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第四章
利便と怠惰
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逢魔が時。茜と橙色に染まり始める空。太陽は白金から朱赤に衣を変え、その光を地上に照らす出す。その光を受けて、木立や植物たちの緑は深みを増す。そして大地は黄金色に輝くのだ。
朱赤の髪が、夕日を受けて益々鮮やかに輝き、傍らの銀の髪はキラキラと煌めく。火焔は右手を、花香は左手を、しかと握り合い森の小路を歩む。
聖霊達の体調と宇宙の均衡、双方とも良好な時、互いを活かし合うような触れ合いとあれば、少しの時間なら問題無い事が判明した。
それは僅かな時間。人間の時間に換算すれば三十分程度であったが。
それでもその僅かな時間は、二聖にとっては何にも代えがたい貴重な時間だった。
火焔を強制的に癒して以来、水鏡、産土、瑞玉の三聖は何とか火焔と花香が少しでも触れ合う事が出来ないか? と積極的に奔走した。そこでついにこの時間を導き出す事に成功したのだ。水鏡の力、瑞玉の力、そして産土の緻密な計算力によって。
故に尚更、この時間を大切にする必要があった。
以前導き出されたこの二聖が抱き合える三分と合わせれば、合計三十三分も共にいられるのだ。これまでと同じように、春は鴬やメジロが。夏は蝉や燕が秋は鈴虫やモズ、冬はツグミやシジュウカラが或いは風が、または森の動物達が、その時間切れを知らせてくれる。
…サワサワサワサワ…サワサワ…
今回は風が二聖の肩を叩き、時間切れを教えてくれた。そっと、手を放す。
「さ、今日の待ち合わせ場所に急ごうぜ!」
ともすれば、永遠にその時間を留めておきたいそう感じてしまう空気を打ち破るかのように、明るく朗らかに花香に声をかける。
「ええ」
花香は笑みを浮かべた。いつもの、花が綻ぶような笑顔で。その花笑みにいつも見惚れてしまう火焔。ふとその目の端に、あるものが映る。思わずその方向に視線を向ける。
「……あれは?」
「火焔? どうしたのです?」
火焔はその方向に引き寄せられるように歩みを進める。それは業火の花。
森の木立のが立ち並ぶ中、とあるトネリコの木の根元に、一輪だけ咲き誇る│艶《あで》やかな│紅《くれない》の花。それは木々の隙間より漏れる夕日を受け、咲き誇る炎の花。
「これは、曼珠沙華……」
花香はその名を呼ぶ。それは夕映えに照らされた曼珠沙華だった。
人類は殺戮と争いから学び取り平和の道を歩むかに見えた。痛めつけられ、無となった大地から再び人々は歩き始めた。大地に、川に、海に息吹が訪れると共に、人々も少しずつ活気を取り戻して行く。
人類は再び文明の発展を遂げていく。そしてまた、自然との『共存』ではなく、「破壊」と「支配」そして「操作」を選んだ。
日々、地球のどこかで殺戮が繰り広げられる。或いは、文明の発達を極め、益々利便性を求めるようになっていく。
より早く、より簡単に、より便利にこれらを求め過ぎるあまり、「努力」「積み重ね」を軽んじる傾向になった。
人類は「怠惰」を覚え、次第に楽な方向に流れていく。痛めつけられた大地や海、川は自己修復可能な領域を超えてしまった。
故に、様々な自然現象や異常現象を起こし、人類に警告してきた。しかし人々は益々『利便性』を求め『怠惰』になっていった。
故に、五聖は未だかつてない程に、多忙を極めていた。
朱赤の髪が、夕日を受けて益々鮮やかに輝き、傍らの銀の髪はキラキラと煌めく。火焔は右手を、花香は左手を、しかと握り合い森の小路を歩む。
聖霊達の体調と宇宙の均衡、双方とも良好な時、互いを活かし合うような触れ合いとあれば、少しの時間なら問題無い事が判明した。
それは僅かな時間。人間の時間に換算すれば三十分程度であったが。
それでもその僅かな時間は、二聖にとっては何にも代えがたい貴重な時間だった。
火焔を強制的に癒して以来、水鏡、産土、瑞玉の三聖は何とか火焔と花香が少しでも触れ合う事が出来ないか? と積極的に奔走した。そこでついにこの時間を導き出す事に成功したのだ。水鏡の力、瑞玉の力、そして産土の緻密な計算力によって。
故に尚更、この時間を大切にする必要があった。
以前導き出されたこの二聖が抱き合える三分と合わせれば、合計三十三分も共にいられるのだ。これまでと同じように、春は鴬やメジロが。夏は蝉や燕が秋は鈴虫やモズ、冬はツグミやシジュウカラが或いは風が、または森の動物達が、その時間切れを知らせてくれる。
…サワサワサワサワ…サワサワ…
今回は風が二聖の肩を叩き、時間切れを教えてくれた。そっと、手を放す。
「さ、今日の待ち合わせ場所に急ごうぜ!」
ともすれば、永遠にその時間を留めておきたいそう感じてしまう空気を打ち破るかのように、明るく朗らかに花香に声をかける。
「ええ」
花香は笑みを浮かべた。いつもの、花が綻ぶような笑顔で。その花笑みにいつも見惚れてしまう火焔。ふとその目の端に、あるものが映る。思わずその方向に視線を向ける。
「……あれは?」
「火焔? どうしたのです?」
火焔はその方向に引き寄せられるように歩みを進める。それは業火の花。
森の木立のが立ち並ぶ中、とあるトネリコの木の根元に、一輪だけ咲き誇る│艶《あで》やかな│紅《くれない》の花。それは木々の隙間より漏れる夕日を受け、咲き誇る炎の花。
「これは、曼珠沙華……」
花香はその名を呼ぶ。それは夕映えに照らされた曼珠沙華だった。
人類は殺戮と争いから学び取り平和の道を歩むかに見えた。痛めつけられ、無となった大地から再び人々は歩き始めた。大地に、川に、海に息吹が訪れると共に、人々も少しずつ活気を取り戻して行く。
人類は再び文明の発展を遂げていく。そしてまた、自然との『共存』ではなく、「破壊」と「支配」そして「操作」を選んだ。
日々、地球のどこかで殺戮が繰り広げられる。或いは、文明の発達を極め、益々利便性を求めるようになっていく。
より早く、より簡単に、より便利にこれらを求め過ぎるあまり、「努力」「積み重ね」を軽んじる傾向になった。
人類は「怠惰」を覚え、次第に楽な方向に流れていく。痛めつけられた大地や海、川は自己修復可能な領域を超えてしまった。
故に、様々な自然現象や異常現象を起こし、人類に警告してきた。しかし人々は益々『利便性』を求め『怠惰』になっていった。
故に、五聖は未だかつてない程に、多忙を極めていた。
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