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第三話
恵茉、悪魔にスカウトされる
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地上に降り立つと、ベリアルはそっと恵茉を降ろす。マンションの駐車場だ。降ろされるなり、恵茉は腰をかがめ、アスファルトの地面を観察し始める。
その様子を半ば呆れたように見つめるベリアル。彼女の行動の意味など分かり切っていたが、
「……で、何をしている?」
敢えて聞いてみる。恵茉は真剣な眼差しで彼を見つめると
「私の死体を探してるの。どこにも無いのだけど……」
と困惑した表情を浮かべる。ベリアルは大きくため息をつくと
「ある訳なかろう。お前は生きてるんだから」
と答える。
「えーーーっ??? そうなの?」
恵茉は両手を頬にあてムンクの叫びのような仕草をして素っ頓狂な声を上げる。本来は表情豊かな少女なのだろう。飛び降りようとする前の能面のような表情とは大違いである。
「まさか、自分のグロテスクな死体が見たかったのか?」
ベリアルの問いに
「そう言う訳じゃないけど……。て事は! 普通に生きてるって事???」
心底驚いた声を上げる。
「そうだ。だから『いらない命なら、俺に預けてくれないか?』と言ったんだ」
ベリアルは再び大きくため息をつくと、漸く肝心の話に持っていける、と安堵した。
「預けるってどうすれば良いの?」
恵茉が質問をした時、マンションの住民の女性が犬の散歩から帰ってくる事に気付く。確か6階か7階に住む主婦だ。
(えっ? ど、どうしよう、ベリアルを見たら、コスプレの打ち合わせとか思われるかしら?)
慌てふためく恵茉、平然としているベリアル。ドンドン近づいてくる主婦。
「こんにちは!」
恵茉の心配をよそに、主婦はニコやかに声をかける。
「あ、こ、こんにちは」
恵茉は慌てて答えた。
…ウーウーッ…
同時に、飼い犬・ラブラドールレドリバーがベリアルの方を見て牙を向き唸り声を上げる。
「あらあら、どうしたの?ごめんなさいね」
主婦は慌てて飼い犬の顎を撫で、宥めた。ベリアルは犬に、氷のように冷たく残忍な眼差しを向ける。
…キュゥン…
途端に尻尾を腹にしまい込み、後ずさりしながら怯える犬。もし視線で殺せたなら、間違いなく犬はひと睨みで即死だろう。そんな犬を嘲笑うベリアル。その一連のやり取りを、何も知らずにオロオロする主婦と恵茉。
「ごめんなさいね」
犬が大人しくなったのを見計らって、主婦と飼い犬は逃げるようにして自室へと走り去って行った。不思議そうにベリアルを見上げる恵茉に、
「言っとくが、俺の姿は普通の人間には見えないし聞こえないからな」
とにべもなく口を開く。
「え? じゃあ、見えない人とお話してる子に見えるって事……」
恵茉は声のトーン落として呟く。
「まぁ、そういう事だ。話を元に戻すが、いらない命なら、俺に預けてくれ。お前の寿命は大部先らしいから。死んで未成仏のまま苦しんで彷徨ったり、悪霊と化して人を死へと誘うダークスポットになるよりマシだろ?」
話が中々進まない事に痺れを切らした彼は、一気に契約内容を話し出す。
「簡単に言うと、悪魔業界は大変な人手不足なんだ。猫の手も借りたいくらいでな。お前に、仕事を手伝って欲しいんだ」
ビックリして目を見開いている恵茉に、畳みかけるようにして要件を伝えた。
「それって、悪魔にスカウト、て事よね!」
驚きつつも、まんざらでも無い様子の恵茉であった。
その様子を半ば呆れたように見つめるベリアル。彼女の行動の意味など分かり切っていたが、
「……で、何をしている?」
敢えて聞いてみる。恵茉は真剣な眼差しで彼を見つめると
「私の死体を探してるの。どこにも無いのだけど……」
と困惑した表情を浮かべる。ベリアルは大きくため息をつくと
「ある訳なかろう。お前は生きてるんだから」
と答える。
「えーーーっ??? そうなの?」
恵茉は両手を頬にあてムンクの叫びのような仕草をして素っ頓狂な声を上げる。本来は表情豊かな少女なのだろう。飛び降りようとする前の能面のような表情とは大違いである。
「まさか、自分のグロテスクな死体が見たかったのか?」
ベリアルの問いに
「そう言う訳じゃないけど……。て事は! 普通に生きてるって事???」
心底驚いた声を上げる。
「そうだ。だから『いらない命なら、俺に預けてくれないか?』と言ったんだ」
ベリアルは再び大きくため息をつくと、漸く肝心の話に持っていける、と安堵した。
「預けるってどうすれば良いの?」
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(えっ? ど、どうしよう、ベリアルを見たら、コスプレの打ち合わせとか思われるかしら?)
慌てふためく恵茉、平然としているベリアル。ドンドン近づいてくる主婦。
「こんにちは!」
恵茉の心配をよそに、主婦はニコやかに声をかける。
「あ、こ、こんにちは」
恵茉は慌てて答えた。
…ウーウーッ…
同時に、飼い犬・ラブラドールレドリバーがベリアルの方を見て牙を向き唸り声を上げる。
「あらあら、どうしたの?ごめんなさいね」
主婦は慌てて飼い犬の顎を撫で、宥めた。ベリアルは犬に、氷のように冷たく残忍な眼差しを向ける。
…キュゥン…
途端に尻尾を腹にしまい込み、後ずさりしながら怯える犬。もし視線で殺せたなら、間違いなく犬はひと睨みで即死だろう。そんな犬を嘲笑うベリアル。その一連のやり取りを、何も知らずにオロオロする主婦と恵茉。
「ごめんなさいね」
犬が大人しくなったのを見計らって、主婦と飼い犬は逃げるようにして自室へと走り去って行った。不思議そうにベリアルを見上げる恵茉に、
「言っとくが、俺の姿は普通の人間には見えないし聞こえないからな」
とにべもなく口を開く。
「え? じゃあ、見えない人とお話してる子に見えるって事……」
恵茉は声のトーン落として呟く。
「まぁ、そういう事だ。話を元に戻すが、いらない命なら、俺に預けてくれ。お前の寿命は大部先らしいから。死んで未成仏のまま苦しんで彷徨ったり、悪霊と化して人を死へと誘うダークスポットになるよりマシだろ?」
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「簡単に言うと、悪魔業界は大変な人手不足なんだ。猫の手も借りたいくらいでな。お前に、仕事を手伝って欲しいんだ」
ビックリして目を見開いている恵茉に、畳みかけるようにして要件を伝えた。
「それって、悪魔にスカウト、て事よね!」
驚きつつも、まんざらでも無い様子の恵茉であった。
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