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二人でダイニングに向かえば、テーブルには煮込みハンバーグが並んでいた。
「すみません、デミグラスソースを余らせてしまいまして」
美作が申し訳なさそうに言う。お昼のオムライスだけでは使い切らなかったらしい。
そんな美作に瞳はふわりと笑顔を向ける。
「大丈夫です。それに、美味しそうなので」
むしろ早く食べたいです、なんて言葉まで口をついて出てしまう。
円や美作が作ったもので美味しくなかったものなんてないから、瞳の期待も膨らむのである。
円が瞳の椅子を、美作が律の椅子を引いてくれるから二人で座った。その後で円も美作も席について、食事が始まってすぐに、美作が瞳を見ながら不意に言った。
「瞳さま、腕の動かし方がスムーズになってますね……」
「えっ……」
美作の指摘に、円がギョッとする。
「ちょ、瞳!?」
何かやったの? という三人の視線を向けられて、たはは、と白状する。
「妖精たちにお願いしただけですから、霊力は使ってませんよ」
「妖精にお願いができるんですか……」
「そうですね。妖精によって『属性』があって、得意とする『お願い』はあるんですけど。たとえば『火』の属性だったら火起こしを手伝ってくれますし、『水』の属性なら水を集めてくれます。今回は『時間』の属性の妖精たちに、怪我をしている場所の時間を早めてもらったんです」
「それは……」
「反則技ですね……」
『反則技』発言に、やはり、と頭を抱える美作だが、そろそろ慣れてきた律と円は「そうなのか」などと言って聞いている。馴染んできたな、と思う瞳だ。いいかげん、美作にも慣れてもらいたいものである。
「結構たくさんの子たちが協力してくれたので、かなり回復してるはずです」
明日にも順番待ちの妖精たちがいるとは言わないでおこう。うん、その方が賢明だ。
そういえば、と。ふと瞳は気付いた。
「律さんの事務所はどうなってるんです?」
「あら、ちゃんとおやすみしてるわよ?」
「え? あー、すみません……」
瞳が手伝いをする条件を、律は守ってくれていた。
仕事の依頼を受ける時は瞳を通すこと。
「大丈夫よ。どうせ開店休業状態の事務所だもの。奈良旅行もキャンセルしておいたから、ゆっくり休むのよ」
「え?」
「……え、瞳あなた行くつもりだったの?」
「いえ、オレは行けませんけど……」
「まさか瞳を置いて行ってこいって言うつもり?」
「…………」
瞳が無言なのは図星を刺されたからだ。
瞳だけ留守番組で、三人には普通に旅行を楽しんできてもらうつもりだった。
そんな様子に、律は大きくため息をつく。
「瞳の反則技には慣れたけど、常識からの逸脱っぷりには慣れないわ……」
「それな」
「あのね、瞳。たとえば、私や円や美作の誰かが怪我や病気をしたとして、旅行に行けなくなったとするわ。自分に構わず行けと言われて、瞳なら行ける?」
「行けません」
「そうよね?」
「あー……そうですね。すみません」
「そういう時は、ありがとうでいいのよ」
「ありがとう、ございます……?」
よくできました、と微笑んで頷かれる。なんだか絵面はとてもシュールだ。
とりあえず、煮込みハンバーグは美味しかった。円はおかわりもしていて、瞳はまた作ってもらおうと心に決めた。
そして食事が終わってから、瞳は「お願いがあります」と切り出した。
「なんでしょう……?」
美作は若干緊張気味である。それはそうだ、神かとも思うくらいに崇めている人からの『お願い』である。
「シャワー浴びたいで……」
「ダメです」
「せめて最後まで聞いてください……」
「はい」
「傷口は極力濡らさないようにします。せめて、シャンプーしたいです。……ワックスでベタベタなんですよ……」
「ああ……」
美作は、やっと納得した顔をして、それから難しい表情になった。
「しかし一人ではちょっと……」
「あ、俺が手伝う!」
「ああ、それなら」
瞳は、何となく予想はついていたので、驚きはしなかった。やっぱりそうなるのか、とうなだれはしたけれど。
「せっかくだから半身浴くらいはしようぜ! 準備してくる!」
そう言って、瞳や美作の返事も待たずに浴室へ準備に走る円は、実にかいがいしかった。
浴槽に適量の湯を張り、バスタオルとタオルと瞳の着替えまでしっかりと準備する円は、いったいどこに向かおうとしているのか。
これだけのマメさがあれば、絶対に良い家庭が築けると思うのに。本人には全くその気がないのである。
「瞳ー! 準備できた! おいでー!」
浴室から呼ばれて、瞳は真顔である。
「……オレは子どもか?」
「お世話されてあげてください」
くすくすと笑いながら、どこかおかしな日本語を美作が使うから、仕方なく浴室へと足を向ける瞳であった。
