105 / 186
第七十四話
彩光界建国記念日リハーサル・前編
しおりを挟む
ついに、彩光界建国記念日リハーサルの日が明日になっちまった。明後日が本番だから、明日中に体に叩き込まないとだ。
まぁ、とは言っても。リアンから貰った式典の俺の役割を見ると、ただ姿勢を正して曖昧な微笑……モナリザの微笑みみたいな……を浮かべて座っている事が殆どで。仕事を紹介される時だけ起立してお辞儀をするだけ、なんだけどさ。
歩き方とか座り方とか、曖昧な微笑の浮べ方、立ち方なんかはリアンに教わって。精霊使いの練習の合間に一通りやってみてはいるのだけど。全身が映る鏡を見ながら練習するのって照れるし恥ずかしいんだよな。ダンサーとかホントにスゲーッて思うよ。
「もうお済みですか?」
レオの声で我に返る。
「ん? あ、あぁ……」
言われてみれば、朝食を殆ど残していた。
「ごめん、今朝はもうお腹いっぱいだ。いよいよ明日がリハーサルだっていうんで、緊張してきたのかな」
と笑顔で誤魔化してみる。せっかく作って貰ったものを残すのは、気が引ける。申し訳ないけれど……
「……そういえば明け方、少し咳き込んでおられましたね」
ノアが心配そうに言ってきた。
「ん? そうだったか? 気付かないで寝ていたみたいだ。煩かったらごめんな」
そういや明け方、ちょいと咳き込んで目が覚めたけど。あまりにも眠くてそのまま寝ちまったっつー。つまり、全く大した事はない訳で。
「いえ、咳はすぐに治まったようでしたが、もしかしてお体の調子が優れないのではございませんか?」
今度はレオが、畳みかけるように言った。うーん? もしや微妙に大げさな事態になりかけてるんじゃ……
「いやいや、それは無い、大丈夫だって。ほら、初めての一大イベント控えて胸がいっぱいなだけんだよ」
「失礼します、惟光様!」
「え?」
ノアがいきなり屈みこむと、右手の平を俺の額にあてた。酷く神妙な顔つきなもんだから、抵抗してその手を振り払うのは憚られた。
「お熱がありますね」
とノアは膝をついて俺を見上げる。え? そんな馬鹿な?
「いや、それは無いと思うぞ」
と答えている間に、レオが電子体温計を手にしていた。あっちの世界とさほど変わらないんだな。じゃなくて、そんな事を思っている間に、「失礼致します」と有無を言わさない勢いで俺の左脇に体温計を挟みこんだ。え? あの……。30秒ほど経つとピピピと音が鳴り、難しい顔付きでレオがそれを引き抜く。体温計の画面を、レオとノアで頬を寄せ合うようにして見つめた。レオが厳しい声で言った。
「37.8度」
「え? そんなにあった?」
体温計、壊れてるんじゃねーか?
「午前中でこの体温では、午後から高熱になる危険性がありますね」
「え? いや大丈夫だって」
「いけません!」
レオとそんな押し問答をしている間に、ノアはテキパキとベッドメイキングをし直しながら、右手をあちこちに翳してグリーンの光を巻き散らしている。
「明日がリハーサルなのに、寝ていられる訳ないだろう?」
「いいえ、本番中に倒れられた方が国民の皆様に示しがつきません」
うっ……それを言われたらそうだけど。でも……
「それはそうだけど大丈夫だよ、どこも具合悪くないし……」
「惟光様、どうか……」
「あなたの大丈夫は全くアテになりません。何度か申し上げましたね」
と、突如、右手人差し指を眼鏡のエッジに当てたリアンが、レオの真後ろに出現した。
「え? あっ、ちょっ、ちょっと!」
抵抗する間もなく、リアンに抱き抱え上げられる。
「このところずっと気を抜ける時間がありませんでしたし。少し休む時間があって良いでしょう」
「でも明日がリハーサル……」
「ええ、ですから明日中に覚えれば大丈夫なんですよ」
「でも……」
「さて、ごゆっくりとお休みください。なぁに、短時間で回復しますから」
強制的にベッドに連れていかれると、ノアが充実した表情で控えていた。うわ、これって……
「植物の癒しの力を凝縮した『癒しの揺り籠』でございます。このベッドでお休みになりますと、気力体力共にしっかりと充電されてスッキリと目覚められるでしょう。今までは、あちらの世界との関連での体調不良でしたが、今回はこちらの世界のみでの疲労なので根本からの介入が可能です」
あぁ、転移者の元の世界の事が原因の病には根本治療が出来ないけれど、今回はこっちの世界の事が原因だから根本治療が出来る、て事か。
そこはベッド自体が植物で囲い込まれており、まさに『植物の揺り籠』という感じ仕上がっていた。
