その男、有能につき……

大和撫子

文字の大きさ
上 下
12 / 186
第十話

毒味役、果たして俺の運命は……?

しおりを挟む
 アルフォンスに自分の名前をしっかりと名乗って挨拶をした後、「これを着てください」とリアンに渡された服装は……白衣に白い帯、白い足袋に草履。俗に言う白装束、てやつだった。何だ何だ? 死に装束、てか? 丑の刻参りとか? いや……さすがに頭に三角の白い布は渡されなかったけどさ。

 という事で、俺はボルドー色のカーペットが敷かれた長い廊下を、リアン、アルフォンス、続いて俺……という順番で歩いている。しかし、慣れない着物の上に足袋に草履は歩きにくいなぁ。その内慣れるんだろうか。……これが最初で最後かもしれないけどさ。

 白い天井には等間隔に豪華なシャンデリアがついていて、煌々と辺りを照らし出している。左右に部屋がいくつもある。三百番代の部屋番号が振られていて、何だかホテルみたいだ。という事は、恐らく俺がいる部屋は三階なんだろうな。誰か住んでいるんだろうか。シーンと静まり返った廊下。ただ黙々と歩く俺たち。何か考えていないと、どこか異世界に入り込んでしまいそうでおかしくなりそうだ。……て、ここ自体が異世界なんだけどな。

 死に行く場所に続く廊下……なんて事考えないようにしないと。毒味、問題なければそのまま王子に出す、て事はだ。きっと上等な素材で極上の朝食に違いない。洋食かな? 和食かな? それとも中華風か、或いは異世界料理かもしれない。小説に書く上で必要だったから、和食と洋食のテーブルマナー講座に参加した経験、役立つと良いなぁ。どうせなら上品に、されどたらふく食べて逝たいぞ! 

 少し歩くと、廊下が開けて一気に明るくなった。所謂、踊り場に出たんだな。上に続く階段と、下に続く階段に別れている。斜め上には窓が。あ! すげー! 薔薇と百合のステンドグラスが窓に! なんて感動している内に、リアンとアルフォンスはどんどん下に降りていった。慌ててついていく。おっと、走ったらつまづいてコケそうだ。気をつけないと。階段は行き来し易い高さに出来て居ると思う。あれだ、迎賓館にたいなイメージかな。踊り場がもう一つあって、そこには甲冑が飾られていた。ほら、漫画やアニメでよく見るじゃんん、まさにあんな感じ。夜中とか動き出しそうでこえーよ。で、また廊下と部屋が見えてきて。チラ見してみたところ、やっぱり二百番代の番号がふられてる。そこは二階なんだな、きっと。

 一階に着いた。まだ階段が下に続いているから地かもあるんだろう。向かい側にはエレベーターらしき扉を発見! 左奥には明るく広々としたロビー? 玄関かな? やっぱり高級ホテルみたいだ。階段をおりて右手の廊下を歩いて行くと、左斜め前に真っ白なカーテンで仕切られた大きな部屋が見えてきた。ガチャガチャ何やら色んな音がする。

「その右手の白いカーテンで仕切られた場所が厨房です。朝食を召し上がって頂く場所はその少し先の右手の部屋です」

 リアンはそう言って少し足をはやめた。ドクン、心臓が跳ねた。いよいよだ。

「こちらです、どうぞ」

 そう言って、リアンは白い扉の部屋を開けた。リアンに軽く会釈をしたアルフォンスは、俺を案内するように先に立って歩く。中はツルツルに磨かれた木製の床に白い壁。廊下と同じシャンデリアが天上に一つ。三十畳くらいの部屋だった。白い丸テーブルがと五つの白い椅子が二十ほど並べられている。そうだ、披露宴の席みたいな印象だ。

「ここに座ってください」

 とアルフォンスは入口に近いテーブルに着くと、その中の椅子の一つを引いた。「恐れ入ります」と軽く頭を下げて、その椅子に座る。まさか、後ろに椅子を引いたりは……されなかった。良かった。

「ここは使用人たちが食事をする場所です。今から担当の者が朝食を運んで参ります。全て揃ったら、自由に召し上がって頂きます」

 静かに扉を閉めて、リアンは近づきながら説明した。

「俺、このまま座って食べるだけで大丈夫なんでしょうか? 運ぶのとか、お手伝いした方が……」

 戸惑いながら聞いてみる。

「食事を作る者、給仕する者、運ぶ者、毒味をする者、と担当が決まっていますから。召し上がって頂くだけで大丈夫ですよ」

 とリアンは微笑んだ。銀縁眼鏡の縁がギラッと光る。死へのカウントダウンが始まった気がした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

sweet!!

仔犬
BL
バイトに趣味と毎日を楽しく過ごしすぎてる3人が超絶美形不良に溺愛されるお話です。 「バイトが楽しすぎる……」 「唯のせいで羞恥心がなくなっちゃって」 「……いや、俺が媚び売れるとでも思ってんの?」

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

処理中です...