(お世話されてあげますよ……)
いろいろ諦め顔である。
「すみません、デミグラスソースを余らせてしまいまして」
美作が申し訳なさそうに言う。お昼のオムライスだけでは使い切らなかったらしい。
そんな美作に瞳はふわりと笑顔を向ける。
「大丈夫です。それに、美味しそうなので」
むしろ早く食べたいです、なんて言葉まで口をついて出てしまう。
円や美作が作ったもので美味しくなかったものなんてないから、瞳の期待も膨らむのである。
円が瞳の椅子を、美作が律の椅子を引いてくれるから二人で座った。その後で円も美作も席について、食事が始まってすぐに、美作が瞳を見ながら不意に言った。
「瞳さま、腕の動かし方がスムーズになってますね……」
「えっ……」
美作の指摘に、円がギョッとする。
「ちょ、瞳!?」
何かやったの? という三人の視線を向けられて、たはは、と白状する。
「妖精たちにお願いしただけですから、霊力は使ってませんよ」
「妖精にお願いができるんですか……」
「そうですね。妖精によって『属性』があって、得意とする『お願い』はあるんですけど。たとえば『火』の属性だったら火起こしを手伝ってくれますし、『水』の属性なら水を集めてくれます。今回は『時間』の属性の妖精たちに、怪我をしている場所の時間を早めてもらったんです」
「それは……」
「反則技ですね……」
『反則技』発言に、やはり、と頭を抱える美作だが、そろそろ慣れてきた律と円は「そうなのか」などと言って聞いている。馴染んできたな、と思う瞳だ。いいかげん、美作にも慣れてもらいたいものである。
「結構たくさんの子たちが協力してくれたので、かなり回復してるはずです」
明日にも順番待ちの妖精たちがいるとは言わないでおこう。うん、その方が賢明だ。
そういえば、と。ふと瞳は気付いた。
「律さんの事務所はどうなってるんです?」
「あら、ちゃんとおやすみしてるわよ?」
「え? あー、すみません……」
瞳が手伝いをする条件を、律は守ってくれていた。
仕事の依頼を受ける時は瞳を通すこと。
「大丈夫よ。どうせ開店休業状態の事務所だもの。奈良旅行もキャンセルしておいたから、ゆっくり休むのよ」
「え?」
「……え、瞳あなた行くつもりだったの?」
「いえ、オレは行けませんけど……」
「まさか瞳を置いて行ってこいって言うつもり?」
「…………」
瞳が無言なのは図星を刺されたからだ。
瞳だけ留守番組で、三人には普通に旅行を楽しんできてもらうつもりだった。
そんな様子に、律は大きくため息をつく。
「瞳の反則技には慣れたけど、常識からの逸脱っぷりには慣れないわ……」
「それな」
「あのね、瞳。たとえば、私や円や美作の誰かが怪我や病気をしたとして、旅行に行けなくなったとするわ。自分に構わず行けと言われて、瞳なら行ける?」
「行けません」
「そうよね?」
「あー……そうですね。すみません」
「そういう時は、ありがとうでいいのよ」
「ありがとう、ございます……?」
よくできました、と微笑んで頷かれる。なんだか絵面はとてもシュールだ。
とりあえず、煮込みハンバーグは美味しかった。円はおかわりもしていて、瞳はまた作ってもらおうと心に決めた。
そして食事が終わってから、瞳は「お願いがあります」と切り出した。
「なんでしょう……?」
美作は若干緊張気味である。それはそうだ、神かとも思うくらいに崇めている人からの『お願い』である。
「シャワー浴びたいで……」
「ダメです」
「せめて最後まで聞いてください……」
「はい」
「傷口は極力濡らさないようにします。せめて、シャンプーしたいです。……ワックスでベタベタなんですよ……」
「ああ……」
美作は、やっと納得した顔をして、それから難しい表情になった。
「しかし一人ではちょっと……」
「あ、俺が手伝う!」
「ああ、それなら」
瞳は、何となく予想はついていたので、驚きはしなかった。やっぱりそうなるのか、とうなだれはしたけれど。
「せっかくだから半身浴くらいはしようぜ! 準備してくる!」
そう言って、瞳や美作の返事も待たずに浴室へ準備に走る円は、実にかいがいしかった。
浴槽に適量の湯を張り、バスタオルとタオルと瞳の着替えまでしっかりと準備する円は、いったいどこに向かおうとしているのか。
これだけのマメさがあれば、絶対に良い家庭が築けると思うのに。本人には全くその気がないのである。
「瞳ー! 準備できた! おいでー!」
浴室から呼ばれて、瞳は真顔である。
「……オレは子どもか?」
「お世話されてあげてください」
くすくすと笑いながら、どこかおかしな日本語を美作が使うから、仕方なく浴室へと足を向ける瞳であった。
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