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第十二話

恵茉、偶然大天使ウリエルに逢う! 前編

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 ベリアルが去った後、恵茉はとりあえず風呂に入ろうと思い、浴槽を軽くシャワーで流した後、お湯を入れた。ボディーソープ、シャンプーにコンディショナー、洗顔フォーム。フェイスタオルにバスタオル、浴衣と帯。ドライヤーにヘアーオイル、化粧水に乳液まで完備されている。まるでちょっとしたホテルのようだ。

 どの悪魔がどうやってこの家を建てたのか? 何を完備するかを決めた悪魔は誰か? ベリアルに是非聞いてみようと思った。

 風呂から上がり、髪を乾かして浴衣を着てみる。淡いブルーの無地の浴衣に紺色の帯。至ってシンプルなのが意外だった。食物摂取は特に必要無い、との事だったが、本当に空腹を感じないのだ。

「ダイエットできちゃうかしら!」

 恵茉は『ベリアルに質問ノート』に、先ほどの二つと、ダイエットはどこまで可能か?を書き加えた。次に冷蔵庫を開けてみた。2Lのペットボトルの天然水が10本、ぎっしりと詰まっていた。水分は取れ、と言うベリアルの言葉を思い出し、一本取り出す。

 キッチンの食器棚からコップを取り出し、水道で軽くすすいでから、水をくんだ。その際、何気なくペットボトルの銘柄を見て

「えっ?」

 と思わず声を上げた。

『魔界山麓の安心安全な水』

 という名前らしい。魔界山麓…どこよ? 『ベリアルに質問ノート』に書き加えた。

「ま、毒じゃないっしょ。のんで尻尾や角が生えて来たら、それはそれでいっかー」

 飲んでみた。

…人間界の天然水と変わらなかった…

 残りの水が入ったコップを持って、リビングのソファーに座る。ソファーの色は落ち着いたブラウンだ。ガラステーブルにコップを置き、試しにテレビをつけてみる。まず、コンセントを差し込み、テーブルの上のリモコンの電源を押す。

 ニュースがかかった。こちらも人間界と変わらない様子だ。次に、テーブルにあるノートパソコンを立ち上げてみようと思った。画面を開けると…何やら蛍光イエローのポストイットが貼られ、そこには

「パスワードまで書いてくれてある! 至れり尽くせりでしょう!」

 恵茉はご機嫌である。

「何々? minaraiakuma666 て、マジ?? フザケ過ぎでしょう! あ! 開いた! さて、ブログでも書いて、SNSと連動させてみるかね、と。いきなり、悪魔に質問あるひとー! と言って返事する人いないわよね。どうしようかなぁ」

 恵茉は色々考えていると、ふと、好きだった美術部。幽霊部員になった切っ掛けが頭を掠めた。

 パクリ人気イラストレーター。確か、とある小説・イラスト投稿サイトでも大活躍だった。

「とりあえず、堕天使が出てくるファンタジー小説を書きたいのでご協力お願いします、みたいにしてみるか。あんまり効果無さそうだけど、閲覧もほとんど無いだろうし。ま、やるだけやってみるかねー。あれか、萌系のイラスト描いてプロフィール画像に貼ってみるか。少しは読んでくれる人増えるかなー」

 とりあえず、とある大手のサイトでブログの登録。小説・イラスト投稿サイトに登録だけしてみた。名前をはじめとしたプロフィールも記入しようと思ったのだが、どうやら眠りの世界から誘いが来たようだ。

「眠ーい。スマホで朝7時に目覚ましかけて、寝よう……。プロフに登録するニックネーム、その他、ベリアルの意見聞いてからにしよう」

 と呟きつつ、パソコンをシャットダウンさせ、寝室へと歩みを進めた。寝室の部屋全体を見てみる余裕もなく、ベッドに身を横たえると、そのまま眠りに落ちていった。


ーーーーーーーーー


 翌朝、スマホの目覚まし機能に起こされる少し前に自然に目が覚めた。

「なんだか、久々に熟睡した気がする。夢も見ないなんて」

 恵茉は思わず苦笑してしまう。一抹の寂しさや、両親や友達が恋しいとも感じないとは。まぁ、しばらくしたらジワジワとくるのかもしれないが。

 起き上がり、寝室の窓を開けてみる。

「いい天気」


 何となく嬉しくなった。とりあえず、歯を磨いて顔を洗おう、と洗面所に向かった。そしてテレビをつけ、横目でチラチラとニュースを見ながら仕事に行く準備を始める事にした。

