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chapter①
最早テンプレート化、とある貴公子と(推定?)悪役令嬢との婚約破棄と「真実の愛」のケース②
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不意に、常夜灯のように室内が薄暗くなると同時に音楽が鳴り止む。ダンスをしていた男女は中断し、談笑と楽しんでいた者、飲食を楽しんでいた者全てが示し合わせたように入り口に注目した。
「グルナーベル公爵ご令息、ルーファス様とアデル・ネクトル令嬢の御入場!!」
よく通るテノールが会場に響く。
……あーぁ、婚約者のイザベラ侯爵令嬢じゃなくて堂々と浮気相手と御入場かぁ……
藍色髪の彼女はうんざりしつつ、入り口に注目した。他にも同じように感じた者は少なくないらしく、『いくら何でもちょっと……』『仮にもイザベラ様はグルナーベル公爵家の支援者でもあるのに、ねぇ?』などと言う声がコソコソ聞こえて来る。
……良かった、少数かもしれないけど、まともな反応を示す生徒たちも居るのね……
少しだけ救われた思いがした。そのまま成り行きを静観する。
パッと入り口が開く。寄り添うように立つ男女にスポットライトが当てられた。紺色のスリーピースに身を包んだ薄茶色の髪と水色の瞳を持つ優男に、ピンク色の巻き毛にレースとフリルがふんだんにあしらわれた派手な水色のドレスに身を包んだ少女が入場した。男の方は何だか得意そうになっているし、女の方は……はにかみつつも優越感に浸っているのが見て取れる。
……表情も取り繕えず、みっともない感情が漏れてしまうなんて。二人とも知性も品格もないわね。男の方がルーファス、ピンク髪がアデルか。どうでも良いけど、ピンク髪って清楚なふりして略奪女で性女な確率が高い気がする……
藍色の髪の彼女はそう分析した。少しずつ、明かりは元の状態へと戻されて行く。
「……続いて、イザベラ・レイ・マキシマム侯爵令嬢御入場」
取ってつけたようにアナウンスされ、会場は騒めいた。それはそうだろう、本来の彼女は婚約者であるルーファスと入場するのが常識なのだから。それでも、彼女の矜持もあるのだろう、スッと背筋を伸ばし、堂々とした態度で入場して来た。ダークブラウンの髪と瞳を持つ目鼻立ちのくっきりした美少女だった。目尻が上がり気味故に、キツい印象を受けるが、見るからに『才色兼備』という風格だ。ゴールドがかった薄茶色のシンプルなドレスに身を包んでいる。
……ドレスの色は、婚約者の髪の色に合わせたのかな。健気ね……
藍色髪の彼女は胸が詰まる思いがした。
会場中の人々が自分たちに注目しているのを確認すると、ルーファスと呼ばれる男は得意そうに笑みを浮かべた。
「皆の者、知っているように私は今日学園を卒業する。よってこの場で、非常に重要な発表をしようと思う」
……学園高等部卒業って十七、八の若造でしょ、何様のつもりかしら偉そうに……
彼女は苛立ちを覚えた。周りを囲む人々は、これから始まるであろう事が予測される為、目を輝かせて期待する者、ハラハラしている者と二手に分かれている。前者が八割、二割が後者というところだろうか。
「私は生まれて初めて、人を心の底から愛するという事を覚えた。今迄の自分が如何に無意味で空虚だったのかを思い知った……」
自分に酔い痴れ、芝居がかったように語りながらルーファスはアデルを胸に引き寄せた。アデルは男の腕の中で、うっとりと彼を見上げる。
……へー。アデル嬢の水色のドレスはルーファスとやらの瞳の色、ルーファスの紺色のスリーピースはアデル嬢の瞳の色。「俺たち一心同体愛し合ってるんだぜ」アピールって訳か。婚約者がいるのに堂々と浮気しました、と白状しているようなものじゃない、ホント低能な二人……
「よって、私はここに宣言する! イザベラとの婚約を破棄し、新たにこのアデル・ネクトルと婚約をする! 真実の愛で結ばれたアデルを妻に迎える事をここに誓う! 皆の者が証人となるのだ!!」
