上 下
73 / 83
第三十四話

決戦の時①

しおりを挟む
 その光はやがてほっそりとした女性の形となり、次第に光の粒となって風に乗って消えて行く。露わになったのは銀色の軍服姿に身を包み、ポニーテールに結い上げた見事なカーマイン色の髪を靡かせたオッドアイの美女……キアラことユースティティアだった。彼女は高雅に微笑む。

 「ごきげんよう、宰相ジェレミー殿」

と、軽快な声で親し気に挨拶を。されど底冷えするような冷たい眼差しでジェレミーを見つめた。ジェレミーは彼女の登場にアルカイックスマイルを作り、古代英国紳士式のお辞儀で応じる。

「これはこれは、テネーブル小国の『国境なき世直し魔導士兼親善大使』であらせられますユースティティア様ではございませんか。光の鳳凰をまとってのご登場に少々驚きました。なかなかユニークな演出ですね」

 などと如何にも気さくに答えつつも、内心では小躍りするほど喜んでいた。

……飛んで火にいる夏の虫、てやつだな。手ぐすね引いて待ってたんだ。手間が省けたぞ……

の相手との対面だもの。派手に行くのは礼儀でしょう?」
「おや、私との対面をとまでおっしゃってくださるとは、恐悦至極にございます」

 またもや深々と頭を下げる男には、やはり彼には『慇懃無礼』という言葉がおあつらえ向きだ。キアラユースティティアはチラリと小馬鹿にしたように一瞥した。

「あら、なのは私ではなくてあなたの方でしょう?」
「はて? 何の事やら」
「あらあら、惚けなくても宜しいのよ?」
「御冗談を」
「いいえ、私は至って真面目よ? あまたとは冗談を言うような仲でもないしね」
「ははは、これは一本取られましたなぁ。おっしゃる通りですね」
「ほほほほほ……」
「ふふふふ……」

 さながら狐と狸の化かし合いだ。二人が腹の探り合いをしている間に、キアラの耳にテレパシーが続々と届いて行く。勿論、会話は仲間が共有出来るようになっている。

『ガーデニアです。今のところスタッフたちの様子は特に異常ありません。城内の事はお任せください』
『ラウルです、帝国内の国民たちは動揺や混乱はあるものの至って正常の範囲内、今のところ問題ありません』
『ヘイデンより、アエラス王国も問題無し』
『エルド王国、ドゥール王国共に異常ありません、ジョシュアより』
『オスカーです、エルデ王国、テネーブル小国共に問題ありません』
『こちら元康です。教皇ロレンツィオからに戻って魔塔にて待機。これよりを見ます。今の所問題なく無効化の魔術は発揮されていますね。一先ずご安心を』

 ……いつでも準備O.K、て事ね……

キアラは前髪をかき上げた。それを見てリブラは更に三メートルほど下がる。音を立てず、まるで空気の上を歩くかのように。彼女の髪をかき上げる仕草は、「今から戦闘に入る」という合図なのだ。リブラはをする為に後方に下がったのだ。

 一方、キアラと互いに相手の出方を探り合っている間、ジェレミーもまたテレパシーが届くのを待っていた。

 ……遅い! 何で何も言って来ないんだよ? 使えねーな相変わらず。せっかく、学友ので引き入れてやったのに。まぁ、元々が何をやっても平均的で主体性の乏しくて流され易い、幻惑と洗脳に掛かり易いタイプだったから、てのが本当の理由なんだけどな……

 余裕のある素振りを見せてはいるが、内心では焦りつつあった。

「もしかして待ち人はこの二人か?」

不意に、ジェレミーの左斜め後方より深みのある低めの声が響き渡る。キアラとリブラは予め予測していたようで平然と声の方向を見つめ、ジェレミーはギョッとして見やった。相変わらず彼の背中に隠れたまま、アンジェラインは錯乱状態が続いている様子だ。

「こいつら、『何で予定通り動かなんだ?』とかなんとか言って帝国公園大広間を走り回って居てな。挙動不審だったんでとっ捕まえて来たんだが」

 声と共に3D映像のように空間からふわりと姿を現したのは、アーサーだった。右手には意識を失った灰色の髪の男、マーカスが。右手には同じく意識を失っているマホガニー色の髪の男カーネルの襟首を掴んでいる。

 「え? マーカス? カーネル? ど、どうして……」

驚愕して呆然とするジェレミーと同時に、キアラの左隣に姿を現し

「遅くなってすまん」

と声をかけるジルベルトがほぼ同時だった。

「これでが揃いましたね」

リブラはそう言って右手をあげると、親指と中指を擦り合わせてパチンと鳴らした。すると庭園全体が光のドームに包み込まれていった。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

聖女は仮面夫婦を望みます

恋愛
キルッシュ王国は聖女の結界によって、魔物から守られてきた。 けれど、数百年に一度、聖女の結界は弱まり魔物の進入が増えてくる。 現国王のミハイリッツは息子のアーシャントに聖女との婚姻を命じた けれどアーシャントには公爵令嬢のラディールという婚約者がいた。 ゆるゆるの設定でご都合主義です。 軽い短編のつもりです。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

私のウィル

豆狸
恋愛
王都の侯爵邸へ戻ったらお父様に婚約解消をお願いしましょう、そう思いながら婚約指輪を外して、私は心の中で呟きました。 ──さようなら、私のウィル。

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

処理中です...