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第三十四話
決戦の時①
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その光はやがてほっそりとした女性の形となり、次第に光の粒となって風に乗って消えて行く。露わになったのは銀色の軍服姿に身を包み、ポニーテールに結い上げた見事なカーマイン色の髪を靡かせたオッドアイの美女……キアラことユースティティアだった。彼女は高雅に微笑む。
「ごきげんよう、宰相ジェレミー殿」
と、軽快な声で親し気に挨拶を。されど底冷えするような冷たい眼差しでジェレミーを見つめた。ジェレミーは彼女の登場にアルカイックスマイルを作り、古代英国紳士式のお辞儀で応じる。
「これはこれは、テネーブル小国の『国境なき世直し魔導士兼親善大使』であらせられますユースティティア様ではございませんか。光の鳳凰をまとってのご登場に少々驚きました。なかなかユニークな演出ですね」
などと如何にも気さくに答えつつも、内心では小躍りするほど喜んでいた。
……飛んで火にいる夏の虫、てやつだな。手ぐすね引いて待ってたんだ。手間が省けたぞ……
「念願の相手との対面だもの。派手に行くのは礼儀でしょう?」
「おや、私との対面を念願とまでおっしゃってくださるとは、恐悦至極にございます」
またもや深々と頭を下げる男には、やはり彼には『慇懃無礼』という言葉がおあつらえ向きだ。キアラはチラリと小馬鹿にしたように一瞥した。
「あら、念願なのは私ではなくてあなたの方でしょう?」
「はて? 何の事やら」
「あらあら、惚けなくても宜しいのよ?」
「御冗談を」
「いいえ、私は至って真面目よ? あまたとは冗談を言うような仲でもないしね」
「ははは、これは一本取られましたなぁ。おっしゃる通りですね」
「ほほほほほ……」
「ふふふふ……」
さながら狐と狸の化かし合いだ。二人が腹の探り合いをしている間に、キアラの耳にテレパシーが続々と届いて行く。勿論、会話は仲間のみが共有出来るようになっている。
『ガーデニアです。今のところスタッフたちの様子は特に異常ありません。城内の事はお任せください』
『ラウルです、帝国内の国民たちは動揺や混乱はあるものの至って正常の範囲内、今のところ問題ありません』
『ヘイデンより、アエラス王国も問題無し』
『エルド王国、ドゥール王国共に異常ありません、ジョシュアより』
『オスカーです、エルデ王国、テネーブル小国共に問題ありません』
『こちら元康です。教皇ロレンツィオから元康に戻って魔塔にて待機。これより全体を見ます。今の所問題なく無効化の魔術は発揮されていますね。一先ずご安心を』
……いつでも準備O.K、て事ね……
キアラは前髪をかき上げた。それを見てリブラは更に三メートルほど下がる。音を立てず、まるで空気の上を歩くかのように。彼女の髪をかき上げる仕草は、「今から戦闘に入る」という合図なのだ。リブラはある事をする為に後方に下がったのだ。
一方、キアラと互いに相手の出方を探り合っている間、ジェレミーもまたテレパシーが届くのを待っていた。
……遅い! 何で何も言って来ないんだよ? 使えねーな相変わらず。せっかく、学友のよしみで引き入れてやったのに。まぁ、元々が何をやっても平均的で主体性の乏しくて流され易い、幻惑と洗脳に掛かり易いタイプだったから、てのが本当の理由なんだけどな……
余裕のある素振りを見せてはいるが、内心では焦りつつあった。
「もしかして待ち人はこの二人か?」
不意に、ジェレミーの左斜め後方より深みのある低めの声が響き渡る。キアラとリブラは予め予測していたようで平然と声の方向を見つめ、ジェレミーはギョッとして見やった。相変わらず彼の背中に隠れたまま、アンジェラインは錯乱状態が続いている様子だ。
「こいつら、『何で予定通り動かなんだ?』とかなんとか言って帝国公園大広間を走り回って居てな。挙動不審だったんでとっ捕まえて来たんだが」
声と共に3D映像のように空間からふわりと姿を現したのは、アーサーだった。右手には意識を失った灰色の髪の男、マーカスが。右手には同じく意識を失っているマホガニー色の髪の男カーネルの襟首を掴んでいる。
「え? マーカス? カーネル? ど、どうして……」
驚愕して呆然とするジェレミーと同時に、キアラの左隣に姿を現し
「遅くなってすまん」