まぁ、とは言っても。リアンから貰った式典の俺の役割を見ると、ただ姿勢を正して曖昧な微笑……モナリザの微笑みみたいな……を浮かべて座っている事が殆どで。仕事を紹介される時だけ起立してお辞儀をするだけ、なんだけどさ。
歩き方とか座り方とか、曖昧な微笑の浮べ方、立ち方なんかはリアンに教わって。精霊使いの練習の合間に一通りやってみてはいるのだけど。全身が映る鏡を見ながら練習するのって照れるし恥ずかしいんだよな。ダンサーとかホントにスゲーッて思うよ。
「もうお済みですか?」
レオの声で我に返る。
「ん? あ、あぁ……」
言われてみれば、朝食を殆ど残していた。
「ごめん、今朝はもうお腹いっぱいだ。いよいよ明日がリハーサルだっていうんで、緊張してきたのかな」
と笑顔で誤魔化してみる。せっかく作って貰ったものを残すのは、気が引ける。申し訳ないけれど……
「……そういえば明け方、少し咳き込んでおられましたね」
ノアが心配そうに言ってきた。
「ん? そうだったか? 気付かないで寝ていたみたいだ。煩かったらごめんな」
そういや明け方、ちょいと咳き込んで目が覚めたけど。あまりにも眠くてそのまま寝ちまったっつー。つまり、全く大した事はない訳で。
「いえ、咳はすぐに治まったようでしたが、もしかしてお体の調子が優れないのではございませんか?」
今度はレオが、畳みかけるように言った。うーん? もしや微妙に大げさな事態になりかけてるんじゃ……
「いやいや、それは無い、大丈夫だって。ほら、初めての一大イベント控えて胸がいっぱいなだけんだよ」
「失礼します、惟光様!」
「え?」
ノアがいきなり屈みこむと、右手の平を俺の額にあてた。酷く神妙な顔つきなもんだから、抵抗してその手を振り払うのは憚られた。
「お熱がありますね」
とノアは膝をついて俺を見上げる。え? そんな馬鹿な?
「いや、それは無いと思うぞ」
と答えている間に、レオが電子体温計を手にしていた。あっちの世界とさほど変わらないんだな。じゃなくて、そんな事を思っている間に、「失礼致します」と有無を言わさない勢いで俺の左脇に体温計を挟みこんだ。え? あの……。30秒ほど経つとピピピと音が鳴り、難しい顔付きでレオがそれを引き抜く。体温計の画面を、レオとノアで頬を寄せ合うようにして見つめた。レオが厳しい声で言った。
「37.8度」
「え? そんなにあった?」
体温計、壊れてるんじゃねーか?
「午前中でこの体温では、午後から高熱になる危険性がありますね」
「え? いや大丈夫だって」
「いけません!」
レオとそんな押し問答をしている間に、ノアはテキパキとベッドメイキングをし直しながら、右手をあちこちに翳してグリーンの光を巻き散らしている。
「明日がリハーサルなのに、寝ていられる訳ないだろう?」
「いいえ、本番中に倒れられた方が国民の皆様に示しがつきません」
うっ……それを言われたらそうだけど。でも……
「それはそうだけど大丈夫だよ、どこも具合悪くないし……」
「惟光様、どうか……」
「あなたの大丈夫は全くアテになりません。何度か申し上げましたね」
と、突如、右手人差し指を眼鏡のエッジに当てたリアンが、レオの真後ろに出現した。
「え? あっ、ちょっ、ちょっと!」
抵抗する間もなく、リアンに抱き抱え上げられる。
「このところずっと気を抜ける時間がありませんでしたし。少し休む時間があって良いでしょう」
「でも明日がリハーサル……」
「ええ、ですから明日中に覚えれば大丈夫なんですよ」
「でも……」
「さて、ごゆっくりとお休みください。なぁに、短時間で回復しますから」
強制的にベッドに連れていかれると、ノアが充実した表情で控えていた。うわ、これって……
「植物の癒しの力を凝縮した『癒しの揺り籠』でございます。このベッドでお休みになりますと、気力体力共にしっかりと充電されてスッキリと目覚められるでしょう。今までは、あちらの世界との関連での体調不良でしたが、今回はこちらの世界のみでの疲労なので根本からの介入が可能です」
あぁ、転移者の元の世界の事が原因の病には根本治療が出来ないけれど、今回はこっちの世界の事が原因だから根本治療が出来る、て事か。
そこはベッド自体が植物で囲い込まれており、まさに『植物の揺り籠』という感じ仕上がっていた。
11
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる