鵺鳴く夜に神の降り立つ

大和撫子

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その四

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 何だかんだ、十三日が過ぎた。朝晩は冷え込むけど、朝日や夕陽がすげぇ鮮やかなんだ。夜空は澄んだ濃紺で、星や月が冴え冴えと見える。月の満ち欠けなんかを見るのもオツなもんだよな。

 俺は今、夕飯を食べ終わってそろそろ風呂にでも入ろうかと思ってるとこだ。今夜は満月らしいから、温かい焙じ茶を片手に月を見たりするのも悪くない。
 今日の夕飯は子うさぎの塩焼きにキャベツの塩漬け。茄子の味噌汁に玄米さ。美味かったぜ。朝四時には起きて、夜九時には寝ちまう。物凄く健康的な生活をしている。

 あ、そうそう、服なんかもさ、備え付けのタンスにデニムや長袖Tシャツ、新品の下着、スエットなんかが常備されてるんだよ。何だか申し訳ないくらいの待遇だよな。裏を返せば、滞在する奴も少なくないんだろう。

 今回はちょっとお初にスエットをお借りしようとタンスを開けた。グレーのスエットスーツを取り出す、と。ん? バサッと何かが畳の上に落ちた。ブルーの大学ノートだ。何だろう? 

 ちょいと胸騒ぎがした。ノートを拾い上げる。表紙には『ここに滞在するる人へ』とボールペンで書かれていた。ちょっと急いで書いたっぽい。村の人たちは何も言ってなかったけど、何かこの部屋についての決まり事でも書かれてるのかな? もし何かやらかしてたら悪いから、読んでみることにした。ページをめくる。勿論、リアルタイムでブログとBチャンネルに実況中継するぜ。

『ここに滞在する人へ』

 とまずは一ページ。やっぱり急いで書いたっぽいな。次のページをめくる。

『急いで知らせたい事がある。どうか真面目に、そして落ち着いて聞いて欲しい。今、ここにいる君はきっと、どうにでもなれ、と半ば死を覚悟してやって来たんだろ? 自分もそうだ。村人には親切にして貰ってると思う。満月の夜の儀式について急いで知らせたい。恐らく満月の夜に山に子ヤギの生贄を捧げる儀式がある。だけど村人に限っての風習だから気にするな、と聞いただろ?』

 うん、その通りだ。俺はごくりと生唾を呑み込んだ。時間が切羽詰まってきたのか、どんどん字が書き殴ったような感じになっていく。夢中でページをめくり、読み進めた。何だか危険な予感がした。

~~~~~

『いいか? 落ち着いて読み進んでくれ。その儀式についてなんだが、聞いちまったんだ。

 ここに滞在して五日目。その日は新月だった。月が無い夜空は星がやけに煌びやかに見えるな、なんて思いながら夜の散歩に出た。携帯の懐中電灯をお供にな。少し森の中に入っていくと、何やら異様な気配がした。咄嗟に携帯をポケットにしまい、太い樹の幹に隠れた。見つからないようにそーっと覗く。

 ひっ! と思わず叫びそうになったのを辛うじて堪えた。そこは紫色の鳥居から少し先にある広場だだった。そこに村人達が横三列に集まって地面に平伏してたんだ。全員、白装束を着て裸足。全部で十三人くらいかな。平伏した先には、紫色の祠。やっぱり朽ち果てている。その前に、長老が居た。勿論白装束を着て。長老は右手に松明を持っていた。

「皆の者よ、満月の夜の贄が見つかったのは知ってると思う」長老の声に皆一斉に面を上げた。贄? 子山羊じゃないのか? 買ってきたのかな。
「まだ学生じゃ。今回も若い獲物で、神もさぞお喜びになるじゃろう。満月の夜までせいぜい丁重にもてなしてやるように」

 待て、学生? 山の神? 何の事だ? 飛び出して問い正したい気分になったのを必死に堪える。

「最近特に人間たちは荒んで来ていて、争い事が絶えないそうじゃ。山の神も深くお嘆きになっておる。こうして我ら鵺の一族が、選ばれし生贄を捧げる事によって神の怒りを沈め、平和な世の中を保つ。この役割を誇りに思い、我らは粛々と務めを果たそうぞ」

 村人達が立ち上がった。ショックのあまり腰が抜けそうになりながらも、音を立てないように静かに元来た道を引き返す。恐らく、見つかったらただではすまされない』

