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第三十八話
見習い悪魔が笛を吹く時???
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恵茉の自室のリビングにて。ルシファーの元より帰宅後である。
「魔王ルシファー様。素敵なボスね。ベリアルが言っていた、他人からの称賛、評価は恣意的なもの。だから自分軸で生きる。よく分かったわ! 結局、人生は楽しんだもの勝ち。太平さんみたいに、自分軸で生きた方が自分が満足出来る生涯、て事ね」
恵茉は目をキラキラさせている。ベリアルは満足そうにそんな恵茉を見つめる。
「……ま、そう言う事だ。太平の生き方は分かりやすい。参考にし易いだろう。何をもって幸せとするか、成功のかたちなんて人それぞれ違いもんだしな」
と答ええう。そしいぇ不意に真面目な面持ちになった。
「……なぁ、恵茉。人間界で、もう一度やり直したくなったり、してないか?」
と躊躇いがちに切り出した。恵茉はキョトンとすると、
「……いきなりどうしたの? 今の方が生きてる充実感が違うし。今更……」
「あのな、実はな。見習い悪魔から悪魔に昇格する時の話なんだがな」
「うん」
「昇格試験は、笛を渡されるんだ」
「笛?」
「あぁ。『ハーメルンの笛』て話、知ってるな。それを例えて言ってるんだ。笛と言っても、人間の耳には聞こえないんだが。その笛を吹くと、それを聞いた人間はな……心の奥底に秘めていた残虐非道性が芽生え、理性が殆どきかない状態になるんだ……」
「そ、そうなると……どうなるの?」
「聞いた人間達の殺し合いの始まりだ。魔がさす瞬間とも言うが、勿論、理性の力で抑える事も可能ではある。極めて困難だが……。言い方を変えたら、自らが魔族と契約しやすい状態になるんだ。殺し合う人数の多さとその残業性で、悪魔に昇格する際の悪魔の階級が決まる。つまりな、『見習い悪魔は笛を吹けるか?』が昇格試験なんだ。今更すまない……」
心底申し訳なさそうなベリアル。
「……そ、そんな……。そりゃ、すべての闇と邪悪を担当する悪魔だもの、そう簡単に悪魔になんか、なれる訳ない、と思ってはいたけど……」
恵茉は、衝撃のあまり思考が働かない。そしてこのところ毎朝のタロット占いで、ずっと『塔』ばかり出ていた理由が分かった気がしたのだった。
(そうか、つまりタロットが言っていたのは『衝撃』を受けることがあるよ、と……)
少しの間重苦しい沈黙が続いた。やがて恵茉は、笛を吹く件について最大の気がかりを質問する。
「……それで、その虐殺で亡くなった人はどうなるの? たまたま偶然、巻き込まれたりしたら……」
「それは大丈夫だ。特殊事項につき、見習い悪魔が悪魔に昇格試験を受ける時は、事前に天界や幽・妖界各界に連絡し、手筈を整える。死神が、そのときその瞬間悪魔にそそのかされ易い奴らをそこに集まるように仕向けるんだ。まぁ、運悪くたまたま巻き込まれて死ぬ人間も少しは出るが、それはその本人に何の咎めがないのなら、すぐに生前よりもっと恵まれた環境で、才能にも恵まれて花開くかたちで生まれ変わるように計らう。だから、そそのかされて犯行に及んだ人間は自ら悪魔に身を委ねたことになるのさ」
「……そう、それならまぁ、決断するのに迷いは少なくて済むわね」
「今すぐ決めなくて良いさ。ただ、早めに言っておかないと、と思ってな」
「……うん、そうだね。ありがとう。少し考えてみる」
そう言って、恵茉は今にも泣き出しそうな笑みを浮かべた。
「魔王ルシファー様。素敵なボスね。ベリアルが言っていた、他人からの称賛、評価は恣意的なもの。だから自分軸で生きる。よく分かったわ! 結局、人生は楽しんだもの勝ち。太平さんみたいに、自分軸で生きた方が自分が満足出来る生涯、て事ね」
恵茉は目をキラキラさせている。ベリアルは満足そうにそんな恵茉を見つめる。
「……ま、そう言う事だ。太平の生き方は分かりやすい。参考にし易いだろう。何をもって幸せとするか、成功のかたちなんて人それぞれ違いもんだしな」
と答ええう。そしいぇ不意に真面目な面持ちになった。
「……なぁ、恵茉。人間界で、もう一度やり直したくなったり、してないか?」
と躊躇いがちに切り出した。恵茉はキョトンとすると、
「……いきなりどうしたの? 今の方が生きてる充実感が違うし。今更……」
「あのな、実はな。見習い悪魔から悪魔に昇格する時の話なんだがな」
「うん」
「昇格試験は、笛を渡されるんだ」
「笛?」
「あぁ。『ハーメルンの笛』て話、知ってるな。それを例えて言ってるんだ。笛と言っても、人間の耳には聞こえないんだが。その笛を吹くと、それを聞いた人間はな……心の奥底に秘めていた残虐非道性が芽生え、理性が殆どきかない状態になるんだ……」
「そ、そうなると……どうなるの?」
「聞いた人間達の殺し合いの始まりだ。魔がさす瞬間とも言うが、勿論、理性の力で抑える事も可能ではある。極めて困難だが……。言い方を変えたら、自らが魔族と契約しやすい状態になるんだ。殺し合う人数の多さとその残業性で、悪魔に昇格する際の悪魔の階級が決まる。つまりな、『見習い悪魔は笛を吹けるか?』が昇格試験なんだ。今更すまない……」
心底申し訳なさそうなベリアル。
「……そ、そんな……。そりゃ、すべての闇と邪悪を担当する悪魔だもの、そう簡単に悪魔になんか、なれる訳ない、と思ってはいたけど……」
恵茉は、衝撃のあまり思考が働かない。そしてこのところ毎朝のタロット占いで、ずっと『塔』ばかり出ていた理由が分かった気がしたのだった。
(そうか、つまりタロットが言っていたのは『衝撃』を受けることがあるよ、と……)
少しの間重苦しい沈黙が続いた。やがて恵茉は、笛を吹く件について最大の気がかりを質問する。
「……それで、その虐殺で亡くなった人はどうなるの? たまたま偶然、巻き込まれたりしたら……」
「それは大丈夫だ。特殊事項につき、見習い悪魔が悪魔に昇格試験を受ける時は、事前に天界や幽・妖界各界に連絡し、手筈を整える。死神が、そのときその瞬間悪魔にそそのかされ易い奴らをそこに集まるように仕向けるんだ。まぁ、運悪くたまたま巻き込まれて死ぬ人間も少しは出るが、それはその本人に何の咎めがないのなら、すぐに生前よりもっと恵まれた環境で、才能にも恵まれて花開くかたちで生まれ変わるように計らう。だから、そそのかされて犯行に及んだ人間は自ら悪魔に身を委ねたことになるのさ」
「……そう、それならまぁ、決断するのに迷いは少なくて済むわね」
「今すぐ決めなくて良いさ。ただ、早めに言っておかないと、と思ってな」
「……うん、そうだね。ありがとう。少し考えてみる」
そう言って、恵茉は今にも泣き出しそうな笑みを浮かべた。
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