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第百十九話
恋ぞつもりて……・前編
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次に目を開けると、元の部屋。ソファに腰をおろしていた。
……王子と繋がれそうだ……
まだ直接会えた訳ではないが、後であのメモを読む筈だ。
……大丈夫、きっとまた会える。また、前みたいに皆で。それはまだ先かもしれないけれど……
強い予感がした。実際のところ、課題は山積みなのだ。だが、きっと大丈夫。そんな、確信が伴ったような予感がした。
さて、一歩一歩着実に。出来るところから状況を変えていこう。考えるべき事は……
幽体離脱? 生霊? この仕組みはよく分からないが、魂の一部が抜け出して。それでも本体も普通に日常生活を送れるらしいが……。どういう事だろう?
「……あっ!」
そんな風に思ったのも束の間。瞬時にこの部屋にいた時の記憶が呼び起こされたのだ。魂の一部が『秘密の花薗』に行っている間、俺は再び壁にはり付いて外の様子を眺めていたらしい。城内は、幼い頃夢中になって読んだシンドバッドの絵本に出て来るような雰囲気で、ワクワクして見ていたようだ。金色の玉座には王が、その隣に派妃がいたようだが、そこで視界が暗転してしまったようだ。残念……。今も外が暗いままだから、恐らくは国王がペンダントを衣服の中にしまい込んだのだろう。まぁ、国王同士が対面ともなれば、特に身なりには注意を払うだろうし、仕方がない事だけれども。
外が見られないのであれば、少し状況を整理しよう。足って部屋を歩き回ってみる。特に疲労も感じられない。経験が無いから本当の事は分からないが、生霊を飛ばすと心身共に疲労が激しいと聞く。……という事は、疲れていない俺は生霊を飛ばした訳では無さそうだ。つまり、どういう事だ? そうだ、これは多分……こっちもまた経験した事ないから想像だけど。恐らく分身の術みたいなもんかな、と。
……そういや昔、小二の時だったかな。その頃大人気の忍者漫画があって。自室で分身の術とか使えたらいいなぁ、なんて一人遊びしていたら。いきなり弟がやって来て。
『つーか惟光みたいな無能が何人もいたら社会の迷惑だし、高月家の恥だから勘弁してよ』
なんて冷たく言われて凹んだっけ。だけど言われてみて『あー、確かに……』なんて納得しちまう自分もいて……
「……つ、惟光!」
「え? あ、あー、は、はいっ!」
唐突に背後から名を呼ばれ、心臓が口から飛び出しそうなほど驚きつつ反射的に背後を振り返る。
「突然に、すまなかったな」
「こ、国王陛下……」
穏やかな笑みを浮かべ、国王が立っていた。
「これは、わざわざお越しくださいまして……」
「私がそなたの許可を取らずに、勝手にやって来たのだ。楽に致せ」
そう言いますけど、さすがに言われた通りに砕けた態度は取れない訳で。やっぱり緊張するしどう接して良いのか分からないんだよなぁ……。
そんな事を思いながら、国王に促されるままにソファに腰をおろす。
「公務が終わったのでな。帰路に着く間、そなたと過ごしたい。本体は眠っているようにしてあるから、着くまでの間、ここにいたいのだ」
向かい側に腰をおろした国王は、蕩けそうな笑みで見つめる。こんな優しく慈愛に満ちた表情も出来るのかと、思わず息を呑んだ。まさに菩薩の如しだ。
……浮世離れした美形ってすげぇ……
ぼんやりとそんな事を思いながら、「有り難き幸せ」と無難に応じておく。万が一心を読まれていたとしたら……その時は、その時だ。却って、話しあうチャンスかもしれない。
「筑波嶺の峰より落つる男女川恋ぞつもりて淵となりぬる」
にわかに、和歌を口にする国王。何だ? どういう事だ?
「……百人一首、でございますか?」
慎重に切り返した。まさか、『秘密の花薗』に行った事、メモの全ての一部始終を知っているのだろうか……?
……王子と繋がれそうだ……
まだ直接会えた訳ではないが、後であのメモを読む筈だ。
……大丈夫、きっとまた会える。また、前みたいに皆で。それはまだ先かもしれないけれど……
強い予感がした。実際のところ、課題は山積みなのだ。だが、きっと大丈夫。そんな、確信が伴ったような予感がした。
さて、一歩一歩着実に。出来るところから状況を変えていこう。考えるべき事は……
幽体離脱? 生霊? この仕組みはよく分からないが、魂の一部が抜け出して。それでも本体も普通に日常生活を送れるらしいが……。どういう事だろう?
「……あっ!」
そんな風に思ったのも束の間。瞬時にこの部屋にいた時の記憶が呼び起こされたのだ。魂の一部が『秘密の花薗』に行っている間、俺は再び壁にはり付いて外の様子を眺めていたらしい。城内は、幼い頃夢中になって読んだシンドバッドの絵本に出て来るような雰囲気で、ワクワクして見ていたようだ。金色の玉座には王が、その隣に派妃がいたようだが、そこで視界が暗転してしまったようだ。残念……。今も外が暗いままだから、恐らくは国王がペンダントを衣服の中にしまい込んだのだろう。まぁ、国王同士が対面ともなれば、特に身なりには注意を払うだろうし、仕方がない事だけれども。
外が見られないのであれば、少し状況を整理しよう。足って部屋を歩き回ってみる。特に疲労も感じられない。経験が無いから本当の事は分からないが、生霊を飛ばすと心身共に疲労が激しいと聞く。……という事は、疲れていない俺は生霊を飛ばした訳では無さそうだ。つまり、どういう事だ? そうだ、これは多分……こっちもまた経験した事ないから想像だけど。恐らく分身の術みたいなもんかな、と。
……そういや昔、小二の時だったかな。その頃大人気の忍者漫画があって。自室で分身の術とか使えたらいいなぁ、なんて一人遊びしていたら。いきなり弟がやって来て。
『つーか惟光みたいな無能が何人もいたら社会の迷惑だし、高月家の恥だから勘弁してよ』
なんて冷たく言われて凹んだっけ。だけど言われてみて『あー、確かに……』なんて納得しちまう自分もいて……
「……つ、惟光!」
「え? あ、あー、は、はいっ!」
唐突に背後から名を呼ばれ、心臓が口から飛び出しそうなほど驚きつつ反射的に背後を振り返る。
「突然に、すまなかったな」
「こ、国王陛下……」
穏やかな笑みを浮かべ、国王が立っていた。
「これは、わざわざお越しくださいまして……」
「私がそなたの許可を取らずに、勝手にやって来たのだ。楽に致せ」
そう言いますけど、さすがに言われた通りに砕けた態度は取れない訳で。やっぱり緊張するしどう接して良いのか分からないんだよなぁ……。
そんな事を思いながら、国王に促されるままにソファに腰をおろす。
「公務が終わったのでな。帰路に着く間、そなたと過ごしたい。本体は眠っているようにしてあるから、着くまでの間、ここにいたいのだ」
向かい側に腰をおろした国王は、蕩けそうな笑みで見つめる。こんな優しく慈愛に満ちた表情も出来るのかと、思わず息を呑んだ。まさに菩薩の如しだ。
……浮世離れした美形ってすげぇ……
ぼんやりとそんな事を思いながら、「有り難き幸せ」と無難に応じておく。万が一心を読まれていたとしたら……その時は、その時だ。却って、話しあうチャンスかもしれない。
「筑波嶺の峰より落つる男女川恋ぞつもりて淵となりぬる」
にわかに、和歌を口にする国王。何だ? どういう事だ?
「……百人一首、でございますか?」
慎重に切り返した。まさか、『秘密の花薗』に行った事、メモの全ての一部始終を知っているのだろうか……?
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