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第四十三話

ベリアルの決断・後編

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「ベリアル!!」

 恵茉は叫んで飛び起きた。

「あらら、もう目覚めちゃったの?」

 アステマは困惑したように話しかける。

「アステマさん? ここは? ベリアルは? ねぇ? ベリアルの様子が変だったの。まるで、永遠のお別れみたいに……」

 アステマの腕にすがって、目に大粒の涙を浮かべる恵茉。

……ヤレヤレ。こんな顔で涙見せられたら、誰だってなんでも願いを叶えてやりたくなっちまうよ。ベリアルの気持ちも、分からなくはないなぁ……

 と感じつつ、

「落ち着いて。あのね。ベリアルはね。今、恵茉ちゃんの為に奔走してくれてるんだよ」

 アステマは右手で恵茉をの背中を軽く叩きながら、宥めるようにして恵茉に諭す。

「知ってるもん、今までだって、危ない仕事はベリアルが一人でやって。私にはやり易いお仕事探してくれて。
今、きっと、私を助ける為に……」

 アステマは右手を恵茉の額に翳すと、手の平からオレンジ色のオーラが溢れ出す。そのオーラは、泣きじゃくる恵茉の額から顔全体を包み込んでいく。

「……そうか、全部わかっていたんだね。そこまで信頼してたんだ。ベリアル、男冥利に尽きるね」

「ベリアルだから、甘えていられたんだもん。ベリアルだから……ベリアルが……」

 やがて恵茉は、再び眠りの世界へと引き込まれた。前のめりに倒れ掛かった恵茉を両手で支えると、静かにソファに寝かせた。

「もう少し、眠っててね。ルシファー様から合図があったら、君を現実世界に無事に送り届けるよ。そしたら、悲しい辛い記憶は、全部消えているから。悲しい夢を、見る事も、無い……よ……」

 涙で声がかすれてしまうアステマだった。

「やっぱり、恨むよ、ベリアル。こんな役、僕にさせて……」




 魔王はこたえた。

「アシュタルト一派の件は委細承知した。いっそ、もう全く別の次元のモノたちとして分けてしまおうと思う」
「そうか。その方が面倒くさくなくて良いかもな。ちょいと、天界との手続きが面倒だけど……すまないな。こんな最期になってしまって」

 ベリアルは魔王に頭を下げた。

「謝る事はない。天界から今に至るまでお前には世話になった。お前の支えなくして、私はここまではこれなかった。意外な最期だったな」

 魔王は寂しそうに答える。

「お前の手で逝けるなら、本望さ」

 ベリアルは笑った。全てを受け入れた、清々しい笑顔だった。

「お前が最後に選んだ場所が、ここだったとは……」

「堕とされた場所が、ここだったからな」

 そこは魔界山麓の頂上。そこから眺める景色は、まるで水墨画で描いたような山並みが見える。僅かに生えた草木、石がところどころ転がった土が広がる場所だった。

 魔王は、しっかりとベリアルに向き合う。プラチナ色の瞳が、ローズレッドの瞳を捉えた。ベリアルもしっかりと魔王に向き合う。魔王はやがて右手を伸ばし、手の平をベリアルの額に翳した。ダークパープルの光が、手の平から溢れ出す。

「ベリアルよ、覚悟は良いな?」

 穏やかな優しい声で、魔王はべリアルに確認を取る。

「あぁ、ひとおもいに無にしてくれ」

 ベリアルは微笑むと、目を閉じた。
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