とある奇談蒐集家の手稿

赤村雨享

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第三十七話 竹林

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 男は小さい頃から竹林の夢を見た。場所は分からないが、その夢の中の竹林は決まって満月の光が周囲を照らす夜の光景だった。


 その夢の中で男が満月を眺めていると、竹林の中から白く半透明の何かが伸びて行く。
 やがて月の高さまで昇ったそれは、突然二つの目玉が発生し男をじっと見つめるところで目が覚めるのである。


 ある日……男は遠方に出張に出ることになった。

 出張したその日は地方で何かの祭りがあり、仕事帰りに乗ったタクシーは動けない程の渋滞に巻き込まれてしまう。
 タクシーによる帰路を諦めた男は、道順だけを運転手から聞き出し徒歩で宿泊予定のホテルへと向かうことになった。

 途中、交番で確認したところ近道があると教えて貰いその道を変えることになるが、それも運命だったのだろう………。

 近道の川沿いを進む男は、ふと既視感に襲われたのだ。

 知らない筈の道なのに何故か覚えがある……懐かしいようで恐い、そんな感覚に不安になりながらも何故か引き寄せられる様に歩く男。
 やがてホテルまでの道を外れた男は、フラフラと先へ先へ進んで行った……。

 だが……男はそこで後悔する。

 辿り着いたのは竹林……そう、夢で見たあの竹林そっくりなのだ。

 奇しくもその日は満月……男は月に目を奪われて動けない。

 すると、竹林の中から白く半透明な何かがスルリと伸び始まり月と同じ高さまで登るのが見えた。
 それはさながら餅が膨らむ様にゆっくりと伸びて行ったのだ。

 そして夢と同じく目が現れたところで男は気を失った……。



 翌日、近くの住人が男に気付き警察に通報。男は病院に入院することに……。

 男が病院の中で知り合った老人に聞いた話では、竹林のあった辺りは戦国の合戦場があったのだそうだ。
 そして合戦場跡には物ノ怪が出たという伝承もあるのだと老人は語る。


 分からないのは、何故男が幼い頃からそんな夢を見ていたのか……残念ながらそれを知る術はない。
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