とある奇談蒐集家の手稿

第六話 付喪神

　長く使用し続けた道具には魂が宿り付喪神になるという。そんな付喪神……必ずしも悪いものとは限らない。


　これはその一つの話。


　とある老人が片田舎街で独り暮らしをしていた。戦後の貧しい時代を知る老人は、とにかく物を大切に扱い手入れを怠らなかった。

　ある日、そんな老人が発作を起こし倒れる。だが、老人は独り暮らし……気付く者ない為に命の危機に陥った。
　それを救ったのは駆け付けた隣人。急ぎ救急車を呼んだ為事なきを得た。


　しばらくして退院した老人は、駆け付けた隣人に礼を兼ねて挨拶に向かう。

「偶然来て頂いて本当に助かりました」

　だが、怪訝な顔をした隣人は首を傾げる。

「あの時、あなたの家からけたたましい音がしたんです。それで様子を見に行ったのですが……」

　それは物をぶつける様な音だったと語った隣人は、老人が苦しい中で助けを求めたのだと思ったそうだ。


　不思議なこともあるものだと老人が家に帰宅すると、それまで大事にしていた古い道具が軒並み壊れていたという。

　老人は『付喪神が助けてくれた』と感謝し、壊れた道具を寺で丁重に弔って貰うことにした。その話は今も孫達に語って聞かせ、物を大切にするように教えている。