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chapter②
国境なき世直し魔導士②
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セスはルーチェルが変装魔術を解き、元の姿に戻るのを見届けると右手を軽くあげ、親指と中指をこすり合わせてパチンと鳴らした。すると周囲は突如として光に包まれた空間となった。太陽の光で出来た八畳ほどの空間、通常なら眩しくて目を開けるのは困難な筈だが、全く眩しく感じない。それはシュペール帝国自体を包み込む光の防御と同じで、眩しく感じないよう魔術をかけてあるのだ。
その光の空間は、ほんの少しだけ時空をずらす事によって造られた異空間だ。現実世界とは異なる時空に場所を移す事で、いつでもどこでも言動が一切外部に漏れる事なく会話が可能となる。また、時間の経過が異なる為、現実世界に戻る時もほんの数秒間または数分経過したのみという形となる。故に、国家レベルでの機密事項の多い『世直し魔導士』の仕事関連の打合せや話をするには、この『い光の異空間』はお誂え向きなのだ。但し、創り出す異空間の広さや間取り、居られる時間などは術者の魔力量と技術に比例している。故に上級者向けの魔術となっている。
更に、セスはルーチェルに「仕事の事は極力家には持ち帰らず、プライベートとしっかり切り離す事」と当初から口を酸っぱくして言われて来た事だった。その為、仕事が終わると帰宅前に行われるのが『光の異空間』での反省会だ。
「さて、今回の反省点はまとまったか?」
光の異空間を作り出すなり、セスは切り出した。彼の瞳に、怒りや失望の影が見えない事に少しだけ安堵しつつ、ルーチェルは予めまとめておいた事を切り出す。
「先ず、打合せ通りにルーファス様が断罪劇をやり切った後に介入すべきでした。その方がルーファス様自身の学びにもなる上に、観客たちにも自らの力で感じ、考えさせるという思考力を芽生えさせる事に効果的だったからです。次に、怒りのまま行動に出てしまった事です。これは言うまでもなく、どの仕事においてもマイナスポイントとなり、仕事が出来る出来ない以前の問題です。更に、介入してからも私情に任せて色々と暴走しました。……感情を表に出さない訓練を積んできたし、今も続行中であるにも関わらず、未熟過ぎました。深く反省しております」
神妙に頭を下げる。紛れもない本心であり、更には『見限られて見捨てられるかも知れない』という怯えと恐れもあった。それを表に出せば『面倒くさくて重い子どもだ』、と負担に思われる事は最も避けたかった。
セスはそっと溜息をつく。
「まぁ、自分でもよく解っているようだな。自己分析の反省点としてはまぁ合格だ」
いつもの調子のセス。ペリドットの双眸に灯る温かな光に、ルーチェルは安堵した。
「特にこの仕事は、感情のままに行動するのは足元を掬われて依頼主にまで危険が及ぶ事に成りかねない。下手したら戦争の火種にもなる場合も無きにしも非ずだ。己の行動一つがどれほどの波紋を呼ぶ危険があるのか、今一度革新して行動して欲しい」
セスは懇々と諭した。一々尤もな事だ、とルーチェルは真摯に受け止める。
「はい、承知しました。気をつけます」
ポンポン、と頭頂に羽のように軽い衝撃を感じた。セスが右手て軽く頭を叩いたのだ、叩いたという表現には五平があるが、幼子を「よしよし」と宥めるような感じで。ルーチェルが落ち込んでいたり、不安に感じている時によくこうして宥め、勇気づけてくれる。そうして貰うと、安心しるのだ。自分はそのままで居て良いのだ、と無条件に存在を認めて貰えた気がした。
「明日からまた気持ちを切り替えて行こう。頼むぞ!」
明るい調子に切り替え、セスは締め括った。
「はい!」
ルーチェルも元気よく応じる。不意に、セスは真顔で見つめる。どうしたのだろう? 何か他に粗相をやらかしたのかとにわかに不安が押し寄せる。
「あのな、ルーチェル、お前……未だ全然吹っ切れて居ないだろう? あれから未だ三年、受けた仕打ちを考えたら当然と言えるだろうが」
「……え? あの……」
思案気に話すセス。ルーチェルは戸惑いを隠せなかった。セスは立ち膝になると、両手をルーチェルの両肩において視線を合わせる。幼子に言って聞かせる保護者の図だ。
「すまん、責めている訳ではないのだ。だが、今日お前がルーファスとアデルに感じた怒りは、未だに消化しきれていないアロイスと異世界から召喚された巫女への感情を無意識に重ねたものだった。今迄もその傾向はあったが、今日ほど露わになった事は無かった。このままの状態は、お前自身に良くない」