と声をかけるジルベルトがほぼ同時だった。
「これで役者が揃いましたね」
リブラはそう言って右手をあげると、親指と中指を擦り合わせてパチンと鳴らした。すると庭園全体が光のドームに包み込まれていった。
「ごきげんよう、宰相ジェレミー殿」
と、軽快な声で親し気に挨拶を。されど底冷えするような冷たい眼差しでジェレミーを見つめた。ジェレミーは彼女の登場にアルカイックスマイルを作り、古代英国紳士式のお辞儀で応じる。
「これはこれは、テネーブル小国の『国境なき世直し魔導士兼親善大使』であらせられますユースティティア様ではございませんか。光の鳳凰をまとってのご登場に少々驚きました。なかなかユニークな演出ですね」
などと如何にも気さくに答えつつも、内心では小躍りするほど喜んでいた。
……飛んで火にいる夏の虫、てやつだな。手ぐすね引いて待ってたんだ。手間が省けたぞ……
「念願の相手との対面だもの。派手に行くのは礼儀でしょう?」
「おや、私との対面を念願とまでおっしゃってくださるとは、恐悦至極にございます」
またもや深々と頭を下げる男には、やはり彼には『慇懃無礼』という言葉がおあつらえ向きだ。キアラはチラリと小馬鹿にしたように一瞥した。
「あら、念願なのは私ではなくてあなたの方でしょう?」
「はて? 何の事やら」
「あらあら、惚けなくても宜しいのよ?」
「御冗談を」
「いいえ、私は至って真面目よ? あまたとは冗談を言うような仲でもないしね」
「ははは、これは一本取られましたなぁ。おっしゃる通りですね」
「ほほほほほ……」
「ふふふふ……」
さながら狐と狸の化かし合いだ。二人が腹の探り合いをしている間に、キアラの耳にテレパシーが続々と届いて行く。勿論、会話は仲間のみが共有出来るようになっている。
『ガーデニアです。今のところスタッフたちの様子は特に異常ありません。城内の事はお任せください』
『ラウルです、帝国内の国民たちは動揺や混乱はあるものの至って正常の範囲内、今のところ問題ありません』
『ヘイデンより、アエラス王国も問題無し』
『エルド王国、ドゥール王国共に異常ありません、ジョシュアより』
『オスカーです、エルデ王国、テネーブル小国共に問題ありません』
『こちら元康です。教皇ロレンツィオから元康に戻って魔塔にて待機。これより全体を見ます。今の所問題なく無効化の魔術は発揮されていますね。一先ずご安心を』
……いつでも準備O.K、て事ね……
キアラは前髪をかき上げた。それを見てリブラは更に三メートルほど下がる。音を立てず、まるで空気の上を歩くかのように。彼女の髪をかき上げる仕草は、「今から戦闘に入る」という合図なのだ。リブラはある事をする為に後方に下がったのだ。
一方、キアラと互いに相手の出方を探り合っている間、ジェレミーもまたテレパシーが届くのを待っていた。
……遅い! 何で何も言って来ないんだよ? 使えねーな相変わらず。せっかく、学友のよしみで引き入れてやったのに。まぁ、元々が何をやっても平均的で主体性の乏しくて流され易い、幻惑と洗脳に掛かり易いタイプだったから、てのが本当の理由なんだけどな……
余裕のある素振りを見せてはいるが、内心では焦りつつあった。
「もしかして待ち人はこの二人か?」
不意に、ジェレミーの左斜め後方より深みのある低めの声が響き渡る。キアラとリブラは予め予測していたようで平然と声の方向を見つめ、ジェレミーはギョッとして見やった。相変わらず彼の背中に隠れたまま、アンジェラインは錯乱状態が続いている様子だ。
「こいつら、『何で予定通り動かなんだ?』とかなんとか言って帝国公園大広間を走り回って居てな。挙動不審だったんでとっ捕まえて来たんだが」
声と共に3D映像のように空間からふわりと姿を現したのは、アーサーだった。右手には意識を失った灰色の髪の男、マーカスが。右手には同じく意識を失っているマホガニー色の髪の男カーネルの襟首を掴んでいる。
「え? マーカス? カーネル? ど、どうして……」
驚愕して呆然とするジェレミーと同時に、キアラの左隣に姿を現し
「遅くなってすまん」
と声をかけるジルベルトがほぼ同時だった。
「これで役者が揃いましたね」
リブラはそう言って右手をあげると、親指と中指を擦り合わせてパチンと鳴らした。すると庭園全体が光のドームに包み込まれていった。
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