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第三十話

いい加減な奴、狡賢い奴ほど人生上手くいくような気がするのだけど・その四

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 アミーは通常の姿に戻ってパソコンに向かっている。骨や筋肉、血管が透けて見える指が思いの外長く、優雅な形をしていた。赤々と燃え盛る炎の髪はおよそ30cmほど天に突き上げている。ギョロリとした虚ろな瞳に映し出されているのは……。

『宿命は変えられない! ですが運命は自分の意志で変えられます。変えて見せましょう、彼の心をあなただけのものに!』

 霊感霊視透視をうたった電話占いの宣伝だ。

『守護霊を交代させて思い通りの人生を歩みましょう。不可能を可能に!』

 いくつかの電話占いの会社をピックアップして見ているようだ。次に、「スピリチュアル」と検索する。

『「引き寄せ」極意をお教します!』
『神様を味方につけて人生思い通りに!』
『あなただけの守護天使を創りませんか?』
『龍神をなたの眷属にして人生を謳歌しましょう!』

 アミーは骸骨のように剥き出しになった歯をより一層剥き出し、赤く浮き出た血管が脈打つ唇が弧を描いた。

「順調に行っているようですね」

 少し高めの男の声とともに、向かい側の席に突如男が現れた。全身がシアン色の肌だ。痩せてヒョロリとしている。小豆色のローブに身を包み、冷たく整った顔立ちを派手な蛍光ピンク髪が額縁のように縁取っている。そしてその髪は肩の下あたりまで伸ばされて、さざ波のように波打っていた。藍色の唇は冷酷そうに引き結んでいる。その癖、切れ長の瞳は落ち着いた土色で、この者の思慮深さと誠実さを物語っていた。

「あぁ、いささか簡単過ぎるくらいにな」

 アミーは答えた。

「あまりにも簡単過ぎて、目も回るような忙しさだと『新人悪魔教育係』のアンドロマリウスが嘆いていましたよ」

 と男はこたえた。この男はハーゲンティ。魔界きっての錬金術師で、医術、薬学、そして黒魔術を扱う。その延長で魔界の建築系も担当していた。見習い悪魔の自宅を建てたのは彼である事は。前述した通りだ。魔術関連の植物系も育てるので、ガーデニングも担当の域である。

 基本的に、彼らは単独で仕事をこなす。専門的な分野の為、単独の方が捗りやすいという理由からの特例だ。アミーは占い師の他に、人生に行く詰まりを感じたり、理不尽さを感じている人間に囁いてスピリチュアル系に興味を抱くように囁き、一時的に神や巫女系の力を与えてスピリチュアリストとしてリーダーに導く事も担当していた。そのリーダーとなった者が人間の信者を引き入れ、その信者がリーダーになって……と連鎖していく。一時的に力を与えられた人間はより地位と名声や富を欲しがり、簡単に悪魔と契約、そして自滅していった。

 ハーゲンティは、アミーが作る「魔術関連グッズ」……人間には「開運アイテム」として売るのだが、その材料の調達やアイテムの開発などを担当しており、時折こうして会って情報交換や相談をする時間を設けていた。

「承認欲求を満たせば、簡単に契約しちまうからなぁ、人間は」

 クックック、とアミーは笑う。

「そう言えば、人間上がりの小娘とやらが弟子入りしたとか聞きましたが?」

 ハーゲンティは思い出したように問う。

「あぁ、なかなか面白い娘だ。ベリアルが選ぶだけの事はあるな」
「へぇ? あなたにそ言わせるなんて大したものだ。是非一度お会いしてみたいですね」
「ま、その内会えるだろ」

 不意に、何かの気配を察知して同時に虚空を見上げ、身構える二体。彼らの視線の先に現れたのは、サッと黒い翼がバサリと音を立て、

「突然邪魔してすまんな。お前たちがちょうど会っている時だと聞いてな。すまん、緊急に相談したい事がある!」

 挨拶もそこそこに、急き込んで話し出すベリアルであった。
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