ルーチェルは呆然とセスを見つめていた。自分を簡単に捨てたクズと略奪女が恍惚として見つめ合い、寄り添う姿、平然と公衆の中婚約破棄を言い放たれた事、家族に門前払いで捨てられた事が脳内を目まぐるしく駆け巡った。
ヒュッと呼吸が上手く出来ず、息苦しさを覚えた。同時に「ルーチェル、大丈夫だ」とセスが優しく背中をさする。
その光の空間は、ほんの少しだけ時空をずらす事によって造られた異空間だ。現実世界とは異なる時空に場所を移す事で、いつでもどこでも言動が一切外部に漏れる事なく会話が可能となる。また、時間の経過が異なる為、現実世界に戻る時もほんの数秒間または数分経過したのみという形となる。故に、国家レベルでの機密事項の多い『世直し魔導士』の仕事関連の打合せや話をするには、この『い光の異空間』はお誂え向きなのだ。但し、創り出す異空間の広さや間取り、居られる時間などは術者の魔力量と技術に比例している。故に上級者向けの魔術となっている。
更に、セスはルーチェルに「仕事の事は極力家には持ち帰らず、プライベートとしっかり切り離す事」と当初から口を酸っぱくして言われて来た事だった。その為、仕事が終わると帰宅前に行われるのが『光の異空間』での反省会だ。
「さて、今回の反省点はまとまったか?」
光の異空間を作り出すなり、セスは切り出した。彼の瞳に、怒りや失望の影が見えない事に少しだけ安堵しつつ、ルーチェルは予めまとめておいた事を切り出す。
「先ず、打合せ通りにルーファス様が断罪劇をやり切った後に介入すべきでした。その方がルーファス様自身の学びにもなる上に、観客たちにも自らの力で感じ、考えさせるという思考力を芽生えさせる事に効果的だったからです。次に、怒りのまま行動に出てしまった事です。これは言うまでもなく、どの仕事においてもマイナスポイントとなり、仕事が出来る出来ない以前の問題です。更に、介入してからも私情に任せて色々と暴走しました。……感情を表に出さない訓練を積んできたし、今も続行中であるにも関わらず、未熟過ぎました。深く反省しております」
神妙に頭を下げる。紛れもない本心であり、更には『見限られて見捨てられるかも知れない』という怯えと恐れもあった。それを表に出せば『面倒くさくて重い子どもだ』、と負担に思われる事は最も避けたかった。
セスはそっと溜息をつく。
「まぁ、自分でもよく解っているようだな。自己分析の反省点としてはまぁ合格だ」
いつもの調子のセス。ペリドットの双眸に灯る温かな光に、ルーチェルは安堵した。
「特にこの仕事は、感情のままに行動するのは足元を掬われて依頼主にまで危険が及ぶ事に成りかねない。下手したら戦争の火種にもなる場合も無きにしも非ずだ。己の行動一つがどれほどの波紋を呼ぶ危険があるのか、今一度革新して行動して欲しい」
セスは懇々と諭した。一々尤もな事だ、とルーチェルは真摯に受け止める。
「はい、承知しました。気をつけます」
ポンポン、と頭頂に羽のように軽い衝撃を感じた。セスが右手て軽く頭を叩いたのだ、叩いたという表現には五平があるが、幼子を「よしよし」と宥めるような感じで。ルーチェルが落ち込んでいたり、不安に感じている時によくこうして宥め、勇気づけてくれる。そうして貰うと、安心しるのだ。自分はそのままで居て良いのだ、と無条件に存在を認めて貰えた気がした。
「明日からまた気持ちを切り替えて行こう。頼むぞ!」
明るい調子に切り替え、セスは締め括った。
「はい!」
ルーチェルも元気よく応じる。不意に、セスは真顔で見つめる。どうしたのだろう? 何か他に粗相をやらかしたのかとにわかに不安が押し寄せる。
「あのな、ルーチェル、お前……未だ全然吹っ切れて居ないだろう? あれから未だ三年、受けた仕打ちを考えたら当然と言えるだろうが」
「……え? あの……」
思案気に話すセス。ルーチェルは戸惑いを隠せなかった。セスは立ち膝になると、両手をルーチェルの両肩において視線を合わせる。幼子に言って聞かせる保護者の図だ。
「すまん、責めている訳ではないのだ。だが、今日お前がルーファスとアデルに感じた怒りは、未だに消化しきれていないアロイスと異世界から召喚された巫女への感情を無意識に重ねたものだった。今迄もその傾向はあったが、今日ほど露わになった事は無かった。このままの状態は、お前自身に良くない」
ルーチェルは呆然とセスを見つめていた。自分を簡単に捨てたクズと略奪女が恍惚として見つめ合い、寄り添う姿、平然と公衆の中婚約破棄を言い放たれた事、家族に門前払いで捨てられた事が脳内を目まぐるしく駆け巡った。
ヒュッと呼吸が上手く出来ず、息苦しさを覚えた。同時に「ルーチェル、大丈夫だ」とセスが優しく背中をさする。
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