 本当にお腹が空かないのが不思議だ。だが、水分は取らないといけないらしいので、2Lの水とプラスチックのマグカップを持っていく事にした。

 支給されたバッグは、どんな重さ大きさのものでも縮小されて中に入り、重さも元々のバッグの重さのまま変化しない。取り出す時に、元の大きさに戻る。

 これを試してみたいのもあった。冷蔵庫から、飲みかけのペットボトルを取り出し、バッグに入れてみる。

「こんな大きいの、本当に入るのかな」

 と疑問に思いつつ、バッグのチャックを開けておそるおそるそれを……。

 バッグのチャックを開け、ペットボトルを近づけた瞬間!

「わ! ホントだぁ、凄ーい!」

 するり!と入ってしまった。しかも、重さが元のまま変わらないのだ。続いてマグカップを入れた。

「冷たいまま入れたら、他のもの濡れちゃうかな? まぁいいや、濡れたら濡れたで。でも一応聞いてみよう!」

『ベリアル質問ノート』に書き加えた。



「どうでもいいけど、政治家って嘘つきねー。大人が平気で嘘をつくのに、子供に嘘ついたらいけません!なーんて教えたって言う事聞く訳無いじゃん」

 と冷めたように呟いた。仕事に行く準備を終えたので、リビングでのんびりとテレビを見ていたのだ。

「ま、大人のせいにして平気で反モラルな事をしでかす子供も、甘えてるんじゃねーよ、このクソガキ! だけどねー」

 テレビを消した。似たような特集しかやってないからだ。ベリアルが迎えに来るまで後約30分ある。ふと、外で待ってみよう、と思いついた。

 各部屋の窓を閉め、ガスの元栓を確認し、外に出る。玄関のドアに鍵をかけた。

 空を見上げてみる。穏やかな太陽、優しい青空。穏やかにそよぐ風。まるで絵本の世界のようだ。雲のような上に建っている空間。本当に切り離された空間という言葉がしっくりくる。50m先がどうなっているかは…気にならないと言っては嘘になる。

 けれども、わざわざ自分の目で確かめようとは思わなかった。正直、少し怖かったのだ。その空間の下に何があるのか。

「早いな。外で待っていたのか?」

 約束の10時に、ベリアルは恵茉の正面に現れた。

「おはよう! 空を見てたの。切り離された空間。でも太陽はしっかりあるんだなー、て。雨も降ったりするんでしょ? 不思議だな、て思ってね」

 と言う恵茉の答えに、ベリアルは

「そういや、言ってなかったな。切り離された空間ではあるが、空と太陽は人工だ。創ったのは人じゃなくて魔族だがな。創ったのは『ハーゲンティ』。錬金術に長けてる奴だ。

太陽と青空がないと、人間は気が滅入ってうつ状態になりやすいそうだ。本物の太陽と空を切り取るのは、天界との手続き云々で時間がかかる上に面倒なのでな」

 とゆっくりと説明した。恵茉がメモを取っていたからだ。

「そうなんだ! じゃぁここは全体からみたらどんな風になってるの? 浮いてる感じ?」

 と恵茉は質問する。

「見てみるか!」

 ベリアルは恵茉を抱えると、その空間の外に瞬間移動した。

「あ!」

 絵茉は思わず声を上げた。そこは霧のように白い靄に覆われた場所だった。あたりは霧で何も見えない。

「ここが、人間界と魔界の狭間さ」

 と彼は説明する。そんな場所に、宙に浮いた丸いクリアガラス。その中に作られた庭付きの家のようだった。それはまるで、スノードームのようである。

「へぇ、こんな作りになっていたのね。創られた太陽に青空、風。なんか納得いったわ。なんだか、至れり尽くせりな待遇ね! 見習い悪魔って」

……いやこのくらい普通だって。人間がおかしいんだよ……

 と内心では感じるベリアルだが、

「至れり尽くせり、か。まぁ、満足してくれてるなら、良かった」

 と答えた。

「さ、仕事に行くか!」

 ベリアルは促す。

「うん!」

 と笑顔でハッキリと答える恵茉。ベリアルが仕事場に瞬間移動しようとした時、

「ベリアルか?」

 背後から低めだがよく通る声が響く。ベリアルは声の主の方に振り返ると、

「ウリエル!」

 と声の主に答えた。

……ウリエル、てあの大天使ウリエル?……


 恵茉は、必死で目を凝らしてウリエルを見ようとするが、霧が濃すぎて見えない。

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