~~~~~

 おいおい、何の事だよ? 生贄が学生? 鵺の一族? まさか……。物凄く嫌な予感がする。これ、ヤバイ話じゃないか? 何となく、私物をリュックにまとめながら読み勧めた。

~~~~~

『満月まで間がある。恐らく生贄……て俺の事だ。そのまま家に戻って、携帯でS県T市にまつまる民俗学やら伝説について調べまくった。

 まだ、読んでるよな? いいか、今から「鵺の里」について調べた結果を話すぞ。調べた結果、一つだけヒットした。趣味で民俗学を研究している会社員のブログで「都市伝説と民俗学」てやつだ。これを読んでる人にはあまり時間がないかも知れないから、端的に説明するぞ。

 この場所は、古くから満月の夜に白装束に身を包んだ村人達が、生贄を捧げ山の神に祈りを捧げる、という風習があった。満月の夜が例え雨でも雪でも、決行するらしい。
 そうする事で、日本中の「穢れ」を払う、と信じられていたそうだ。ここでいう「穢れ」とは、人間の「殺意」や「怨念」等のおぞましい部分を示す。村人達は使命感を持ってその儀式を行ってきた。普通はそんな事許されないけど、陰陽の理《ことわり》とかで国も目を瞑ってきたとか、必要悪? とか。まぁ極秘で行われてきたらしい。子ヤギ……生贄とは即ち、死に場所を求めて、或いは世捨て人になろうと村に迷い込んだ人間だ』 

~~~~~ 

 な、何だって? これはヤバイぞ、満月って、満月って今夜じゃないか! マジで逃げる準備をしないと。玄関からだと鉢合わせしたら不味い。窓から逃げよう!

 俺はノートとリュック、そして靴を履いて窓に手をかけた。だけどそのブログとやらが気になる。ちょいと携帯で検索して……あった! て……ダメだ。クリックしてみたら「このサイトは閉鎖しました」て出ちまった。急いでノート続きを読む。

 だけど俺、そろそろ逃げないとマジでマズイんじゃないかな。でも、どうしてだろう? 心のどこかで、あの親切な村人達がまさかなぁ……そんな風に彼らを信じたい自分もいた。

~~~~~ 

『つまり、今回は俺だ。彼らにしてみたらやはり他所者で。でも村人たちは、死ぬつもりも世捨て人になるつもりも無いならば、と逃げ出せるように最初に逃げ道も作って来た訳だ。逃げなかった者は自ら生贄となる意思がある、と見なされるらしい。

 もう、分かったろ? 満月の夜になったらお終いだ。彼らはやってくる。生贄を山の神に捧げようと。生贄が虐殺される際の断末魔の叫び声が「鵺の声」に似てるとかで、「鵺の里」と呼ばれるようになったそうだ。俺の後に誰か来るかも知れないから、このノートを記して隠しておく。どうかこれを読んだら、すぐに私物をまとめて逃げてくれ! 満月の夜になる前に、急げ! 俺も逃げる。

 もう一度言う、逃げろ! どうか無事に逃げ延びてくれる事を願う!』

~~~~~ 

 本能が生命の危機を告げた。全身冷や汗でびっしょりだ。これはシャレにならん、逃げよう! このノートは元の場所に戻しておこう。次に来た誰かの為に。

 急いでノートをしまうと、一目散に窓を目指した。タイムリミットだ! いくら人生諦めたと言っても生贄なんか冗談じゃない、真っ平御免だ!!!

 ふと思った。この家だけリフォームしたばかり。鉄臭い匂い……。まさか、この家で生贄を惨殺、解体している証拠じゃないか? でもって、村人達って、本当に生きている人間なのか? そもそもこの村自体……

 静かに窓を開けた。逃げるぞ、ブログは後で上げる事にする。

 ひっ、窓から出ようとしたら、白装束の村人達が。う、後ろも。いつのまにーーーーーーーーー




   だめだかこまれたム表情なやつらは手に鉈オのノコギーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 1名無しんべぇ 202×年 ×月 ××日 ×:××:×× ID 〇×▽◇

 はいネタ乙~~

 2名無しんべぇ 202×年 ×月 ××日 ×:××:×× ID ◇△×〇

 こマ???ヤバくね?

 3名無しんべぇ 202×年 ×月 ××日 ×:××:×× ID ×◇▽△

 大草原w

 4名無しんべぇ 202×年 ×月 ××日 ×:××:×× ID ●◎□▼

 おやこんな時間に誰か来たようだ……

 
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