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02. 【side:H】①
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「えっ!? お前らまだ付き合ってなかったのか!?」
「翔真、声が大きい!」
「え! あ、ごめん!」
昼食時の待ち合わせ場所である学食のカフェのいちばん片隅の席で。
美行と翔真先輩のやり取りにオレはくすくす笑った。なんというか、微笑ましい。
「それより、本気で付き合ってないのか?」
さっきより声を潜めて、ひそひそと聞いてくる翔真先輩に苦笑して見せる。
「オレが、一方的に待たせてしまって……」
「両想いではあるんだな?」
「ええ、まあ……」
諒也が、あの時の気持ちのままでいてくれるなら。待ってくれているなら、まだ両想いのはずだ。
不意をつくように触れるだけのキスをしてくる諒也を、オレが拒まなくなったのはいつからだろう。もう、その時点で付き合ってしまえば良かったのに、完全にタイミングを外してしまったのだ。
今も、美行に『諒也が女子につかまって告白されてる』と告げられて焦りが生まれているところだ。
優しい諒也に、甘えすぎた罰だろうか。
「それより遥香。今のうちに相談したいことって?」
美行が聞いてくれて、そうだ、と本題を思い出す。諒也が来ていないこの時間を使って相談したいことがあった。いつどんなふうに切り出すか考えあぐねていたところに今日のこの諒也呼び出しで、予想外にチャンスができたのだ。これを逃す手はない。
「そう。それで、5月5日が諒也の誕生日なんだけど、その時にきっかけを作れないかなと思って。何か良いアイディアない?」
少し早口になりながら声を潜めて言えば、美行も翔真先輩も神妙な顔つきになる。
「両想いだって分かってて付き合ってないんだよね?」
「……そう、だけど」
「今さら告白でもないとなれば、やっぱりアレだろ」
「アレ?」
「ペアリング、とか」
「……っ!? ペア!?」
翔真先輩と頷き合うように言う美行の言葉に、思わず過剰反応してしまう。
「同じ型のネックレスとかでもいいけど、緒方の場合は女避けの意味も込めてリングがいいと思うぞ」
「女避け……」
「さすがにいかにもなリング着けてれば、女の子も諦めるでしょ」
「そう……かな……」
諒也はオレの欲目抜きで見てもカッコイイ。女の子たちが好きになるのも分かるのだ。だけど、やっぱり両想いだと分かってて一緒に居る時間が長ければ、欲も出てくる。
オレなんかが釣り合うとは思わないけど、そばに居たい。
そう思えば、キンと耳鳴りがしていつもの声が聞こえてくる。
生まれて来なければ良かった、そう思われていても。諒也の優しさに包まれて、好きになってしまった。諒也にも求められている事が分かってから、その言葉が聞こえてくる頻度は減ってきていた。それでも、完全には消えてはくれない。手紙も、まだ怖くて読めていなかった。
少し頭痛がして、手で額を押さえてふるりと頭を振った。
「遥香、頭痛いのか?」
優しく気遣う声は、背後から。すぐに、椅子に座るオレの頭上から顔を覗き込むように諒也が現れる。
「諒也。ううん、大丈夫」
心配させないように、仰向いてにこりと笑って見せた。
すると諒也はそのままオレの隣へと座る。
カフェとは言っても学食。食券を買ってのセルフサービスである。
「あれ。諒也は日替わりランチ? 珍しいね」
「ん? 遥香が悩んだと思ったんだけど」
オレはいつも手軽に食べられるサンドイッチのBランチだけれど、今日の日替わりランチはオムライスだった。たしかに迷った。
「なんでバレたの?」
「遥香の好物を知らないハズないだろ?」
つまり、これはシェアをしようという提案でもある訳だ。
「ふふふ、ありがと」
先に少しだけ手をつけてしまっていたけれど、ほとんど食べていない状態のBランチ。話に夢中になっていた証拠だな、と思う。
