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『いたいのいたいのー』
『とんでけー』
『なおれー』
翌朝。
早朝だというのに目が覚めたら妖精たちが待ち構えていて、朝食前に儀式のように妖精たちに触られまくっている瞳である。
「はい、今日はおしまい」
『まだやりたいー』
『もうすこしー』
「うん、また明日ね」
もう少し、ということはたぶん、もう少しで完治するのだろう。それより思うのは、妖精たちが楽しんでいることがなんとなく不安でならない。本当に完治したら終わるのか? 好奇心旺盛な妖精たちだ。今度は全身の時間を進めるとか言い出されたりしないだろうかと心配なのである。
とりあえずシャワーでも浴びようと準備して部屋を出れば、ちょうど起きてきたらしい円と鉢合わせた。
「おはよ」
「おはよう……。えと、昨夜はすみませんでした!」
「いや、もういい……。なんか慣れるべきかなって。とりあえずシャワー浴びてくる」
「お、おう」
ひらりと手を振ってあくびをしながら浴室へ入った。
慣れるというより、自覚をするべきである。
瞳に圧倒的に足りないのは好かれているという自覚なのだが、それに気付けない辺りが致命的だ。
ザァッと手早くシャワーを浴びて、ドライヤーをかけるのも面倒くさくて髪は濡れたまま後ろに撫でつけて浴室を出る。そのままリビングに向かえば、キッチンにいた円と目が合った。その瞬間に、円が固まる。
「?」
「ちょ、今日『仕事』なの!?」
「え? 違うけど」
「じゃあなんでそんな髪型してんの!」
「ドライヤー面倒で……」
「心臓に悪いからやめて! ドライヤーくらいやってあげるから!」
バタバタと浴室までドライヤーを取りに行く円は犬みたいだ。瞳はリビングでソファに座らされて、ドライヤーをかけてもらう。
「はぁー、もうほんと。怪我治りきってないんだからやめてよね」
「あ、絆創膏取り替えてもらえるか?」
「ハイハイ、やりますよ」
わしわしっと手で髪をまぜながらドライヤーで風を当て、最後にブラシで整えながら綺麗に乾かしてくれた。
「なんか……いつもと髪質違う?」
「そんなことないでしょ。いつも乱暴なんだよ。瞳ってそういうとこ意外と無頓着だよね」
いつもよりサラサラしている気がする髪の感触を楽しみながら、たまにはこういうのもいいな、などと瞳は思った。
円はドライヤーを片付けると同時に小田切が置いていった絆創膏を取り出す。
「ちょっと待って、俺剥がすの怖いから瞳が剥がして。背中はちゃんとやるから、いちばん酷いとこ……」
傷口に張り付くイメージがあるのだろう。今の絆創膏はそんなことはないのだが、と思いながらペリッと剥がすと、もはや絆創膏が必要なのか分からないほどに回復していた。
「えっ、これ昨日よりめっちゃ治ってるんだけど……」
「今朝は早くから妖精たちがやってくれた」
「ああ……。これ本当に絆創膏貼る?」
「ん、念の為」
「はぁい」
ペリリと剥離紙を剥がして絆創膏を傷口に押し当てる。触れてくる円の指先は冷たくて気持ちが良かった。
ふ、と笑えば円も笑ってくれた。
こういう瞬間を幸せというのかな、などと考える。
「なぁ、今日って事務所に行く日?」
「うん、来てって。あ、私服でいいみたいだよ」
「マジか」
「マジ。てか、メッセージ見てない?」
「…………」
スマホ初心者、瞳。スマホをチェックしたり持ち歩いたりを忘れがちな男、である。
あと少しで朝食の準備が終わるから、と言われてスマホをチェックするために部屋に戻った。
未読メッセージの数字が表示されていて、あちゃー、と思う。
グループのトークルームへ入れば、律からのメッセージや円のメッセージもあって、もう少し意識するようにしよう、と反省をした。
それから美作との個人的なトークルームにもメッセージがあって、見れば、今夜また連絡をくれるとの内容だった。おそらくは『西園寺』の話だ。美作には「了解」とだけ送り、グループの方は今更だな、と放置して事務所で謝ることにした。
「瞳ー。できたよー」
「おう! 今行く」
呼ばれてダイニングへ行けば、用意されていたのはクロックマダムだった。
「これはまた、朝からしっかりだな……」
「瞳、まだ貧血気味でしょ。怪我が治っても油断はダメです!」
まずはしっかり食べさせて、貧血が治ったらトレーニング可能。
それが円と美作の出した結論だった。
そういう訳で、まだしばらくはトレーニングができないらしい。本当に身体が鈍ってしまう。
真剣にそう思い、体力回復のため、まずは貧血対策をすることになった瞳であった。
『とんでけー』
『なおれー』
翌朝。
早朝だというのに目が覚めたら妖精たちが待ち構えていて、朝食前に儀式のように妖精たちに触られまくっている瞳である。
「はい、今日はおしまい」
『まだやりたいー』
『もうすこしー』
「うん、また明日ね」
もう少し、ということはたぶん、もう少しで完治するのだろう。それより思うのは、妖精たちが楽しんでいることがなんとなく不安でならない。本当に完治したら終わるのか? 好奇心旺盛な妖精たちだ。今度は全身の時間を進めるとか言い出されたりしないだろうかと心配なのである。
とりあえずシャワーでも浴びようと準備して部屋を出れば、ちょうど起きてきたらしい円と鉢合わせた。
「おはよ」
「おはよう……。えと、昨夜はすみませんでした!」
「いや、もういい……。なんか慣れるべきかなって。とりあえずシャワー浴びてくる」
「お、おう」
ひらりと手を振ってあくびをしながら浴室へ入った。
慣れるというより、自覚をするべきである。
瞳に圧倒的に足りないのは好かれているという自覚なのだが、それに気付けない辺りが致命的だ。
ザァッと手早くシャワーを浴びて、ドライヤーをかけるのも面倒くさくて髪は濡れたまま後ろに撫でつけて浴室を出る。そのままリビングに向かえば、キッチンにいた円と目が合った。その瞬間に、円が固まる。
「?」
「ちょ、今日『仕事』なの!?」
「え? 違うけど」
「じゃあなんでそんな髪型してんの!」
「ドライヤー面倒で……」
「心臓に悪いからやめて! ドライヤーくらいやってあげるから!」
バタバタと浴室までドライヤーを取りに行く円は犬みたいだ。瞳はリビングでソファに座らされて、ドライヤーをかけてもらう。
「はぁー、もうほんと。怪我治りきってないんだからやめてよね」
「あ、絆創膏取り替えてもらえるか?」
「ハイハイ、やりますよ」
わしわしっと手で髪をまぜながらドライヤーで風を当て、最後にブラシで整えながら綺麗に乾かしてくれた。
「なんか……いつもと髪質違う?」
「そんなことないでしょ。いつも乱暴なんだよ。瞳ってそういうとこ意外と無頓着だよね」
いつもよりサラサラしている気がする髪の感触を楽しみながら、たまにはこういうのもいいな、などと瞳は思った。
円はドライヤーを片付けると同時に小田切が置いていった絆創膏を取り出す。
「ちょっと待って、俺剥がすの怖いから瞳が剥がして。背中はちゃんとやるから、いちばん酷いとこ……」
傷口に張り付くイメージがあるのだろう。今の絆創膏はそんなことはないのだが、と思いながらペリッと剥がすと、もはや絆創膏が必要なのか分からないほどに回復していた。
「えっ、これ昨日よりめっちゃ治ってるんだけど……」
「今朝は早くから妖精たちがやってくれた」
「ああ……。これ本当に絆創膏貼る?」
「ん、念の為」
「はぁい」
ペリリと剥離紙を剥がして絆創膏を傷口に押し当てる。触れてくる円の指先は冷たくて気持ちが良かった。
ふ、と笑えば円も笑ってくれた。
こういう瞬間を幸せというのかな、などと考える。
「なぁ、今日って事務所に行く日?」
「うん、来てって。あ、私服でいいみたいだよ」
「マジか」
「マジ。てか、メッセージ見てない?」
「…………」
スマホ初心者、瞳。スマホをチェックしたり持ち歩いたりを忘れがちな男、である。
あと少しで朝食の準備が終わるから、と言われてスマホをチェックするために部屋に戻った。
未読メッセージの数字が表示されていて、あちゃー、と思う。
グループのトークルームへ入れば、律からのメッセージや円のメッセージもあって、もう少し意識するようにしよう、と反省をした。
それから美作との個人的なトークルームにもメッセージがあって、見れば、今夜また連絡をくれるとの内容だった。おそらくは『西園寺』の話だ。美作には「了解」とだけ送り、グループの方は今更だな、と放置して事務所で謝ることにした。
「瞳ー。できたよー」
「おう! 今行く」
呼ばれてダイニングへ行けば、用意されていたのはクロックマダムだった。
「これはまた、朝からしっかりだな……」
「瞳、まだ貧血気味でしょ。怪我が治っても油断はダメです!」
まずはしっかり食べさせて、貧血が治ったらトレーニング可能。
それが円と美作の出した結論だった。
そういう訳で、まだしばらくはトレーニングができないらしい。本当に身体が鈍ってしまう。
真剣にそう思い、体力回復のため、まずは貧血対策をすることになった瞳であった。
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