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chapter①

最早テンプレート化、とある貴公子と(推定?)悪役令嬢との婚約破棄と「真実の愛」のケース①

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 ーーーーーー三年後、シュペール帝国国立学園卒業記念パーティー会場にて。

 うふふ、ほほほと扇子を巧みに使用して口元を隠し、醜悪な下心を隠す淑女の卵たち。笑顔で互いを褒め合いながら内心ではどうやって相手を蹴落とそうかと策を練る紳士の卵たち。

 ……あぁ、煌びやかに着飾っている紳士淑女たち。皆が笑顔の仮面を貼り付けて、水面下では相手を貶めたり蹴落としたりする事、或いは相手に擦り寄って利益を得ようと画策する奴らばかり。相変わらず、どこも社交の場って狐と狸の化かし合いね。苦手だわ……

 ノンアルコールのシャンパンを片手に、彼女は思った。藍色の髪を一房ずつ両サイドに残し、残りは後ろでシニヨンに結い上げている。切れ長の瞳は髪と同色、艶やかな薔薇色の唇が艶めかしい。マーメイドラインの銀灰色のドレスが、彼女のしなやかで女性らしいボディラインを際立たせていた。色鮮やかな果実やスイーツ、軽食などが盛られたテーブルを前に、壁を背にして大広間で踊る若い男女の姿を退廃的な眼差しで見つめていた。つまり、壁の花と化してこれから起こるを待ち構えている訳である。

 ふと、視線を感じてその方向を見やった。少しは離れた場所にある談笑の場から、頬を赤らめた女の子たちに取り囲まれた美丈夫が厳しい視線を向けていた。軽く波打つお日様色の髪にペリドットの瞳を持つ、誰もが目を見張り二度見するような美形で、淡いリーフグリーンのスリーピースがよく似合っている。

 『くれぐれも、暴走はするなよ?!』

と、釘を差す声が彼女の耳に響く。二人だけで会話が可能な魔術、思念伝達だ。

『解ってますよ』

 と彼女は答え、肩をすくめてみせた。彼女は「変装魔術」を駆使し、とある使命を果たす為、この学園の卒業パーティーへと潜り込んでいた。ペリドットを彷彿とさせる双眸の持ち主の美丈夫は、彼女の指導係としての役割を担っている。名をセス・アーノルド・ブルゴーという。彼は在校生の中のある子息の兄、彼女はある令嬢の姉、という設定だ。勿論、事前に学園側には話を通してあるのは言うまでもない。

 ~~~~~~

 西暦3xxx年、人類は傲慢の極みから我が物顔に自然を蹂躙し尽くした挙句荒廃。地球滅亡の危機に陥ってしまった。そこで人類は生き残りをかけ、僅かに残った自然を利用して一体化した者、獣と一体化した者と大きく二種類に分かれる事となった。
 自然と一体化した者は能力の個人差はあれど魔術または精霊を使役出来るようになり、「精霊人」と呼ばれるようになった。精霊の血が濃ければ濃いほど魔力も強く耳先が尖る傾向にあり、フルネームに精霊名であるミドルネームがついているのも特徴だ。
 獣と一体化したものは……こちらもまた個人差はあるものの、その一体化した獣に準ずる身体能力と力、優れた五感、中でも野生の勘を手に入れた。彼らは「獣人族」と呼ばれ、頭に獣の耳がついていたり尻尾がついていたりする者も少なくない。1000年以上前にあった日本という国でいうところの『平成』や『令和』という時代に流行った「ファンタジーもの」に登場する『亜人』やら『ケモ耳』やらに近い感じ、と想像して頂けたらと思う。

 余談だが、王族や貴族は、一定基準以上の魔法が使える事が条件の一つとなっており、魔法が使えない場合はそれにとって代わる知性や一芸に秀でた何かを持つよう義務づけられている。 
 その為、個人差はあるものの魔法を使うこと、精霊を使役する事はごく普通の感覚として人々の生活に浸透していた。科学を極め頼り過ぎて自滅、滅亡の危機を経験した人類は、科学の代わりに魔術を徹底的に研究し、インターネット機器系やテレビ、電気、ガス等の原動力を魔力で行う事となった。俗に言う『生活魔法』の発電所というものを『魔力』で補う訳である。それは『魔力発電所』と呼ばれ、王族や貴族が定期的にそこに魔力を送る事が公務の一つとなっていた。そうする事により人類は、自然を破壊する事なく共存していく道を選択したのである。その最たる例が「魔法石」の販売だ。これは火にくべたり、お湯に溶かしたりする事で今でいうところの電池の代わりとなっており、特に魔法が使えなくても日常生活が送れるようになっている。

 更に、人々は愚かな過去から学び、再び人類滅亡の危機に陥る事のないよう、力を合わせて「理想郷」を創造した。

 その結果、地球は六つの国で成り立つ。

☆火の力を加護に持つ「エルド王国」
☆水の力を加護に持つ「ドゥール王国」
☆風の力を加護に持つ「アエラス王国」
☆大地の力加護に持つ「エールデ王国」
☆その四つの国を統制する天空と光を統制する「シュペール帝国」
☆そして癒し、安らぎ、闇、影、を統制する秘された国、「テネーブル小国」

 この物語は、「シュペール帝国」と「テネーブル小国」を舞台に始まる。世界観としては、中世ヨーロッパに加えてドラゴンや魔物、妖精や魔法などのファンタジーが融合されたものに近い感じだろうか。


 ~~~~~~


 『ねぇ皆様。あのお噂、本当かしら?』
『筆頭公爵家の嫡男であらせられる、ルーファス様と婚約者でいらっしゃる侯爵令嬢、イザベラ様の婚約破棄?』
『ええ、それでアデル様との婚約を発表なされるんだとか』
『でも、アデル様って確か爵位は無かったのでは……』
『何でも、アデル様と結ばれる為にルーファス様が手を回してどこぞやの男爵家の養女にするとか、したとか……』
『まぁ、お二人の愛は本物なのね!』
『イザベラ様、お気の毒、ふふふ……』
『いい気味ですわ、ツンとお高くとまっていて苦手でしたもの、ほほほ……』

 何食わぬ顔で、彼女は五、六人ほどの女子のグループの噂話に耳を傾ける。

……ここもまた、著しくが蔓延しているのね。上品ぶって人を貶める陰口ばかり叩いて品の無い……

 暗澹たる思いで虚空を見上げた。
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