アデルは感極まったように瞳を潤ませる。観客たちはワーッと歓声をあげ、場は持ち上がりを見せた。
……なるほど、男の庇護欲をそそる仕草が板についているタイプなのね、アデル嬢……
対してイザベラの方はというと、真っ青になって震えている。けれども必死に己を鼓舞し、ひるまずにルーファスを見据え、凛然と対峙している。
「そしてイザベラよ! 貴様にはここでこれまでやらかしてきた悪事を白日の下に晒す事にする!!」
歓喜に溢れて盛り上がりを見せていた場は、ルーファスのその声で不穏な騒めきへと変貌を遂げた。イザベラは唇を噛みしめ、挑むように彼を見つめる。
……まさか、絵に描いたような古典ファンタジー令嬢モノ作品みたいに、断罪ごっこなんか始めるつもりじゃないわよね?……
彼女はイザベラを気に掛けつつも、別の意味でハラハラしていた。
「イザベラ、貴様は私の愛を一身に受けるアデルに嫉妬し、彼女に嫌がらせをしたな!? アデルの筆記用具や教科書を盗み、ごみ箱に捨てたり。すれ違い様に足を引っかけて転ばせたり、噴水に投げ飛ばしたり。挙句、階段から突き落として怪我をさせようとしたな?! 許しがたい!!!」
……おい、おいおい何それ幼稚な流れ、テンプレートなの?……
呆れてモノが言えない彼女に、セスは再び思念伝達を図る。
『くれぐれも、早まるなよ?!』
『はいはーい、大丈夫ですよ。心得てます』
観客たちは口々に同調の言葉を交わしている。
「酷い事するわね、最低!」
「侯爵令嬢に平民のアデル嬢は逆らえないもんな、やり口が汚いな」
「純粋に惹かれ合う身分違いの恋を邪魔するなんて、典型的な悪女じゃない!」
ルーファスは周りの反応を、満足そうに見渡した。そしてイザベラに憎悪を込めた眼差しを向ける。
「イザベラ、貴様には心底がっかりした。ここで断罪する!!」
……どうして周りが同調してしまう訳? おかしいでしょ?!……
「ちょっと皆さん、宜しいかしら?」
藍色髪の彼女は、今しがたセスから忠告された事も忘れ感情に任せ一一声を上げ、前に進み出た。セスは『やっぱりやらかしたか……』と虚空を見上げ、右手を額にあてた。
冷たく感じるほど澄み切った声に、当のルーファスを始め一同は呆気に取られて藍色髪の彼女を見つめた。
「グルナーベル公爵ご令息、ルーファス様とアデル・ネクトル令嬢の御入場!!」
よく通るテノールが会場に響く。
……あーぁ、婚約者のイザベラ侯爵令嬢じゃなくて堂々と浮気相手と御入場かぁ……
藍色髪の彼女はうんざりしつつ、入り口に注目した。他にも同じように感じた者は少なくないらしく、『いくら何でもちょっと……』『仮にもイザベラ様はグルナーベル公爵家の支援者でもあるのに、ねぇ?』などと言う声がコソコソ聞こえて来る。
……良かった、少数かもしれないけど、まともな反応を示す生徒たちも居るのね……
少しだけ救われた思いがした。そのまま成り行きを静観する。
パッと入り口が開く。寄り添うように立つ男女にスポットライトが当てられた。紺色のスリーピースに身を包んだ薄茶色の髪と水色の瞳を持つ優男に、ピンク色の巻き毛にレースとフリルがふんだんにあしらわれた派手な水色のドレスに身を包んだ少女が入場した。男の方は何だか得意そうになっているし、女の方は……はにかみつつも優越感に浸っているのが見て取れる。
……表情も取り繕えず、みっともない感情が漏れてしまうなんて。二人とも知性も品格もないわね。男の方がルーファス、ピンク髪がアデルか。どうでも良いけど、ピンク髪って清楚なふりして略奪女で性女な確率が高い気がする……
藍色の髪の彼女はそう分析した。少しずつ、明かりは元の状態へと戻されて行く。
「……続いて、イザベラ・レイ・マキシマム侯爵令嬢御入場」
取ってつけたようにアナウンスされ、会場は騒めいた。それはそうだろう、本来の彼女は婚約者であるルーファスと入場するのが常識なのだから。それでも、彼女の矜持もあるのだろう、スッと背筋を伸ばし、堂々とした態度で入場して来た。ダークブラウンの髪と瞳を持つ目鼻立ちのくっきりした美少女だった。目尻が上がり気味故に、キツい印象を受けるが、見るからに『才色兼備』という風格だ。ゴールドがかった薄茶色のシンプルなドレスに身を包んでいる。
