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第二十四話
会談と再会と①
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テネーブル小国との会談を目前に控え、ジルベルトは頭を抱えていた。聖女との会話を思い返す。
使用人の大量採用について問うと、
『え? 使用人を沢山採用した事? だって職に困っている人を救って差し上げられるし、王城では常に人手不足だから一挙両得よ』
得意気に言ってのける。これはまぁ、そう来るだろうとは思っていたから、ある意味予想を裏切らないというか……。では、純愛を貫いたとかで不倫やら略奪の末に着の身着のまま駆け落ちして衣食住に困窮したものの救済について聞いたところ……
『あ! それ私たちがモデルケースになっている訳でしょう? お助けして当たり前の事ですわ』
『あ、あ……当たり前?』
『私たちが火付け役となって正しい事を広めたのですから、その結果に責任を取るのは当然ではありませぬか?』
(結果に責任? そ、そう来るのか……)
『……では、逆に問うが、奪われた側もまた、社会的地位の失墜、誹謗中傷で一族諸他国に逃げ出すしかない状況に追い込まれている、と報告が上がって来ているのだが、その点についてはどう考える?』
『それは、悪行の報いですわ!』
『何? 悪行?』
『ええ、真実の愛に目覚めた二人を邪魔するのは悪です。ですから罰が当たって当然かと』
(駄目だ、話が通じない。ここまで頭に花が咲いていたとは……俺の自業自得とは言え、やはり禁術『回帰魔術』を使うべきか……)
『話は国家レベルで騒動になっているから、そういったファンタジーの話はプライベートで仲の良いヤツと盛り上がってくれないか。冗談言ってる場合ではないのだ』
『まぁ、冗談だなんて酷いですわ。私はいつだって真面目ですのよ』
と頬を膨らませてツンと顔を横に向けた。本人は可愛い膨れ面のつもりなんだろうけど、あざとさとアホの極みで全く何の魅力も感じない。それどころか嫌悪感すら覚えた。
『そ、そうか。まぁ兎に角、テネーブル小国との会談では何も発言せずにただアルカイックスマイルを浮かべているだけにしておいておくれ。くれぐれも頼むぞ、もう一度念を押しておく』
『まぁ! まるで私がとんでもない発言をしてしまうかのような口ぶりですわね?!』
(その通りだ。体調不良とでも理由づけて会談を欠席にさせた方が良いのではないだろうか……。だが、会談ともなる場での欠席だと、見舞いだなんだと大事になり兼ねない……)
『ハハハハ……そ、そう拗ねるな、わ、我が国の聖女兼皇后は……、その、なんだ、そうだ、うん。ただ微笑んでいるだけで魅力的なのだと知らしめる為なのだよ、うん。そういう事だ。ハハハハハ……』
『まぁ! うふふふふ、ジルベルトったら』
どうやらご機嫌は直ったようだった。
……優秀な側近が必要って本当だな。こんな事思うのは虫が良すぎるが、ヘイデンが居てくれたらな。今の側近は、ジェレミー絡み、つまりアンジェ側の奴らばかりだ。まぁ、これも俺の傲慢さが招いた隙がそもそもジェレミーなんかに付け込まれる原因を作っちまったんだ……
会談の前に冷静になろうと、気遣わし気にラウルが見守る中思考を整理する。影では、ジョシュアやオスカーが護衛兼手筈通りに任務を遂行しようと待機している筈だ。ラウルもガーデニアも然り。有難い事だと思う。
……元康の指揮の元、ジェレミーの「幻惑魔術」と「洗脳」と「記憶操作」、アンジェの「無意識の魅惑とマインドコントロール」対策は整えた、と。後は会談が始まる直前に心の中で詠唱を唱えれば、テネーブル小国の訪問者にも術は有効になる……
元康が魔術を掛けた魔法石を彼の指示の元、応接会議室に設置したのだ。勿論、表からは見えないように細工がなされている。その部屋自体に、ジェレミーやアンジェの魔力を『無効化』出来るようにする為の仕掛けだった。更に念を入れて、心の中でジルベルトが詠唱を唱える事で、二人の魔力自体が発動しないようにする効果も仕掛けてある。直接顔を合わせてから詠唱を唱える方が効果が高い為、テネーブル小国のメンバーが到着次第心の中で詠唱を唱えるという訳だ。この計画に関わっているラウルやヘイデン、ガーデニア、オスカーとジョシュアには予めジェレミーとアンジェの魔術を無効化し弾き返せるように魔術を掛けてある事は言うまでもない。
「考え事ですか? 陛下、もうすぐテネーブル小国の方々が到着されるようです」
背後から突然声がかかる。一見すると、心地良く癒されそうな耳障りの良い声だが、水面を這うような不快さを持つ二面性の声色。ジェレミーだ。振り返るが、彼の目に視線は合わせない。メドゥーサではないが、彼の目を見ると『幻惑魔術』に掛かり易くなると元康からの報告を受けた。
「あぁ、分かった」
ジルベルトは平静を装ってジェレミーの後へと続く。
……おや? 以前にもこのような事があった気がするぞ……
ふと、デジャブを感じた。
その頃、ユースティティアに扮するキアラは、懐かしい王城を目の前にして秘かに内なる闘志を滾らせていた。
……さて、脳内お花畑の聖女と憎きジェレミー。今度はもう容赦しないわよ! 一年よ、何せ、あなたたちの為に凡そ一年掛けて秘策術を編み出したんだから!……
そんな彼女を、万全にフォローしよう、いざとなればこの身を盾にして守り抜こうとリブラに扮するセスは戦闘態勢を取った。陰でテネーブル小国の一行全てを守護する役目を担うアーサーは、帝国の王城の影という影全体に漂う不穏なオーラに眉を潜め、その正体を探るべく全神経を集中させた。
