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【閑話】加藤の憂鬱

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「まったくさぁ、吉田のこととなると人が変わるよね、西園寺は」
「それだけ大切なんだろ」


 加藤家、使用人である徹也の部屋で。
 加藤家嫡男とその恋人は、西園寺円の策略の手伝いのために動画の加工をしていた。


「しかし、見事に吉田の顔映ってないな」
「そりゃ、何がなんでも守りたいんだから必死でしょ。呼び出されたって聞いて、見る見る顔色変わっていったし」
「けど、無加工だと声でバレるな。多少変えとくか」
「できる?」
「吉田のところだけな。要は佐々木の淫行の証拠だろ?」
「それいったらそうなんだけどさぁ」


 徹也はパソコンに取り込んだ動画を丁寧に加工している。加藤は、そんな徹也の背中に張り付き、肩越しにモニターを覗き込んでいる形だ。


「西園寺も、よくもこんな動画撮れるな……」
「いやぁ、あれは自分自身に激怒してたよ?」
「西園寺が?」
「証拠がなければ淫行罪なんて分からないし。吉田はそんなの訴えるタイプじゃなさそうだからね。どうにかして証拠をおさえて潰しておきたかったんじゃない?」
「それで吉田を利用したから?」
「うーん、それもあると思うけど」
「けど?」
「吉田に、他の男を触れさせたから」
「…………」
「自分自身を殺しかねない勢いだったよ」
「…………」


 部屋に少しの沈黙が落ちる。


「……おれは、二度と西園寺の前に出ない方がいいな?」
「たぶんね。僕も、吉田が許してくれるから西園寺は大目に見てくれてるだけだと思う」


 加藤は、自分がやったことの自覚はある。
 あの時は読みが浅かった。西園寺があれほどまでに吉田に執着しているなら、吉田に手を出しはしなかったのに。そう、後悔しても、もう遅い。
 だけど。


(あの出来事があったからこそ、今の僕と徹也の関係がある)


 そう思えば、全てがムダだったとは思えないから不思議だ。


「それにしても、吉田ってムダにエロいよね。やっぱり抱かれると変わるのかな」
「……ノーコメント」
「それずるい。僕が何を言いたいのか分かってるくせに」
「それもノーコメントだ」
「いつになったら抱いてくれるの」
「……こんな危険な目には合わせられないからな」
「え……」
「まだ、もう少し待ってろ」


 そう、徹也が言って。二人はそっと唇を重ね合わせた。
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