155 / 186
第百九話
花嵐・前編
しおりを挟む
体の線にとって、滝のように流れる銀色の髪。長い銀色の睫毛に囲まれた銀灰色の双眸は、やっぱり春の月みたいに優しくて穏やかだ。形の良い口元は、ほんの少し口角を上げている。けれども、どことなく寂しそうに感じるのは何故だろう?
いつものようにソファに身を横たえ、俺の書いた小説を読んでいる王太子殿下……いや、もう国王になられたのだ……国王を見つめながらぼんやりと思う。戴冠式は滞りなく無事に終わったようだ。でも、途中で画面が砂嵐のようになったような気がしたんだけど、考えようとしたら藤の花が濃厚に香って来てそこでまた眠くなって。眠気と闘いながら戴冠式の様子を見ていたっけ。そういえば、元国王が退いた原因とかテレビでも特に説明していなかったけど、何だろう? 単にお歳を召した、とかかなぁ?
突如、ムカムカと吐き気を催すような怒りを感じた。何だ? 突然、あれ……? なんか知ってる気がする……。
「なるほどな。そういう結末にしたのか」
王太子殿下……国王の声で思考が中断、我に返る。そうだ、昨日戴冠式が終わって、今朝朝食が済んだ頃に部屋に国王はやってきたのだった。早く返事をしないと。
「はい。改めて物語を読んでそのような結末を考えました」
「そうか。何故、ヒロインと王子が結ばれる結末にしなかったのか、良かったら聞かせて貰えぬか?」
別段、不快に感じた様子は見受けられない事に安堵しつつ。
「はい。まず、もし隣の国の王女と王子が出会わなかったとしたら、ヒロインと王子は結ばれるだろうか? と考えました」
「ほほぅ、そう考えた訳か」
「はい、王子は再三ヒロインと二人だけの時間があるにも関わらず、妹以上の感情は抱かなかった。そこで、ヒロインは泡になって消える事なく生き続ける事が出来たなら、次こそ本当に出会うべき人に出会って相思相愛になるのではないか、そう考えました」
「……なるほどな」
国王は遠くを見るような目をしながらゆっくりと頷いた。何かを考えている様子だ。
「では、もし……」
やがて国王は、探るような口調でこう問いかけた。
「……もしヒロインが、魔女からある秘薬を貰っていたとしたら、物語はどう変わるだろうか?」
「その秘薬とは?」
「恋敵である王女の記憶を、王子から全て消し去る秘薬だ」
何故かドクン、と鼓動が大きく跳ねた。喉がカラカラに乾いて声が上手く出せない。
「……それは……でも、王子が王女に会えば仮に記憶は無くても……」
「また恋に落ちる、と?」
鋭く遮り、挑むように俺を見つめる国王。
「はい、恐らくは……」
声がかすれる。何だか頭が軋むような痛みを覚える。
「何故そう感じる?」
国王は突っかかるようにして問う。あぁ、駄目だ、思考がまとまらない……何だか脳内で風が吹き荒れているような感じがする。
「……もし、本当に結ばれるご縁なら……出会の場所や時期がどうであれ、惹かれ合うのではないかと……。あくまでも、私的意見ではありますが……」
心なしか、虚ろな眼差しで俺を見つめる国王はしばし沈黙を紡ぎ出す。
「……では、二度と王子と王女を会わせぬように魔法をかけたとしたら?」
コントラバスのように低く深みのある声。冷たく澄んだ銀灰色の双眸が射貫くように俺を見つめた。ドクン、と再び鼓動が跳ねる。そして頭の中に花吹雪が吹き荒れるような感覚を覚えた。
重苦しい沈黙が俺たちを包み込んだ。
いつものようにソファに身を横たえ、俺の書いた小説を読んでいる王太子殿下……いや、もう国王になられたのだ……国王を見つめながらぼんやりと思う。戴冠式は滞りなく無事に終わったようだ。でも、途中で画面が砂嵐のようになったような気がしたんだけど、考えようとしたら藤の花が濃厚に香って来てそこでまた眠くなって。眠気と闘いながら戴冠式の様子を見ていたっけ。そういえば、元国王が退いた原因とかテレビでも特に説明していなかったけど、何だろう? 単にお歳を召した、とかかなぁ?
突如、ムカムカと吐き気を催すような怒りを感じた。何だ? 突然、あれ……? なんか知ってる気がする……。
「なるほどな。そういう結末にしたのか」
王太子殿下……国王の声で思考が中断、我に返る。そうだ、昨日戴冠式が終わって、今朝朝食が済んだ頃に部屋に国王はやってきたのだった。早く返事をしないと。
「はい。改めて物語を読んでそのような結末を考えました」
「そうか。何故、ヒロインと王子が結ばれる結末にしなかったのか、良かったら聞かせて貰えぬか?」
別段、不快に感じた様子は見受けられない事に安堵しつつ。
「はい。まず、もし隣の国の王女と王子が出会わなかったとしたら、ヒロインと王子は結ばれるだろうか? と考えました」
「ほほぅ、そう考えた訳か」
「はい、王子は再三ヒロインと二人だけの時間があるにも関わらず、妹以上の感情は抱かなかった。そこで、ヒロインは泡になって消える事なく生き続ける事が出来たなら、次こそ本当に出会うべき人に出会って相思相愛になるのではないか、そう考えました」
「……なるほどな」
国王は遠くを見るような目をしながらゆっくりと頷いた。何かを考えている様子だ。
「では、もし……」
やがて国王は、探るような口調でこう問いかけた。
「……もしヒロインが、魔女からある秘薬を貰っていたとしたら、物語はどう変わるだろうか?」
「その秘薬とは?」
「恋敵である王女の記憶を、王子から全て消し去る秘薬だ」
何故かドクン、と鼓動が大きく跳ねた。喉がカラカラに乾いて声が上手く出せない。
「……それは……でも、王子が王女に会えば仮に記憶は無くても……」
「また恋に落ちる、と?」
鋭く遮り、挑むように俺を見つめる国王。
「はい、恐らくは……」
声がかすれる。何だか頭が軋むような痛みを覚える。
「何故そう感じる?」
国王は突っかかるようにして問う。あぁ、駄目だ、思考がまとまらない……何だか脳内で風が吹き荒れているような感じがする。
「……もし、本当に結ばれるご縁なら……出会の場所や時期がどうであれ、惹かれ合うのではないかと……。あくまでも、私的意見ではありますが……」
心なしか、虚ろな眼差しで俺を見つめる国王はしばし沈黙を紡ぎ出す。
「……では、二度と王子と王女を会わせぬように魔法をかけたとしたら?」
コントラバスのように低く深みのある声。冷たく澄んだ銀灰色の双眸が射貫くように俺を見つめた。ドクン、と再び鼓動が跳ねる。そして頭の中に花吹雪が吹き荒れるような感覚を覚えた。
重苦しい沈黙が俺たちを包み込んだ。
0
お気に入りに追加
472
あなたにおすすめの小説
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
sweet!!
仔犬
BL
バイトに趣味と毎日を楽しく過ごしすぎてる3人が超絶美形不良に溺愛されるお話です。
「バイトが楽しすぎる……」
「唯のせいで羞恥心がなくなっちゃって」
「……いや、俺が媚び売れるとでも思ってんの?」
無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~
白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。
そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!?
前世は嫌われもの。今世は愛されもの。
自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!!
****************
というようなものを書こうと思っています。
初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。
暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。
なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。
この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。
R15は保険です。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる