4 / 5
3
しおりを挟む
あの日彼女と会った日、家に帰った僕はすぐにばあちゃんに桜の写真を見せた。写真を見るばあちゃんの目は近くの画面を見ているより遠い過去を見ているようだった。「綺麗だねー」「懐かしいよ」とばあちゃんは口にしてから「おとうさんとまた見に行きたかったね」と仏壇に置かれた写真に語りかけていた。
僕は次の日もその次の日も行ける日は彼女のいる丘に向かった。たまにばあちゃんの畑の手伝いとかで行けない日もあったが、彼女に会うことが僕の春休みの日課になっていた。
彼女と出逢った時の満開の桜の花はだんだんと散ってしまい、今は青緑の葉がちらほら芽吹いている。時間の流れが早く感じた。けれど彼女について知れたことあった。
彼女は佐々木 芽衣。僕より二歳年上の十九歳。僕より年上だけれどすこし子供っぽいところがあってなんだか面白い。それに彼女は「私はもうすぐお酒も飲めちゃう大人なんだよ春翔くん」と言って年下の僕を小馬鹿にする。あとは決まった時間に迎えにくる家族より前に僕が帰るというのが僕らささやかなルールでもある。こうやって彼女の事を考えてみると案外知れたことは少なかったのかも知れない。でもまあ僕としては上々だと思う。そういえば彼女は僕が偶然あげたべっこう飴をとても気に入ったようだ。今日も彼女にもって行ってあげよう。
「いってきます」
「はるくん今日も丘に行くのかい?」
「写真を撮りに」
「そうかい、ばあちゃんはてっきり誰かにでも会いに行くのかと思ってたよ、最近はるくんはなんだか楽しそうだからね」
そう言って笑うばあちゃんには敵わないと思った。僕が彼女と逢ったことはばあちゃんには言ってない。丘に写真を撮りに行くとだけ。
「最近僕って楽しそうにしてますか?」
今日の朝の出来事を彼女に話した。そしたら彼女はくすくすっと笑っている。
「そうだね、最初の頃より春翔は楽しそうにしてるかもしれない」
「僕はたいして変わったとは思えないけど」
「そういうのは自分ではわからないものだよきっと、それに春翔が楽しそうにしてるのって毎日私に会えるからでしょ?」
そう言ってにこにこ僕を見る彼女に僕は内心むせた。けど僕は彼女に小馬鹿にされないように必死に隠す。
「なわけないじゃないですか、僕はただ写真を撮りたいからここにきてるんです」
「どうだか、春翔は素直じゃないんだから」
結局僕の肩を意地悪くつつく彼女は僕を小馬鹿にしている。
「私は楽しいな」
彼女はそう囁くように言った。たしかに僕は彼女の言う通り素直なんかじゃないから彼女に向かって「僕もです」だなんて言えないけど、聞こえていることだけは伝えようと小さく頷いた。
「そういえば春翔はもうすぐ学校が始まるんじゃない?」
「そうですね」
春休みの残りの日数を指で数えたら、片手だけで数えるほどになっていた。憂鬱だ。
「春翔は引っ越してきたからきっとクラスで自己紹介とかしなきゃいけないんだろうね、春翔苦手そう、頑張って友達作りなよ」
「自己紹介も友達作りもたしかに苦手です、成功した試しがありませんから」
また彼女はくすくすっと笑っている。そんな気がすると言わなくても彼女がそう思ってることは伝わってくる。
「そうだね、とりあえずその固まった表情筋を緩めて笑顔でいこう」
「笑顔、ですか」
「そうそう」
「、、頑張ってみます」
そう宣言した真面目な僕は帰りのバスの中で一人笑顔の練習というのをしてみた。本当に表情筋が固まってしまったのだろうかと思ったがなんとか形にはなった。そんな僕の顔がバスのガラス越しにうつった、なんてばかばかしいことをやっているんだと思った。やっぱり僕は彼女に逢ってからなんだか愉快な人間になってしまったみたいだ。少しおかしかった。こんな所を見られたら絶対に小馬鹿にしてくる彼女を思い出すと自然と口元が緩んでいた。