使用人の大量採用について問うと、
『え? 使用人を沢山採用した事? だって職に困っている人を救って差し上げられるし、王城では常に人手不足だから一挙両得よ』
得意気に言ってのける。これはまぁ、そう来るだろうとは思っていたから、ある意味予想を裏切らないというか……。では、純愛を貫いたとかで不倫やら略奪の末に着の身着のまま駆け落ちして衣食住に困窮したものの救済について聞いたところ……
『あ! それ私たちがモデルケースになっている訳でしょう? お助けして当たり前の事ですわ』
『あ、あ……当たり前?』
『私たちが火付け役となって正しい事を広めたのですから、その結果に責任を取るのは当然ではありませぬか?』
(結果に責任? そ、そう来るのか……)
『……では、逆に問うが、奪われた側もまた、社会的地位の失墜、誹謗中傷で一族諸他国に逃げ出すしかない状況に追い込まれている、と報告が上がって来ているのだが、その点についてはどう考える?』
『それは、悪行の報いですわ!』
『何? 悪行?』
『ええ、真実の愛に目覚めた二人を邪魔するのは悪です。ですから罰が当たって当然かと』
(駄目だ、話が通じない。ここまで頭に花が咲いていたとは……俺の自業自得とは言え、やはり禁術『回帰魔術』を使うべきか……)
『話は国家レベルで騒動になっているから、そういったファンタジーの話はプライベートで仲の良いヤツと盛り上がってくれないか。冗談言ってる場合ではないのだ』
『まぁ、冗談だなんて酷いですわ。私はいつだって真面目ですのよ』
と頬を膨らませてツンと顔を横に向けた。本人は可愛い膨れ面のつもりなんだろうけど、あざとさとアホの極みで全く何の魅力も感じない。それどころか嫌悪感すら覚えた。
『そ、そうか。まぁ兎に角、テネーブル小国との会談では何も発言せずにただアルカイックスマイルを浮かべているだけにしておいておくれ。くれぐれも頼むぞ、もう一度念を押しておく』
『まぁ! まるで私がとんでもない発言をしてしまうかのような口ぶりですわね?!』
(その通りだ。体調不良とでも理由づけて会談を欠席にさせた方が良いのではないだろうか……。だが、会談ともなる場での欠席だと、見舞いだなんだと大事になり兼ねない……)
『ハハハハ……そ、そう拗ねるな、わ、我が国の聖女兼皇后は……、その、なんだ、そうだ、うん。ただ微笑んでいるだけで魅力的なのだと知らしめる為なのだよ、うん。そういう事だ。ハハハハハ……』
『まぁ! うふふふふ、ジルベルトったら』
どうやらご機嫌は直ったようだった。
……優秀な側近が必要って本当だな。こんな事思うのは虫が良すぎるが、ヘイデンが居てくれたらな。今の側近は、ジェレミー絡み、つまりアンジェ側の奴らばかりだ。まぁ、これも俺の傲慢さが招いた隙がそもそもジェレミーなんかに付け込まれる原因を作っちまったんだ……
会談の前に冷静になろうと、気遣わし気にラウルが見守る中思考を整理する。影では、ジョシュアやオスカーが護衛兼手筈通りに任務を遂行しようと待機している筈だ。ラウルもガーデニアも然り。有難い事だと思う。
……元康の指揮の元、ジェレミーの「幻惑魔術」と「洗脳」と「記憶操作」、アンジェの「無意識の魅惑とマインドコントロール」対策は整えた、と。後は会談が始まる直前に心の中で詠唱を唱えれば、テネーブル小国の訪問者にも術は有効になる……
元康が魔術を掛けた魔法石を彼の指示の元、応接会議室に設置したのだ。勿論、表からは見えないように細工がなされている。その部屋自体に、ジェレミーやアンジェの魔力を『無効化』出来るようにする為の仕掛けだった。更に念を入れて、心の中でジルベルトが詠唱を唱える事で、二人の魔力自体が発動しないようにする効果も仕掛けてある。直接顔を合わせてから詠唱を唱える方が効果が高い為、テネーブル小国のメンバーが到着次第心の中で詠唱を唱えるという訳だ。この計画に関わっているラウルやヘイデン、ガーデニア、オスカーとジョシュアには予めジェレミーとアンジェの魔術を無効化し弾き返せるように魔術を掛けてある事は言うまでもない。
「考え事ですか? 陛下、もうすぐテネーブル小国の方々が到着されるようです」
背後から突然声がかかる。一見すると、心地良く癒されそうな耳障りの良い声だが、水面を這うような不快さを持つ二面性の声色。ジェレミーだ。振り返るが、彼の目に視線は合わせない。メドゥーサではないが、彼の目を見ると『幻惑魔術』に掛かり易くなると元康からの報告を受けた。
「あぁ、分かった」
ジルベルトは平静を装ってジェレミーの後へと続く。
……おや? 以前にもこのような事があった気がするぞ……
ふと、デジャブを感じた。
その頃、ユースティティアに扮するキアラは、懐かしい王城を目の前にして秘かに内なる闘志を滾らせていた。
……さて、脳内お花畑の聖女と憎きジェレミー。今度はもう容赦しないわよ! 一年よ、何せ、あなたたちの為に凡そ一年掛けて秘策術を編み出したんだから!……
そんな彼女を、万全にフォローしよう、いざとなればこの身を盾にして守り抜こうとリブラに扮するセスは戦闘態勢を取った。陰でテネーブル小国の一行全てを守護する役目を担うアーサーは、帝国の王城の影という影全体に漂う不穏なオーラに眉を潜め、その正体を探るべく全神経を集中させた。
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