それから、シェアというよりは一方的に餌付けされるような形で食事を終わらせると、美行が唐突に諒也の手を褒め始めた。
「諒也ってさ、家事やってる割に指キレイだよね?」
「そうか?」
「うん。あんまり荒れてないし、男にしては細くない? サイズいくつ?」
「指輪の? うーん、そういうの着けたことないし、そんな予定もないからなぁ」
「そうなんだ。遥香は?」
「えっ、オレも分からないけど……」
「そうかぁ……」
美行はそう呟くと、おもむろに自分の指に着けたリングを外してオレに渡す。
「試しに、僕のこれ着けてみて?」
「えっ」
「いいからいいから」
どの指に着ければいいものか悩んでオロオロしていると、美行にビシリと左手の薬指を示されて、渋々と嵌めてみる。
するりと嵌ったそれに、試しに手を握ったり開いたりしてみる。
「どう?」
「んー。なんかこういうの着けたことないから違和感はあるけど、サイズ的にはいいのかな?」
「なるほどね。僕とほぼ同じか」
美行がなにやらフムフムと頷いている傍らで、今度は翔真先輩が諒也にリングを渡していてギョッとする。
「緒方はこっち」
「あ、うん」
諒也はなぜか言われるまま先輩の指輪を左手薬指に嵌めていた。なぜ迷わずその指にした? と聞いてやりたい。が、結果は気になるという矛盾するオレ。
オレはすでに指輪を外して美行に返しているところだ。
「あー、こんな感じなんだね。初めて着けた」
「サイズは?」
「たぶんいい感じ、なのかなと思う」
「うん、試しにこっちも着けてみろ」
「うん? ……あ、こっちの方が違和感ないかも」
一体オレたちは何をやっているのか。
周りから見られてはいないから良いんだけれど。
「さて、と。そろそろ次の講義始まるな。お前ら3限目は?」
「オレは休講」
「僕らも」
「そうか。じゃあ篠宮と緒方は明日だな。美行、またあとで」
「うん、いってらっしゃい」
主に美行に告げられた言葉に、彼が返してオレたちは手を振るのみにする。
そうして。
この日の夜、美行から送られてきたメッセージには、オレと諒也の指輪のサイズがしっかりと書いてあって。今は通販という便利なものもあることを教えられたのだった。
「翔真、声が大きい!」
「え! あ、ごめん!」
昼食時の待ち合わせ場所である学食のカフェのいちばん片隅の席で。
美行と翔真先輩のやり取りにオレはくすくす笑った。なんというか、微笑ましい。
「それより、本気で付き合ってないのか?」
さっきより声を潜めて、ひそひそと聞いてくる翔真先輩に苦笑して見せる。
「オレが、一方的に待たせてしまって……」
「両想いではあるんだな?」
「ええ、まあ……」
諒也が、あの時の気持ちのままでいてくれるなら。待ってくれているなら、まだ両想いのはずだ。
不意をつくように触れるだけのキスをしてくる諒也を、オレが拒まなくなったのはいつからだろう。もう、その時点で付き合ってしまえば良かったのに、完全にタイミングを外してしまったのだ。
今も、美行に『諒也が女子につかまって告白されてる』と告げられて焦りが生まれているところだ。
優しい諒也に、甘えすぎた罰だろうか。
「それより遥香。今のうちに相談したいことって?」
美行が聞いてくれて、そうだ、と本題を思い出す。諒也が来ていないこの時間を使って相談したいことがあった。いつどんなふうに切り出すか考えあぐねていたところに今日のこの諒也呼び出しで、予想外にチャンスができたのだ。これを逃す手はない。
「そう。それで、5月5日が諒也の誕生日なんだけど、その時にきっかけを作れないかなと思って。何か良いアイディアない?」
少し早口になりながら声を潜めて言えば、美行も翔真先輩も神妙な顔つきになる。
「両想いだって分かってて付き合ってないんだよね?」
「……そう、だけど」
「今さら告白でもないとなれば、やっぱりアレだろ」
「アレ?」
「ペアリング、とか」
「……っ!? ペア!?」
翔真先輩と頷き合うように言う美行の言葉に、思わず過剰反応してしまう。
「同じ型のネックレスとかでもいいけど、緒方の場合は女避けの意味も込めてリングがいいと思うぞ」
