめき声が聞こえる。
「あら、ギル王子もいらしたの。産まれますよ、さ、さ!」
「いや、私は……」
ギル王子の話も聞かずに扉が開かれて、必死な形相のアリアと周りには何人もの令嬢とメイドたちが囲っている。令嬢の中にはリリスもいて、よく見ればお腹が出ている令嬢たちばかりだった。
血のようなものが滴っている。ぞわりと震えてしまえば、ギル王子がわたしを背に隠してくれて視界が遮られる。
「もう少しです!見えてきて――――え?」
頭が抜け出してきたんだろうか。そっとギル王子の背中から覗かせると、助産師とその近くに居たメイドが固まってしまっていた。二人は気まずそうな顔をした後、ようやく赤子が取り上げられて――部屋がしんとする。
「緑色の髪……」
リリスの声が、静かな部屋に響く。
赤子の髪には緑色の髪がはっきりと生えていて。
この国では緑色の髪は珍しい方だ。……誰もが、ニコルのことを想像しただろう。
――ああ、最悪だ。これならまだ現場を見たほうが良かったのだろうか……。
気まずい空気の中、一人だけすっきりしたような顔をしていた――。
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