……ドレスの色は、婚約者の髪の色に合わせたのかな。健気ね……
藍色髪の彼女は胸が詰まる思いがした。
会場中の人々が自分たちに注目しているのを確認すると、ルーファスと呼ばれる男は得意そうに笑みを浮かべた。
「皆の者、知っているように私は今日学園を卒業する。よってこの場で、非常に重要な発表をしようと思う」
……学園高等部卒業って十七、八の若造でしょ、何様のつもりかしら偉そうに……
彼女は苛立ちを覚えた。周りを囲む人々は、これから始まるであろう事が予測される為、目を輝かせて期待する者、ハラハラしている者と二手に分かれている。前者が八割、二割が後者というところだろうか。
「私は生まれて初めて、人を心の底から愛するという事を覚えた。今迄の自分が如何に無意味で空虚だったのかを思い知った……」
自分に酔い痴れ、芝居がかったように語りながらルーファスはアデルを胸に引き寄せた。アデルは男の腕の中で、うっとりと彼を見上げる。
……へー。アデル嬢の水色のドレスはルーファスとやらの瞳の色、ルーファスの紺色のスリーピースはアデル嬢の瞳の色。「俺たち一心同体愛し合ってるんだぜ」アピールって訳か。婚約者がいるのに堂々と浮気しました、と白状しているようなものじゃない、ホント低能な二人……
「よって、私はここに宣言する! イザベラとの婚約を破棄し、新たにこのアデル・ネクトルと婚約をする! 真実の愛で結ばれたアデルを妻に迎える事をここに誓う! 皆の者が証人となるのだ!!」
アデルは感極まったように瞳を潤ませる。観客たちはワーッと歓声をあげ、場は持ち上がりを見せた。
……なるほど、男の庇護欲をそそる仕草が板についているタイプなのね、アデル嬢……
対してイザベラの方はというと、真っ青になって震えている。けれども必死に己を鼓舞し、ひるまずにルーファスを見据え、凛然と対峙している。
「そしてイザベラよ! 貴様にはここでこれまでやらかしてきた悪事を白日の下に晒す事にする!!」
歓喜に溢れて盛り上がりを見せていた場は、ルーファスのその声で不穏な騒めきへと変貌を遂げた。イザベラは唇を噛みしめ、挑むように彼を見つめる。
……まさか、絵に描いたような古典ファンタジー令嬢モノ作品みたいに、断罪ごっこなんか始めるつもりじゃないわよね?……
彼女はイザベラを気に掛けつつも、別の意味でハラハラしていた。
「イザベラ、貴様は私の愛を一身に受けるアデルに嫉妬し、彼女に嫌がらせをしたな!? アデルの筆記用具や教科書を盗み、ごみ箱に捨てたり。すれ違い様に足を引っかけて転ばせたり、噴水に投げ飛ばしたり。挙句、階段から突き落として怪我をさせようとしたな?! 許しがたい!!!」
……おい、おいおい何それ幼稚な流れ、テンプレートなの?……
呆れてモノが言えない彼女に、セスは再び思念伝達を図る。
『くれぐれも、早まるなよ?!』
『はいはーい、大丈夫ですよ。心得てます』
観客たちは口々に同調の言葉を交わしている。
「酷い事するわね、最低!」
「侯爵令嬢に平民のアデル嬢は逆らえないもんな、やり口が汚いな」
「純粋に惹かれ合う身分違いの恋を邪魔するなんて、典型的な悪女じゃない!」
ルーファスは周りの反応を、満足そうに見渡した。そしてイザベラに憎悪を込めた眼差しを向ける。
「イザベラ、貴様には心底がっかりした。ここで断罪する!!」
……どうして周りが同調してしまう訳? おかしいでしょ?!……
「ちょっと皆さん、宜しいかしら?」
藍色髪の彼女は、今しがたセスから忠告された事も忘れ感情に任せ一一声を上げ、前に進み出た。セスは『やっぱりやらかしたか……』と虚空を見上げ、右手を額にあてた。
冷たく感じるほど澄み切った声に、当のルーファスを始め一同は呆気に取られて藍色髪の彼女を見つめた。
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