「女避け……」
「さすがにいかにもなリング着けてれば、女の子も諦めるでしょ」
「そう……かな……」
諒也はオレの欲目抜きで見てもカッコイイ。女の子たちが好きになるのも分かるのだ。だけど、やっぱり両想いだと分かってて一緒に居る時間が長ければ、欲も出てくる。
オレなんかが釣り合うとは思わないけど、そばに居たい。
そう思えば、キンと耳鳴りがしていつもの声が聞こえてくる。
生まれて来なければ良かった、そう思われていても。諒也の優しさに包まれて、好きになってしまった。諒也にも求められている事が分かってから、その言葉が聞こえてくる頻度は減ってきていた。それでも、完全には消えてはくれない。手紙も、まだ怖くて読めていなかった。
少し頭痛がして、手で額を押さえてふるりと頭を振った。
「遥香、頭痛いのか?」
優しく気遣う声は、背後から。すぐに、椅子に座るオレの頭上から顔を覗き込むように諒也が現れる。
「諒也。ううん、大丈夫」
心配させないように、仰向いてにこりと笑って見せた。
すると諒也はそのままオレの隣へと座る。
カフェとは言っても学食。食券を買ってのセルフサービスである。
「あれ。諒也は日替わりランチ? 珍しいね」
「ん? 遥香が悩んだと思ったんだけど」
オレはいつも手軽に食べられるサンドイッチのBランチだけれど、今日の日替わりランチはオムライスだった。たしかに迷った。
「なんでバレたの?」
「遥香の好物を知らないハズないだろ?」
つまり、これはシェアをしようという提案でもある訳だ。
「ふふふ、ありがと」
先に少しだけ手をつけてしまっていたけれど、ほとんど食べていない状態のBランチ。話に夢中になっていた証拠だな、と思う。
それから、シェアというよりは一方的に餌付けされるような形で食事を終わらせると、美行が唐突に諒也の手を褒め始めた。
「諒也ってさ、家事やってる割に指キレイだよね?」
「そうか?」
「うん。あんまり荒れてないし、男にしては細くない? サイズいくつ?」
「指輪の? うーん、そういうの着けたことないし、そんな予定もないからなぁ」
「そうなんだ。遥香は?」
「えっ、オレも分からないけど……」
「そうかぁ……」
美行はそう呟くと、おもむろに自分の指に着けたリングを外してオレに渡す。
「試しに、僕のこれ着けてみて?」
「えっ」
「いいからいいから」
どの指に着ければいいものか悩んでオロオロしていると、美行にビシリと左手の薬指を示されて、渋々と嵌めてみる。
するりと嵌ったそれに、試しに手を握ったり開いたりしてみる。
「どう?」
「んー。なんかこういうの着けたことないから違和感はあるけど、サイズ的にはいいのかな?」
「なるほどね。僕とほぼ同じか」
美行がなにやらフムフムと頷いている傍らで、今度は翔真先輩が諒也にリングを渡していてギョッとする。
「緒方はこっち」
「あ、うん」
諒也はなぜか言われるまま先輩の指輪を左手薬指に嵌めていた。なぜ迷わずその指にした? と聞いてやりたい。が、結果は気になるという矛盾するオレ。
オレはすでに指輪を外して美行に返しているところだ。
「あー、こんな感じなんだね。初めて着けた」
「サイズは?」
「たぶんいい感じ、なのかなと思う」
「うん、試しにこっちも着けてみろ」
「うん? ……あ、こっちの方が違和感ないかも」
一体オレたちは何をやっているのか。
周りから見られてはいないから良いんだけれど。
「さて、と。そろそろ次の講義始まるな。お前ら3限目は?」
「オレは休講」
「僕らも」
「そうか。じゃあ篠宮と緒方は明日だな。美行、またあとで」
「うん、いってらっしゃい」
主に美行に告げられた言葉に、彼が返してオレたちは手を振るのみにする。
そうして。
この日の夜、美行から送られてきたメッセージには、オレと諒也の指輪のサイズがしっかりと書いてあって。今は通販という便利なものもあることを教えられたのだった。
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