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第十一話

まさかのモテ期突入か?!……ナンテネ・その三

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「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

 パタパタと軽快に駆ける足音と共に、よく通る可愛らしい声が後ろから近づく。(この声は……)ほんの少し辟易しつつ、薔子は降り返る。自宅の最寄り駅をおり、改札を出て歩き始めた時だった。

「蕾! あんたどっから湧いて来たのよ?」

 近づいて来る世にも愛らしい妹の姿があった。同じ制服でも、モデルの服装のように見えるから不思議だ。

「えへへっ、一緒に帰ろー!」

 と蕾は姉の左腕に自分の両腕を絡めた。

「えへへじゃなくて! 警護の人もつけないで、何かあったらどうするのよ?」
「お姉ちゃんが守ってくれるから大丈夫だもーん」
「そういう事じゃなくて……」
「そう心配しなくても大丈夫だよ。丁度さ、駅に通りかかった時、車でマネージャーさんに送って貰ってたんだけどね、お姉ちゃんの姿が見えてさ。でね、ておろして貰ったの。お姉ちゃんと帰るの超ー久々だし」

 無邪気に甘えて来る妹に、しょうがないなぁ、などと言いつつ、薔子満更でもない様子だ。

「ねぇねぇ、また超イケメンの英語のセンセが来たね! 今度は王子様系だね!」

 蕾は目を輝かせる。

(まーた始まった……)
「あぁ、まぁそうね」
「いいなぁ」
「何が?」
「だってお姉ちゃんのクラスも担当するじゃん」
「あー、そうだね。でもそれだけだよ」
「英語めっちゃ成績あがりそうだね、特に女子」
「そういうもの?」
「そういうものでしょ。だって皆お歳頃だもん」
「そう……」
(喪女には無関係な話題だわ)

 そんな会話を交わしながら歩いていると、周囲が自然豊かな風景に変わって来る。芒畑に差し掛かった時、小さな段ボール箱が目についた。それは蕾も同じようだ。二人は顔を見合わせる。

「気になるね。いつも段ボールなんて置いてないし。爆弾とか猛毒が仕掛けられてたら怖いから、このまま通り過ぎて警察に通報しようか」

 薔子はさり気無く妹を背中で庇うようにして言った。蕾が答えようとした瞬間、その段ボールから

プーイプーイプーイ

 と甲高い金属音のような鳴き声が聞こえた。思わず駆け寄ろうとする蕾を、薔子は右手で制し、自らが近づいた。近づくにつれ、キュイキュイと小さな鳴き声が聞こえて来る。恐る恐る近づいて段ボールを開けると……

「あら!?」

 そこには10cmほどの薄茶色の生き物が震えていた。良く見ると、段ボールの底に挟むようにして白い紙が置かれている。それを取りながら、

「これはハムスター? モルモットの方かしら?」

 と蕾を振り返った。
「えー? 何なにー?」

 蕾は興味津々で姉の隣に小走りでやって来る。

「うわぁ、可愛いっ!」

 その生き物を目にした途端、歓声を上げた。薔子は手紙らしきものを拾ってみる。それは白い封筒に美しい字で『心優しい方へ』と書かれていた。恐らく万年筆であろう。蕾は早く開いて、というように瞳を煌かせる。促されるまま、薔子は中の手紙を取り出した。それはコクヨ縦書き便箋が一枚入っており、

 前略

 突然にすみません。どうかこの子を拾って育ててください。モルモット、生後四か月の男の子です。種類はシェルティ。宜しくお願いします。 かしこ

 とだけ書かれていた。

「達筆だねぇ」

 感心したように蕾が言う。

「まぁ、確かに達筆だけど、問題はそこじゃないでしょ」

 薔子は苦笑する。

「ん? そう? だって飼うでしょ?」

 と不思議そうに問いかけた。

(くーーーーー! 何て可愛らしいのかしら。こんな無邪気に小首を傾《かし》げられて、無条件に飼うもんだと思われたら、反対出来ないじゃないの!!!)
「か、飼うって、あのね、父さん母さんと、あとお姉に……て、聞いてねーし」

 抗えないと分かりつつも、姉らしく(?)精一杯常識的な対応を試みるも、蕾はしゃがみ込み、小さなモルモットを抱き上げていた。

「うわぁ、小さい、あったかい、ふっかふかぁ! お家へ帰ろうねー」

 と話しかけているではないか。

「お姉ちゃん、名前どうしようか?」

 満面の笑みで問う妹。薔子は再び苦笑し、溜息混じりに答えた。

「……まず、家族で相談しましょ」
(つーか、時間的に主に面倒見るのは私に決定なんですけどね)

 大事そうにモルモットを抱える妹の鞄を持つと、二人は家路を急いだ。
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