僕は次の日もその次の日も行ける日は彼女のいる丘に向かった。たまにばあちゃんの畑の手伝いとかで行けない日もあったが、彼女に会うことが僕の春休みの日課になっていた。
彼女と出逢った時の満開の桜の花はだんだんと散ってしまい、今は青緑の葉がちらほら芽吹いている。時間の流れが早く感じた。けれど彼女について知れたことあった。
彼女は佐々木 芽衣。僕より二歳年上の十九歳。僕より年上だけれどすこし子供っぽいところがあってなんだか面白い。それに彼女は「私はもうすぐお酒も飲めちゃう大人なんだよ春翔くん」と言って年下の僕を小馬鹿にする。あとは決まった時間に迎えにくる家族より前に僕が帰るというのが僕らささやかなルールでもある。こうやって彼女の事を考えてみると案外知れたことは少なかったのかも知れない。でもまあ僕としては上々だと思う。そういえば彼女は僕が偶然あげたべっこう飴をとても気に入ったようだ。今日も彼女にもって行ってあげよう。
「いってきます」
「はるくん今日も丘に行くのかい?」
「写真を撮りに」
「そうかい、ばあちゃんはてっきり誰かにでも会いに行くのかと思ってたよ、最近はるくんはなんだか楽しそうだからね」
そう言って笑うばあちゃんには敵わないと思った。僕が彼女と逢ったことはばあちゃんには言ってない。丘に写真を撮りに行くとだけ。
「最近僕って楽しそうにしてますか?」
今日の朝の出来事を彼女に話した。そしたら彼女はくすくすっと笑っている。
「そうだね、最初の頃より春翔は楽しそうにしてるかもしれない」
「僕はたいして変わったとは思えないけど」
「そういうのは自分ではわからないものだよきっと、それに春翔が楽しそうにしてるのって毎日私に会えるからでしょ?」
そう言ってにこにこ僕を見る彼女に僕は内心むせた。けど僕は彼女に小馬鹿にされないように必死に隠す。
「なわけないじゃないですか、僕はただ写真を撮りたいからここにきてるんです」
「どうだか、春翔は素直じゃないんだから」
結局僕の肩を意地悪くつつく彼女は僕を小馬鹿にしている。
「私は楽しいな」
彼女はそう囁くように言った。たしかに僕は彼女の言う通り素直なんかじゃないから彼女に向かって「僕もです」だなんて言えないけど、聞こえていることだけは伝えようと小さく頷いた。
「そういえば春翔はもうすぐ学校が始まるんじゃない?」
「そうですね」
春休みの残りの日数を指で数えたら、片手だけで数えるほどになっていた。憂鬱だ。
「春翔は引っ越してきたからきっとクラスで自己紹介とかしなきゃいけないんだろうね、春翔苦手そう、頑張って友達作りなよ」
「自己紹介も友達作りもたしかに苦手です、成功した試しがありませんから」
また彼女はくすくすっと笑っている。そんな気がすると言わなくても彼女がそう思ってることは伝わってくる。
「そうだね、とりあえずその固まった表情筋を緩めて笑顔でいこう」
「笑顔、ですか」
「そうそう」
「、、頑張ってみます」
そう宣言した真面目な僕は帰りのバスの中で一人笑顔の練習というのをしてみた。本当に表情筋が固まってしまったのだろうかと思ったがなんとか形にはなった。そんな僕の顔がバスのガラス越しにうつった、なんてばかばかしいことをやっているんだと思った。やっぱり僕は彼女に逢ってからなんだか愉快な人間になってしまったみたいだ。少しおかしかった。こんな所を見られたら絶対に小馬鹿にしてくる彼女を思い出すと自然と口元が緩んでいた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。
Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる