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099.

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 美作の説得を引き受け、今度は仕事としてではなく真と会う約束まで交わして西園寺の家を後にする。
 帰り方を見られるとまずい、という理由で、見送りはなしにしてもらった。
 まず式神の世界に戻った瞳は、式神全員に無事を確認された。怪我はないかとか、体調はどうだとか、瞳の式神たちもたいがい過保護である。
 瞳の方は、大倶利伽羅に刃こぼれがないことを確認してひと安心である。仮にも陶器を破壊させてしまったのだ、少し心配だったが、本人に言わせればそんなにヤワではないそうである。


「さて。じゃあ、戻る」


 そう告げて、少し考えた瞳はとりあえず自室へと道を開いた。
 家の中に円の気配はない。どうやら青龍がきちんと伝えて説得したのだろうと思われる。
 スマホを取り出して、グループのトークルームを開いてメッセージを送れば、すぐに3件の既読がつく。
 代表してだろう、美作からだけの簡潔なメッセージが入るのを確認してから着替えを準備してシャワーを浴びに浴室へ向かった。
 少し念入りにシャワーを浴びたのは、あまりにも後味が悪い相手だったせいもあるが、これからしようとしていることへの決意を固めるためでもある。
 準備した着替えに袖を通して、髪にドライヤーをかける。少しだけ考えて、前髪だけ整えた。念の為に銀縁のメガネをかけてボディバッグを持つと家を出た。
 向かう先は、律たちが待つマンションである。


(さすがに……少し緊張するな)


 ぼんやりとそんなことを思う。
 反発されるどころか、聞いてももらえない可能性だってある。
 『仕事』の時ですらこんなに緊張したことはない。
 エントランスで部屋番号を押してインターホンを鳴らせば、いつものようにドアが開く。
 そのままエレベーターに乗って目的階に到着すれば、やはりいつものように美作が迎えに出ていた。
 あからさまにホッとしたような表情を見せてくるのは珍しい。


「瞳さま。お疲れ様でした」
「ありがとうございます。……ご心配おかけしました」
「お待ちかねですよ」


 誰が、とは言わないけれど、それはもう暗黙の了解というやつである。
 美作がドアを開けて中へと誘導するから、そのままリビングへと進めば、円と律、二人が同時に抱きついてくるのでさすがの瞳も少しよろめいた。後ろから美作が支えてくれるから、かろうじて倒れずに済んだ。


「おかえり。おかえりなさい、瞳!」
「無事でよかった!」
「ご心配おかけしました……。ただいまかえりました」


 前回のことがあるので、三人の心配も安心もひとしおだったようである。


「瞳さま、お昼は」
「食べました。みなさんは」
「いただきました」
「では、オレからみなさんに話があります」
「はい……」
「少し長くなりますが、大丈夫ですか?」
「美作、お茶を」
「はい。水だしのアイスティーがあります。瞳さまもそれでしたらお好きですよね?」
「はい。ありがとうございます」


 すっかり好みを把握されている。
 瞳は紅茶よりもコーヒー派で、いつもはブラックだが疲れた時はカフェオレにする。最近は円が仕込んでくれた水だしアイスティーがきっかけでアイスティーにもハマっているのだ。


「では、みなさまお座りになってお待ちください」


 美作がキッチンへと向かい、瞳は律と円に促されてリビングのソファに座る。隣に円、対面には律という、いつもの構図だ。
 美作がグラスにアイスティーを用意して、それぞれの前に置き、律の後ろに控える。


「……美作さんも座ってください」
「はい?」
「この話は、美作さんも当事者です。座って聞いてください」


 瞳が言い募るので、律が美作を見て頷いた。
 美作は少しためらうけれど。


「飲み物も準備してください。……長くなります」
「……かしこまりました」


 瞳の言葉に、美作はもう一度キッチンに行って自分用にアイスティーをグラスに注いで持ってきて、律の隣に座った。
 三人の視線が瞳に集まる。
 瞳は、気持ちを落ち着けるために、目を閉じて大きく息を吐いた。


「……オレの『仕事』にも守秘義務はあります」


 全員が一様に頷いた。


「前回の件でもそうです。状態が状態でしたので経緯はお話ししましたが、該当人物が誰であるかは極秘情報でした。……裏の世界では噂になっているので、いずれ耳にするかもしれませんが」


 盛大なルール違反をした彼らは、裏の世界ではかなりの噂になっている。特に式神たちだ。
 美作あたりはもう見当がついているかもしれない。そのくらいには話は広まっている。だからこそ、制裁を望む者が多くいるのだ。


「けれど、今回はみなさんは当事者だ。全てを知る必要があると、オレが判断しました」
「どういうことなの?」
「瞳?」
「瞳さま、まさか……」


 美作は、たぶん気付いた。だから、彼に向かって頷き、それから正面に座る律に視線を定めて告げた。


「今回の『現場』は、西園寺家でした」


 円と律が、ひゅ、と喉を鳴らし、美作が息をのむのがわかった。
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