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第十三話

花、炎に燃ゆる~花炎繚乱奇譚~

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…カナカナカナカナカナ…
 
 夏の終わりを告げるヒグラシが奏でる蝉時雨。広がる田園風景。豊かな森。清流。あちこちに咲き乱れる業火の華。

そ の紅蓮の炎の群れは、遠目から見ると無数に燃え盛る狐火にも見える。曼珠沙華の花だ。今年もこの時期がやってきた。その紅き華は、天界でも地上でも、時を同じくして咲き誇る。

 例年と異なるのは、人が踏み込めぬ程に深き森。見渡す限り紅く燃ゆる大地。生い茂る木立の中は仄暗い紫の薄絹に覆われている。ところどころ木漏れ日に照らされた紅き炎は、鮮やかに燃え上がり、
光が当たらない場所はより深く、より紅く、紅蓮の炎が燃え盛る。

 そこは切り離された空間のように、ポッカリと蒼穹が覗く場所。陽の光に照らされ、紅き炎はより鮮やかに咲き誇る。その中央に、曼珠沙華の花で出来た寝床。その空間を、紅蓮の華で出来た薄絹がうっすらと覆う。

 その絹は、中の音、外の音を完全に防ぎ、│何人《なんぴと》たりとも入れぬよう、結界の役割をも果たす。

 朱の直裾をゆっくりと脱がし、その胸にしっとりと柔らかな唇を這わせる銀の髪。鍛え上げられ、逞しく引き締まったやや小麦色のその体に薄桃色の蕾の後が残る。首筋から、胸に。その唇は、小さな突起に舌を這わせ、ゆっくりと吸い上げた。

「……うっ、花……香」

 花香に吸われた部分から、じんわりとゾクゾクとした感触が走り、│堪《こらえ》えきれずに声を上げ、愛しい名を呼ぶ。花香は、火焔の朱の帯を解く。ハラリと全身が露わになる火焔。

「……火焔」

 ウットリと、火焔の下半身に見惚れる花香。
そしてその透き通るような青白く華奢な両腕を伸ばし、愛しい男の象徴を優しく握り締める。そしてそっと唇を這わせ、優しく舌で触れた。

 途端に全身に熱き情欲の炎が駆け巡り、花香を強引に抱きあげ、曼珠沙華の寝床にそのまま押し倒した。

 紅き炎の華が舞う。

 華に埋もれ、花香の蝋燭のように透き通る肌が際立つ。燃え盛る火柱のように激しい炎を宿し、自らを欲する朱の瞳。夢にまで見た、待ち望んだ瞬間に花香は頭がクラクラした。

「……嬉しい!やっと、やっと、あなたの情熱の炎に身を任せ、思うままに燃ゆる時が来たのですね」

 感極まって、濡れ艶めく青紫色の瞳に、露が煌めく。自らを見つめる潤んだ瞳。全てを自分のものに出来る日が来ようとは!

「花香! お前は、俺のものだ!!」

 地を這うかのように低く、激情を押さえた掠れる声。されどよく通り、艶めくその│声色《こわいろ》は、花香の耳にゾクゾクと響き渡り、愛しい男のものになれる喜びを噛みしめた。

 誘うように。薄桃色の唇を薄っすらと開ける花香。ふっくらと柔らかく、濡れたように艶めく唇。
微かに覗く雪白の歯に桃色の舌。

 一気に情欲に火がついた火焔は、そのまま唇に吸い付いた。花の蜜のように甘い舌、唇全てを奪い尽くす火焔。

……もう、耐える必要などないのだ。

 花が開く。

「……ふっ、はっ」

 花が開く。

「あっ」

 いくつも、いくつも。二聖の、熱き吐息が花開く。その花は、穢れ無き純白から桜色へと微かに色づき始める。

 やがて火焔は、体の芯から燃え上がる情欲の炎に素直に身を任せ、花香の紫色の帯をするすると解き、薄紫色の直裾を乱暴に脱がせた。

 ほっそりと、青白く透き通る肌。その首筋に唇を這わせる。そして吸い付き、己の炎の痕跡を残す。
徐々に、胸に唇を這わせじっくりとその肌を味わう。

「あ……あぁ……」

 彼の唇が触れる度に、心地よい快楽の波にたゆたう花香。花は少しづつ薄紅色へと色づいていく。
やがて炎の唇が、左の胸の│頂《いただき》に達すると、吸われた快感に全身が打ち震えた。

「あっ、火……焔っ」

 素直に快楽の波に委ね、喜びの声を上げる。青白い肌が、薄桜に色を変え、その肌のあちこちに、│紅《くれない》の華が咲いていく。

 その声に、益々情欲の炎が燃え上がり、彼を象徴する大切な部分に右手を這わせた。そして花芯の蜜を吸うように、丁寧に舌を這わせ口に含んだ。

「あ、あぁ、火焔!」

 花香は全身に激しく駆け巡る激しい快楽の予感に酔い、思わず声を上げ、火焔の頭を掻き抱いた。
炎の髪。熱き瞳。見つめるだけで、ゾクゾクする。

「花香!」

 火焔は激しい情欲に燃え滾る瞳を向け、ついに一線を超える事を仄めかした。

 快楽の波間に身を委ね、花は薄紅色から桃色に色づいていく……。

 潤んだ青紫色の瞳。濡れて艶めく桃色の唇。その全てが、己の花を手折る事に許可を示していた。

 花香のほっそりとした両足を、両手でゆっくりと持ち上げ、露わになった花芯の蜜を味わう。

「……あっ!」

 一際大きく声を上げた。

 花芯が十分に綻び、柔らかくなっていく。そして灼熱に燃え滾る熱き炎を、そこに近づけた。己の想いの全てを集約した灼熱の炎の塊を、まだ誰も踏み込んだ事の無い花芯の奥に踏み込む。

「アッ……」

 あまりの痛みに体を反らし、耐え切れずに声を上げる。涙が薄っすらと頬を這う。

「痛いか?」

 動きを止め、気遣う火焔。銀色の帳を開け、薄っすらと目を開けると火焔に両手を伸ばし、その首にしがみつく。

「……続けて、辞めないで! あなただけのものに…して!」

 痛みの波間に溺れつつ、息も絶え絶えに絞り出す花の声。今までに感じた事のない愛おしさと、征服欲が体の底から燃え上げる。

「花香、愛してる。俺だけのものになれっ!」

 猛る思いのままに紡ぎ出す情熱の炎の声。花芯の奥を蹂躙し、征服し始めた。

 燃え盛る炎の髪に、銀の絹糸の髪が絡みついていく。小麦色の肌にも、銀の絹が絡みつく。それは美しい蜘蛛糸のように。炎に侵食していく。

 情熱の炎は美しい花を燃やし尽くす。そして一つに溶け合い、炎の花を咲かせていく。

 小麦色の肌と薄桜色の透き通る肌が重なり合う上になり、下になり、溶け合っていく。

 花が開く。桃色から紅に艶めく花に。

 吐息が溶け合い、│紅《くれない》の花が咲く。いくつも、いくつも……。

 今、大輪の│艶《あで》やかな紅き花が咲いた。
それは、今までに見た事もない美しき炎の華。

 曼珠沙華の花が、彼らを祝福するかのように。彼らが絡みあう度に奏でられる風に、柔らかに揺られた。
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