ボクらはあの桜の麓で

由海

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 四月中旬、やっと春らしい暖かさを取り戻してきた陽が窓から僕らを照らす。言葉通り睡魔という悪魔が何人かの意識を奪っていき、僕にも魔の手が忍び寄った頃五限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
楽しそうに群がる女子生徒。部活ばかの男子生徒。
椅子を引く音、駆け出す足音、人の話し声が聞こえる。

 片手で数えられた春休みは瞬きのごとく過ぎていった。見知らぬ土地で始まった生活は、同時に高校生としていられる最後の時間のカウントダウンも始めていた。僕は一応転校生だったため、新学期早々にクラスメイトの目の前で自己紹介をすることになった。バスの中で行った笑顔の練習の成果を見せることができたと言いたいところであったが、案の定ごく普通の、むしろ普通より良くない紹介に終わった。結果的に、今も一人でさっさと帰る準備をしている。

 田舎にある高校だけあってグランドは広く、教室から正門はやけに遠い。原付通学も許されている中、免許を持っていない僕は駐輪場に向かう。留めてある自転車はどれも使いこまれて少し砂埃をまとったものばかりだったが、その中で白く目立つ自転車が僕のだった。なんだか自転車まで浮いているのもみじめだったが、レンズ越しにそれを見ると以外にも良かったため試しに一枚とっておいた。カメラを取り出したついでに取りたい景色を思い出しもと来た道を戻った。

「へー、いいカメラじゃん」
「は、あ」
「うちの校舎いいよね、なんていうんだろこう、建築的美ももちろんなんだけど田舎ならでは空と壁面の配色もだし、構図としてやっぱり最高だよね」
「あ、うん」
「ていうか、君が持ってるカメラってさもうあんまり手に入れれない型じゃない?」
「ごめん、父からもらったものだから僕はそんなに詳しくなくて」
「そっか、でもとてもいいもの貰ったんだね羨ましい、こんなド田舎じゃなかなかいいカメラ手に入れれないし」
「そう、なんですね」
「あ、というか君さ写真部はいらない?」
「写真部?」
「部活って言っても、私しか部員いないからほとんど同好会だけど!」
「えっと」
「まあいいや、また声かけるから入りたくなったら教えてね」


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